第五話 技術家な河童
雪「⋯⋯ん?」
雛と別れ、天狗の縄張りを離れた場所で山を登っていると何やら水が流れる音が聞こえてくる。そういえば以前妖怪の山を散策した時、川を見付けたな。あの場所に来たのだろうか。
雪「少し休んでいくのも悪くないかもしれないな」
そう呟き、俺は川があるらしい場所へと足を進める。暫くすると森が開け、紅葉の木で囲まれ、小さな滝から流れる川は日の光に照らされ輝いている⋯⋯美しい渓流が目の前に現れた。
雪「はぁ⋯⋯これはまた素晴らしい景色だ⋯⋯」
妖怪の山は他の場所と比べて自然の美しさを見せてくれる。自然とため息が出てしまう程だ。まさに幻想郷⋯⋯カメラがあれば写真に撮りたい程なんだが⋯⋯。
雪「ふぅ⋯⋯」
木にもたれ掛かると持ってきていた水を飲み一息吐く。秋の涼しい風が心地良い。
⋯⋯そういえば、この辺りは河童の縄張りだったか。名前だけ聞けば緑色の体に黄色い嘴、頭には皿が乗っている姿を想像するが⋯⋯天狗といい、鬼といい、比較的人間に近い姿をしているから河童もそうなのだろうか。
雪「⋯⋯ん?」
そんなことを考えていると視界の隅に何かが映る。それへと目を向けると、川からゴム質のロープのようなの先に、巨大な手がついた謎の物体が伸び、傍らに置いていた秋姉妹から貰った芋を掴んでいた。
その手はスルスルと芋を掴んで川底へ沈んでいく。そして暫くして、また伸びてきて芋へと手を伸ばした。
雪「⋯⋯フンッ!」
?「ひゃああああ!?」
俺はその手を掴むと思い切り引っ張る。すると川から巨大なリュックサックを背負った少女が飛び出してきた。
?「ぶべっ!」
少女は地面に落下すると、ぶつけた顔を押さえながら身体を起こす。
?「い、いてて⋯⋯」
雪「おい」
?「ひゅい!?」
俺が声を書けると少女は恐る恐る振り向く。そしてリュックを背負い直し、服についた砂を払うとビシッと手を挙げた。
?「それじゃ、そういう事で!」
雪「待て、逃げるな」
?「ひゃあ! えっ、ちょっ、何これぇ!?」
俺は地面を凍らせて少女の足を滑らせると、そのまま地面の氷を操って氷の腕を生やし、こっちへ連れてこさせる。そして目の前に正座させた。
雪「⋯⋯お前、名前は?」
?「か、『河城 にとり』です⋯⋯」
雪「そうか。俺は狐塚 雪という。さてにとり。何で俺の芋を盗んだ」
にとり「お、お腹空いてまして⋯⋯」
雪「成る程。確かにそれは大変だ。だが人の物を盗むのは感心しないな。だが⋯⋯」
そして俺は目の前に座るにとりに説教を始める。映姫じゃないが、かなり長々と話をしてしまった。
雪「⋯⋯というわけだ。分かったか?」
にとり「は、はい⋯⋯」
雪「なら良し。ところでさっきの手は何なんだ。そなリュックから伸びていたように見えたが」
そう聞くとにとりはさっきまでの落ち込んでいた雰囲気から一変して、目をキラキラと輝かせながらズイッと顔を近付ける。
にとり「! 聞きたい!?」
雪「あ、ああ」
にとり「なら教えてしんぜよう! これはっ⋯⋯!」
にとりはそう言って立ち上がったが、次の瞬間顔をしかめて座り込む。
雪「どうした?」
にとり「あ、足が痺れて⋯⋯」
結局、暫くにとりの足の痺れが取れるまで待つことになった。
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にとり「それじゃ気を取り直して⋯⋯教えてしんぜよう! これは私の発明品、のびーるアーム! こうやって遠くに離れたものを掴むことが出来るんだ!」
にとりはリュックから伸びたのびーるアームとやらを自由自在に動かす。幻想郷でこんなものを個人で作れる技術者がいるのか? にとりは一体何者だ。
にとり「他にもこの服は光学迷彩が組み込まれているし、私の家には色々と揃っているよ!」
雪「光学迷彩だと? 凄いなにとりは。こんな技術を持っているとは」
にとり「そりゃあ、私は河童だからね! このくらいは簡単だよ!」
雪「ん?」
にとり「ん?」
河童と、言ったか? 俺の知っている河童とは似ても似つかない姿だが⋯⋯やはり天狗や鬼と同じく人間とほぼ同じ姿をしているのか。
にとり「どうかした?」
雪「いや、俺の知っている河童と似ても似つかぬ姿をしているのでな」
にとり「あー、緑の肌に黄色の嘴ってやつ? あれ人間が見間違えた姿が伝わっちゃったらしいんだよね。緑色の服を着た河童が懐中電灯咥えながら作業してたらしいんだけどさ。それを見られちゃったらしくって。合ってるのは皿があるくらい?」
成る程。緑色の肌は服で、黄色の嘴は懐中電灯の光か。暗闇で良く見えなかった事で見間違えたのだろう。
それにしても、にとりの技術はまたいつか世話になりそうだな。
にとり「ところで雪はどうして妖怪の山に? ここに住んでいる訳じゃないだろ?」
雪「ん、ああ。この山の頂上に現れたという神社に用があってな」
にとり「あれかぁ。なあ雪。あそこに行くんだったら文句行ってくれないかな。あれが急に現れたせいで仲間が不安がっててさ」
雪「分かった。それじゃあ、今度は人の物を盗むなよ」
にとり「分かってる。もう怒られるのは勘弁だよ」
そう言って俺はにとりと別れ、また頂上を目指す。そろそろ頂上に着いてもおかしくない距離だ。
雪「取り敢えず幻想郷へやって来た歓迎の挨拶と⋯⋯何でこうなったのか聞かなければな」
はいどーも、作者の蛸夜鬼です。今回はいかがでしたでしょうか。
私最近、今更ながらダンボール戦機のゲームにハマりました。機体を好きなようにカスタム出来るのはやっぱり面白いですよね。皆様はどのようなゲームが好きでしょうか?
それでは今回はこの辺で。また今度、お会いしましょう!