第九話 神と狐と妖怪達の宴会
霊夢「結局⋯⋯あんたがちゃんと説明しなかったから起きた異変じゃないの!」
異変が解決してから数日。守矢神社の境内で、大きな宴会が行われていた。俺が参加した事のある宴会では、今までで一番大きいのではないだろうか。まあそれも、天狗や河童など山の妖怪達も幾らか参加しているからだろう。
そんな宴会で、俺は少し酔っている霊夢に責められていた。というのも、今回の異変が起きた経緯を話したら俺が諏訪子達に詳しく話していないからだと言うんだ。
雪「心外だな。俺はしっかり説明したぞ?」
霊夢「じゃあ何で異変が起きてるのよ」
雪「知らん。元凶に聞け」
霊夢「こんの白狐⋯⋯!」
青筋を立てている霊夢を無視して、天魔と話し合いをしている神奈子へと目を向ける。どうやら妖怪の山で神社の活動をする事について、それぞれの代表として話し合っているらしい。
天魔「成る程⋯⋯そちらの言い分は理解した。だが、この妖怪の山は我ら天狗を始めとした妖怪の聖域だ。人間の出入りなど認められん」
神奈子「意図していなかったとは言え、勝手に山の頂上に陣取ってしまったのは我々だ。だが信仰を集められないのは我々にとって文字通り命に関わるのだ」
天魔「うむ、それも理解している。だからこう言うのはどうだろうか? 山に人間を入れるのは認められんが、麓に分社を建てるのは許そう」
⋯⋯ふむ、聞いている分には順調な様だな。そういえば早苗と諏訪子はどうしているのだろうか。
魔理沙「何~? 異変を起こした奴ってのに、私の酒が飲めないって言うのか!?」
早苗「だから! 何度も言ってるじゃないですか! 私は未成年で、お酒は飲めないんです! 第一貴女も私と同年代ですよね!? 何で平然とお酒飲んでるんですか!」
どうやら早苗は魔理沙に絡み酒されているようだ。そういえば、あまりにも堂々としていたから今まで忘れていたが確かに霊夢も魔理沙も未成年だったな。早苗からしたら異質な光景か。
魔理沙「未成年だか何だか知らないけど、幻想郷じゃ私くらいの年で酒飲んだって咎められないぜ?」
早苗「むむむ⋯⋯それはそうかもしれませんが⋯⋯」
魔理沙「郷には入れば郷に従え、って言葉を教えてやるよ。お前も幻想郷の住人になったんだろ? じゃあこの場所のルールに則っても良いんじゃないか?」
ふむ、酔ってるにしては中々⋯⋯いや、魔理沙の事だ。それっぽい事を話しているが恐らく飲み仲間が欲しいだけだろう。
だが早苗にはそれが響いたらしく、恐る恐るといった感じで酒の入った杯を手に取った。
早苗「郷に入れば郷に従え⋯⋯成る程確かにそうですね。この幻想郷では、常識にとらわれてはいけないのですよね!」
⋯⋯これで早苗も酒飲みの仲間入りか? 後で飲み過ぎるなと言っておくか。それで、諏訪子は⋯⋯ふむ、どうやら鳥居の上で一人飲んでいるようだ。俺は適当に近くにある酒を持ち、立ち上がる。
霊夢「あ、ちょっと! また話は終わってないわよ!」
雪「すまん、またにしてくれ。今度美味い茶葉でも持って行くから」
霊夢「む⋯⋯忘れないでよ」
⋯⋯自分が言うのも何だが、それで良いのか博麗の巫女。霊夢の様子に少し呆れながらも、俺は諏訪子の隣に座った。
諏訪子「あ、雪」
雪「楽しんでるか?」
諏訪子「うん。ちょっとうるさいけどね」
雪「この幻想郷ではいつものことだ」
俺の言葉に諏訪子ははにかみながら杯を持ち上げ、俺は自分が持つ杯をカツンとぶつける。
二人「「乾杯」」
グッと杯を傾け、酒を飲み干す。そういえば、諏訪子とこうやって酒を交わすのは何百年ぶりだろうか。諏訪大戦に巻き込まれた、あの時代を思い出す。
雪「⋯⋯思えば、お前と稲穂が俺を掘り出してくれなければこうやって酒を飲むことも出来なかったかもしれないな」
掘り出してくれなければ、もしかしたら一生凍ったまま地の奥深くで目覚め、そのまま生き埋めになったかもしれない。そう考えれば、彼女らは俺の恩人と言えるのだろう。
諏訪子「アハハッ、そんな事もあったね。懐かしいなぁ⋯⋯いつの間にか、こんな遠い時代に来ちゃった」
そう言って、諏訪子は少し哀しげな目を空に浮かぶ月へと向ける。思い出しているのは、諏訪の国の住人達だろうか。
諏訪子「⋯⋯あの頃はさ、こんな事になるなんて思ってなかったんだよ。人間が神々への信仰を忘れるなんて、思ってなかった」
雪「⋯⋯」
諏訪子「でも、人間が“科学”なんてものを見つけて、神や妖怪が引き起こした現象にそれらしい科学的理由を付けて⋯⋯いつの間にか、私達は空想の存在にされちゃった」
雪「⋯⋯そうだな」
諏訪子「⋯⋯でもさ、別に人間を恨んではいないんだよ。きっと、縋るものが神から科学に変わっただけ。人間は、人間だけで生きていける様になったって事だから。嬉しい事だと思うよ」
そう言って諏訪子は微笑む。だが、その表情が寂しげなのはきっと気のせいじゃないだろう。
諏訪子「⋯⋯ごめん。折角の宴会だってのに少し湿っぽくなっちゃった。まあでも、悪いことばかりじゃないよ。こうやって雪とまた酒盛り出来た事だしさ!」
雪「ああ、そうだな。俺も人里の近くに家を構えている。神だから好きなようにとはいかないだろうが⋯⋯いつでも顔を出すと良い。安酒と軽いつまみくらいなら出せる」
諏訪子「えー? 折角こっちから顔を出してあげるんだから、安酒と言わず大吟醸とか出せたりしないの?」
雪「意外とがめついな⋯⋯一体何様のつもりだ?」
諏訪子「文字通り神様でーす」
雪「⋯⋯フッ」
諏訪子「フフッ」
その言葉に笑いが零れ、諏訪子もケロケロと笑っている。
諏訪子「ねぇ、折角だから今までの旅のお話とか聞かせてよ。ここ数百年、一体どんな事があったのか気になるからさ」
雪「良いだろう。そうだな、では十人の声を一度に聞ける娘との出会いの話から─────」
こうして俺は時間を忘れて、諏訪子に今までの旅の話を始める。きっと夜明けまで話しても語りきれぬだろうが⋯⋯だがまあ、これからはすぐに会えるんだ。ゆっくり、一つずつ話すとしよう。
はいどーも、作者の蛸夜鬼です。今回はいかがでしたでしょうか?
今回の章も残り数話。次回は幻想郷縁起を交えた話を書こうと考えています。あの人もまだ登場してませんでしたからね。
それでは今回はこの辺で。また今度、お会いしましょう!