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東方 白狐伝  作者: 蛸夜鬼
拾弐章 東風之社の巻
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第十話 幻想郷縁起

雪「幻想郷縁起?」


慧音「はい」


 守矢が起こした異変からまた数日⋯⋯人里の甘味処で、俺は慧音から一つ話を聞いていた。その話というのは、幻想郷縁起という書物の作者が俺に会ってみたいというものだった。


 幻想郷縁起⋯⋯確か、人里の『稗田家』当主が代々記す、妖怪の実態や幻想郷の危険地区を記録し、その理解や対策を啓蒙するための書物だったか。


 ただまあ、最近では『人間が妖怪から身を守るための書物』という物から『妖怪が自分の事をアピールするための書物』になっているそうだがな。人妖混じる幻想郷なら、きっと喜ぶべきなのだろうが⋯⋯。


雪「何故また、その作者が俺に?」


慧音「何でも話を聞いてみたい、だとか。多分雪さんの事を記したいのだと思いますよ」


雪「ふむ⋯⋯まあ別に断る必要も無いからな。分かった、良いだろう」


慧音「ありがとうございます。出来るだけ早い時が良いと言ってたので、明日の昼に稗田家へお願い出来ますか? これ、招待状になります」


雪「ああ、分かった」



─────



 慧音から話を聞いた翌日。俺は人里にある稗田邸の前までやって来ていた。人里の中でも一際大きな屋敷だ。それだけ稗田が有力な名家だと言うことだろう。


 その屋敷の入り口には番兵が立っており、俺が近付けば槍で入り口を封鎖する。


番兵「待て。稗田様の屋敷に何の用だ」


雪「慧音から、この屋敷の当主が俺と話をしたいと聞いてな」


 そう言って昨日慧音から預かった招待状を渡す。番兵はそれを確認すると、槍を戻した。


番兵「失礼しました。狐塚様の事は伺っております。どうぞ、お通りください」


雪「ああ、ありがとう」


 屋敷に上がれば、従者らしい者が案内をしてくれる。ふむ、外観から分かっていたが素晴らしい和風建築だ。中庭の造形も美しい。


 屋敷を歩き暫くすると、一つの部屋の前まで通された。


従者「こちらです。稗田様、狐塚様をお連れ致しました」


?「ありがとう。通して良いですよ」


 そう言われた従者は障子を開けてくれる。その部屋の中に入れば、1人の少女が大量の本が積まれている中机に向き合って何かの作業をしていた。それを中断すると、その少女は頭を下げて挨拶をしてくる。


?「お会い出来て光栄です、狐塚様。お噂は兼々。私がこの稗田邸の主にして御阿礼の子九代目、『稗田(ひえだの) 阿求(あきゅう)』と申します」


雪「あ、ああ。狐塚 雪だ」


 その少女然とした容姿とは裏腹に、知的な雰囲気を纏った阿求に面食らう。何を考えているのか分かったのか、阿求はクスリと笑った。


阿求「こんな小さな娘で意外でしたか?」


雪「ん、まあ⋯⋯そうだな。ところで噂というのは?」


阿求「はい。人里では慧音さんや妹紅さん。それ以外ですと幻想郷の賢者や閻魔様、紅い館に住む吸血鬼にもお話を聞いています」


雪「何?」


 もしやこの娘、紫だけならまだしも映姫やレミリアまで知り合いなのか?


阿求「フフッ、顔の広さだけなら狐塚様にも負けませんよ? 幻想郷縁起には確かに私なりに想像や補足をしている箇所もありますが、基本的には本人に話を聞いて書いているんですから」


雪「たまげたな⋯⋯人の身一つで人里から出るのは危険だろう? 怖くないのか?」


阿求「元々この身体は三十年前後しか生きられませんし、それに死んだとしても転生しますから」


雪「⋯⋯まさか、前世の記憶を持って転生出来るのか? 御阿礼の子九代目とは⋯⋯九回転生しているという事なのか?」


阿求「はい。正確には『幻想郷縁起の記憶とほんの少しの記憶』ですけどね。前世の記憶はほんの少ししか覚えていません。稗田阿礼の生まれ変わりというのも何となくでしか分かっていませんし」


 ⋯⋯何故、話をしに来ただけなのに稗田家のとんでもない話を知ってしまったのだろうか。阿求は特に隠す様子もなく話していたし、もしや俺が知らないだけなのだろうか。


雪「⋯⋯一つ聞いて良いか?」


阿求「はい」


雪「何故、その身体の寿命を縮めてまで転生する?」


阿求「それは私にとって⋯⋯いえ、御阿礼の子として幻想郷縁起が生の中心であるからです。確かに今ではただの読み物のような扱いですが、あれの本質は妖怪の理解や対策の啓蒙です」


雪「⋯⋯」


阿求「だから、その時代に合った読み物である必要があります。ただの歴史の書物であってはいけないのです」


雪「⋯⋯そうか」


 生の中心、か⋯⋯どうやらこの幻想郷縁起というものは、阿求にとっては転生するほどにどうしようもなく大切なものらしい。凄まじい熱意だ。


雪「なら、その熱意には最大限応えなければならんな」


阿求「理解していただき嬉しいです。ありがとうございます狐塚様」


雪「⋯⋯狐塚様はやめてくれ。むず痒くなる。雪で良い」


阿求「では雪さんと呼ばせてもらいますね」


雪「そうしてくれ」


阿求「では雑談も済んだところで、早速お話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」


 ⋯⋯あれを雑談で済ませて良い物なのだろうか。


阿求「雪さんは英雄伝の章に記させてもらいます」


雪「英雄なんて柄じゃないがな」


 その後、大分長い間阿求からの質問に答えていく。稀に良く分からない質問もされたが、出来るだけしっかり答えるように努める。気付けば外は夕方になっており、それに気付いたと同時に阿求からの質問も終わる。


阿求「有意義な話が聞けました。長々とすみません」


雪「構わん。長く話すのは慣れてる」


 主に紫の愚痴を聞かされて、だがな。


阿求「今回のお聞きしたお話はしっかりと幻想郷縁起に活かしますので、もし良かったら後日手に取ってみてください」


雪「楽しみにしている」


阿求「はい、本日はありがとうございました。もしかしたらまた何かお話を聞くかもしれませんが、その時はまたよろしくお願いしますね」


雪「ああ、いつでも言ってくれ。異変が無ければ基本的には暇してるだろうからな」


 そこまで話して、俺は稗田邸を去った。


 後日、幻想郷縁起の英雄伝に新たなページが加わったと聞き、折角だからと手に取って読んでみる。予想通り、俺の事が記述されていた。霊夢や紫にも付いている二つ名は、どうやら俺は『古き雪色の狐』。もしくは『何にも染まらない英雄』らしい。


 ⋯⋯自分が載っているのを見るのは、どうにもむず痒い。だがこれを見ていると自分も幻想郷の一員だと感じて、悪くないな。

 はいどーも、作者の蛸夜鬼です。今回は如何でしたでしょうか。今回の章も次回で終わり。新たな章に入っていきたいと思います。


 あ、ちなみに読者の皆様にお聞きしたいことがありまして。こういった本筋とは逸れた話⋯⋯いわゆる番外編は、今回の


『第十話 幻想郷縁起』もしくは

『番外編 幻想郷縁起』という表記のどちらが良いですかね? ひとまずは今まで通り進めていきますが、是非ともご意見を頂戴したいです。


 それでは今回はこの辺で。また今度、お会いしましょう!

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