第三話 秋を司る者達
雪「まったく⋯⋯ついてこいと言いつつ勝手に先へ行ってしまうのはどうなんだ?」
ここは妖怪の山の山中。魔理沙に連れられ異変解決の為にここへやって来たは良いものの、彼女はさっさと先に行ってしまい、俺は置いてけぼりにされてしまった。
折角だからと徒歩で山登りをしているわけだが⋯⋯いつもならわらわらとやって来る天狗が襲ってこないな。全員霊夢や魔理沙を追っているのか、天魔が口利きしてくれたのか⋯⋯そういえば、遠くから見て分かったが妖怪の山もすっかり紅に染まっているな。だが、この辺りは特に見事に染まっているように見える。
?「穣子。もうこれ良いんじゃない?」
?「まだ駄ぁ目。焼き始めたばかりだよ? お芋は低温でじっくりじっくり焼くことで甘さが増して美味しくなるんだから」
雪「む?」
紅葉狩りを楽しんでいると話し声が聞こえてくる。その声が聞こえてくる方向へ歩いて行くと、鮮やかな赤が似合う二人の少女が少し開けた場所で焼き芋を行っていた。
?「ん? 誰か来たよお姉ちゃん」
?「本当だ。どなた? 私達に何か用?」
雪「いや。歩いていて通り掛かっただけだ」
?「ふぅん⋯⋯今お芋を焼いているんだけど、どう?」
そう言って帽子を被った少女が手招く。ふむ、まあ今回の異変は急ぐようなものでもないからな。折角だし戴こう。
雪「ならお言葉に甘えさせてもらう。俺は狐塚 雪という。二人は? 見たところ姉妹だと思うが」
?「正解。私は『秋 静葉』。紅葉を司る秋の神よ。私が姉で、この子が妹の穣子」
?「私は豊穣の神、『秋 穣子』だよ。よろしく雪さん」
雪「二人とも秋の女神だったのか」
成る程、確かに二人から神力が感じ取れる。神というのは本当なのだろう⋯⋯神と言われてそこまで驚かないのは、やはり神慣れしてしまっているのだろうな。月読しかり、天津神しかり、アイツらしかり⋯⋯。
穣子「うん。ところで雪さんはどうしてこの妖怪の山に?」
雪「友人に異変解決だと無理矢理引っ張って来られてな」
静葉「その友人さんは?」
雪「俺を置いて先に進んだ」
穣子「えぇ⋯⋯」
雪「悪い奴ではないし、あの活発さは可愛げも感じるんだがな」
そんな話をしている内にどうやら芋が焼けたようで、穣子は焼き芋を新聞紙で包んで渡してくる。それを受け取り半分に割ると、黄金色の中身が甘い匂いを漂わせながら現れた。
雪「ほう、これは中々⋯⋯」
穣子「美味しそうでしょ? それ、収穫祭の時に人里のみんなから貰ったの」
雪「収穫祭⋯⋯ああ、そういえば人里でやっていたらしいな」
俺は守矢神社を幻想郷へ送るためこっちと外界を行き来していたからな⋯⋯思えば収穫祭どころか夏祭りにも参加出来ていなかった。来年はゆっくり出来れば良いんだが⋯⋯。
そんなことを考えながら焼き芋を一口食べると、ほくほくとした芋の甘さが口に広がった。これは凄い。今まで食ってきた芋の中でもかなり甘いんじゃないか?
雪「うん、美味い。良い芋だな。これも穣子が豊穣を与えているお陰なのか」
穣子「そう思ってくれて嬉しいけど、人里にあんまり豊穣を授けられていないんだよね」
雪「そうなのか?」
穣子「うん。収穫前に呼ばれないと豊穣を約束出来ない⋯⋯力の意味が無いんだけど、いつも収穫祭に呼ばれるから。だから、そのお芋の美味しさは人里の人達の力だよ」
雪「ふむ⋯⋯」
確かに豊穣を願うのなら収穫した後に願っても意味が無いな。今度慧音にでも話して穣子が豊穣を授けられるように相談してみようか。
雪「⋯⋯そういえば、この辺りの紅葉は特に見事だな。これは静葉が?」
静葉「美しいでしょ? 毎年秋になると、一枚一枚丁寧に染めていくの」
雪「一枚一枚? 手作業なのか?」
静葉「ええ。丁寧に染めていくからこそ、紅葉は美しく山を紅く映えさせるの」
穣子「でも手作業だから色にムラが出てるよね」
静葉「それもまた一つの美しさよ」
穣子「むっ⋯⋯」
成る程。確かに良く見ると黄色や赤茶色に染まっている葉も見える。しかし浮いている訳でもなくさり気なくそれは混じり、寧ろ紅葉の美しさを際立てている。
雪「静葉の言うとおり確かに美しいな。今まで様々な場所を旅してきたが、この場所ほど紅葉が見事な場所は見たことがない。しかも一枚一枚染めているというのだから、静葉には感嘆する」
静葉「ふふっ、そうでしょう?」
穣子「むぅ⋯⋯秋といえば食べ物! 食欲の秋って言葉があるくらいだもん。豊穣の方が秋らしいもん!」
雪「む?」
静葉「それは聞き捨てならないわ穣子。秋といえば紅葉。紅葉狩りなんて言葉が生まれるくらい、秋を代表する一つなのだから。紅葉の方が秋らしいわ」
穣子「私の力と比べられて、この間『葉っぱは食べられない』って言われた癖に!」
静葉「なっ⋯⋯触れてはいけない所に触れたわね!」
雪「お、おい⋯⋯」
秋姉妹「「私の力が一番秋らしい!」」
二人は突然言い争いを始めたと思うと、自分が一番だと喧嘩を始める。俺は突然の事態に混乱しながらも、急いで二人の襟首を掴んで引き剥がす。
雪「落ち着けお前ら。人前で急に争うんじゃない」
穣子「だ、だってぇ⋯⋯」
静葉「じゃあ雪さんはどっちが秋らしいと思うの?」
雪「俺か? ふむ⋯⋯そうだな」
俺は二人を降ろすと静葉の質問について考え込む。どっちが秋らしい、か⋯⋯全く関係ないが俺が一番好きな季節は冬なんだが、それを言ったら逆鱗に触れるだろうな⋯⋯っと、そんな事は今はどうでも良い。
雪「⋯⋯まあ、秋らしいというか、真っ先に秋を感じるのは紅葉だな。実際、家でも紅葉が庭に落ちてきたとき秋が来たと感じたからな」
それを聞いた静葉は得意気に穣子へ顔を向け、穣子は悔しそうに顰める。
雪「だが、秋の恵みを感じられるのは豊穣を受けた食べ物の方だろう。芋類やキノコ類、根菜の多くだって秋が旬だ。ブドウや梨も美味いな。稲だって秋に大粒の穂を実らせそれを収穫するだろう」
秋姉妹「「っ!」」
雪「こういった答えは気に入らんかもしれないが⋯⋯紅葉が秋の訪れを知らせ、豊穣が秋の恵みを人々に与える。どちらも秋らしさを感じるし、どちらも秋には無くてはならないもの⋯⋯と、俺は考えるがどうだ?」
秋姉妹「「⋯⋯」」
俺の言葉に二人はポカンと口を開け、顔を見合わせた。暫く沈黙が続き、静葉が口を開く。
静葉「そうね⋯⋯紅葉も豊穣も、どちらか片方が無くなっては秋は成り立たない。そんな単純な事、すっかり忘れていたわ。ごめんなさい穣子」
穣子「ううん。こっちこそごめんね、お姉ちゃん。そうだよね、お姉ちゃんの紅葉が秋の訪れを知らせるから、人間のみんなが豊穣に気付いてくれるんだもん。優劣なんて、関係無かったよ」
ふむ、何とかなったな⋯⋯何で俺は吸血鬼姉妹と言い、古明地姉妹と言い、この秋姉妹と言い、姉妹のいざこざを解決せねばならんのだ? 俺が巻き込まれるのが悪いのか⋯⋯?
静葉「雪さん、今回はありがとう。お陰で大切な事を思い出せたわ」
雪「いや、別に構わん。こういった事には慣れているからな。さて、長居してしまったな。そろそろお暇させてもらう」
穣子「あ、待って! 折角だしこのお芋、ささやかなお礼だけど何個か持っていっちゃって!」
そう言って穣子は数個の焼き芋を包み、渡してくる。流石に一人でこの量はキツいんだが⋯⋯異変が解決したら霊夢や魔理沙に分けるか。
雪「ああ、ありがとう。また会おう、二人とも」
静葉「ええ。気を付けて」
穣子「バイバーイ!」
二人に別れの言葉を伝え、俺は貰った芋を抱えながら山を登る。今度、秋が旬である外界の食べ物でもお土産に持ってこようか。
はいどーも、作者の蛸夜鬼です。本日はクリスマスですね。皆様はどのようなご予定があるのでしょうか(禁忌
まあそんな事はさておき実は読者の方から、はるか様が描かれている、菅牧 典の立ち絵を改変した、雪と焔の支援絵を戴きました。本当にありがとうございます!
結構な数を作ってくださったので、その中から特に気に入ったものを数枚厳選してTwitterで紹介させていただこうと思います(作ってくださった方には許可は取ってあります)。
それでは今回はこの辺で。また今度、お会いしましょう!




