第七話 また、いつか
雪「それでお前らは最近何をしてるんだ?」
豊姫「私はここに着くまでに言ったわね~。月に紛れ込んだ生物を地上に帰したり、穢れを感知する仕事をしてるわ」
勇也「俺はまだまだ現役軍人っスよ! と言っても、妖怪とかが月に攻め込んで来る事なんて殆ど無いんで訓練ばっかっスけどね」
明理「私は退役しました」
雪「そうなのか?」
明理「はい。悠里が生まれて、この子のお世話であまり仕事に行けなくなってしまったので⋯⋯この際、専業主婦としてやっていこうかなって思いまして」
雪「成る程な」
育児を行っている人の典型的な例か。まあ、悠里もまだ幼い様だし、勇也が家族三人で暮らしていける分の給料を貰っているのならそれも一つの選択なのか。
悠里「悠里はね、小学校入ったの! 引き算できるようになったんだよ!」
雪「それは凄いな。学校は楽しいか?」
悠里「うん! お友達もね、たくさーんできたの!」
雪「そうかそうか」
勇也「⋯⋯妙に子供の扱い手慣れてるっスね。地上にお子さんがいたり?」
雪「そんな訳無いだろう。長旅の間にも子供と関わる事があったから慣れただけだ」
実際今でも人里の子供の遊び相手になることもあるからな。子供の相手は自然と慣れた。
勇也「って言うか、隊長もいい歳なんだからお相手見つけたらどうっスか? 旅の間に出会いとか無かったんスか?」
明理「ちょっと勇也、隊長に失礼でしょ」
雪「⋯⋯と言うか、いつまでお前らは俺達の事を隊長呼びなんだ?」
もう俺は部隊から退いた(というか死亡扱いになっている)身だ。いつまでも隊長呼びなのはおかしい気がするんだが⋯⋯。
勇也「う~ん、何か今更別の呼び方すんのは違和感があって⋯⋯」
明理「そうですね。それに、私達にとって隊長はいつまでも隊長ですから」
雪「そう、か。まあそれならそれで良いんだ」
二人の言葉に少し気恥ずかしさを感じていると、客間の扉が開いて依姫と霊夢が入ってくる。霊夢の顔は少し暗い。多分依姫との勝負に負けたんだろう。所で他のみんなはどこに行ったんだ?
依姫「隊長! お久しぶりです、月に来たのなら挨拶くらいして下さったら良いのに⋯⋯」
雪「いや、アイツらを連れてきた手前な。所で霊夢以外のみんなは? 何故霊夢だけここに?」
依姫「地上に帰しました。彼女には一つやってもらいたい事があるので、ここに残って貰いました」
雪「ふむ⋯⋯」
俺は席を立つと霊夢の傍に寄る。
雪「依姫に勝てなかったか」
霊夢「⋯⋯うん」
雪「そうか。だがまあ、仕方ないとも言える。お前は生まれてまだ20年も経っていないのに対して、依姫は数億年も生きているからな。経験の差というものがある」
霊夢「⋯⋯」
雪「だが、お前にはまだまだ伸び代があるだろう。お前の生まれ持つ天才的な能力と鋭い勘にも磨きが掛かる筈だ。今負けても、いつか勝てる日がきっと来る。焦らなくても大丈夫だ」
霊夢「うん。分かった」
霊夢が頷くのを見て、俺は彼女の頭を優しく撫でる。霊夢はむず痒そうにしていたが、特に反抗もしないようだ。
⋯⋯いつもの無愛想な態度より、このくらい可愛げがあれば良いのにと思うのはおかしいのだろうか。
雪「それで、霊夢にやって貰いたい事とは?」
依姫「神降ろしをして見せてほしいのです」
豊姫「彼女が神々を降ろしていたから、依姫に謀反の疑いが掛かってるのよね。だから彼女に神降ろしをして貰って、依姫の疑いを晴らしたいの」
雪「成る程な。どれくらいで帰らせてもらえる?」
霊夢は博麗の巫女。幻想郷には必要不可欠な存在だ。あまり長い間幻想郷から出ていては困るんだが⋯⋯。
依姫「数日、といった所でしょうか」
雪「ふむ⋯⋯霊夢が帰る間、暫く月に滞在したいんだが、どこか住んでも良い場所はあるか?」
霊夢「待っててくれるの?」
雪「お前一人を放って帰る訳にもいかんだろう」
豊姫「あら~、それなら二人とも私達の家に泊まっても良いわよ」
雪「そうか? ならお言葉に甘えさせてもらおう。数日、世話になる」
その後、用事が終わるまでの数日間、俺と霊夢は綿月家で世話になった。俺は街中を散策したり、依姫達や久しい友人と飲み交わしたりと、少し観光気分を楽しんだ。
また、勇也に頼まれて軍隊の稽古も付けた。古代程では無いが、今の軍隊も中々洗練された技術を持っていたな。
そういえば、街中で幽々子と妖夢に似た二人組を見つけたが⋯⋯まあ、世界には同じ顔をした人物が三人いると言うからな。アイツらがここに来た訳では無いだろう。
そして、一週間程が経った頃だろうか。どうやらいざこざが終わったらしく、地上に帰る日がやって来た。
雪「世話になったな」
依姫「いえ。またいつでも来てください。雪さんなら大歓迎です」
勇也「また飲み交わしたいっスね。今度機会があったらそっち行っても良いっスか?」
雪「ああ、いつでも訪ねてこい」
明理「隊長、ありがとうございました。ほら悠里、バイバイは?」
悠里「バイバイ、雪お兄ちゃん」
雪「ああ、バイバイ悠里。また今度遊ぼうな」
悠里「うん!」
霊夢「お別れは済んだ? というかその荷物は何よ」
雪「月の土産だ」
月の都で作られた酒やら、豊姫から半分押し付けられた桃やらだな。月の酒は雑味の無い、すっきりとした味わいの酒だな。地上の酒とはまた違った美味さがある。
豊姫「じゃあ、送るわね~。また会いましょう雪さん」
その豊姫の言葉と共に視界が歪んだと思うと、気付いた時には博麗神社の境内に立っていた。
雪「帰ってきたか。それじゃあ俺は家に帰らせてもらうが⋯⋯ほら」
霊夢「何これ、お酒?」
雪「月の酒だ。お前も色々大変だったからな。ご褒美じゃないが、取っておけ」
霊夢「そうさせて貰うわ。じゃ、またね雪」
雪「ああ。またな霊夢」
霊夢が神社に向かっていくのを見送ると、俺は自分の家へと向かう。
⋯⋯また、いつかアイツらと会える日が来るだろう。今度は純粋に、何のいざこざも無く会いに行けると良いな。
はいどーも、作者の蛸夜鬼です。大っ変申し訳ありません! 今日13時前になるまでと思ってゲームやっていたらすっかり忘れてしまって⋯⋯と、投稿したので許してください⋯⋯。
は、話が変わりまして次回からですが、二、三話程度の閑話を書こうと思ってます。以前書けなかった雪と映姫様の出会いとか書こうかなと。
あ、あと先々週くらいに私の通っている学校で例のウイルス感染者が出てしまったらしく、一週間休校となりました。感染予防等しっかりして、感染しないように心掛けたいですね。
さて、それでは今回はこの辺で。また今度、お会いしましょう!