伽藍堂
ーー神奈川県 横浜のある街のある学校ーー
「また全教科100点なの!?ほんとすごいね空は!
羨ましすぎるよー!その頭脳を私にも分けてー!」
「ちょっとやめてよー玲奈、頭ぐしぐししないでー!
ヤマが当たっただけだから!何もすごくないよー!」
「嫌味を言うのはこの頭か!この頭なのか!うりうりうりー!」
「そこらへんにしな玲奈。空が嫌がっているだろ?」
「そだね、そろそろやめるとしますか
空、次は勉強教えてね!約束だよー!」
「分かった分かった、覚えていたら教えてあげる。覚えていたらね」
「あー!それ絶対教えない人の常套手段じゃん!うー!?」
「ちょっと海彩職員室にちょっと来てくれ、進路のことで話がある」
「ーーーわかりました、先生。今行きます」
「行ってらっしゃーい!空、今日は一緒に帰ろうねー!」
「うん、じゃあ教室で待ってて!すぐ終わるから!」
「早く来い、海彩。先生は暇ではないぞ」
「ーーー今終わりました、そっちに向かいます」
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ー職員室ー
先生たちの多忙の声が部屋中に響き渡る
全生約850人を10分の1にも届かない大人たちが管理しているのだ。忙しくないはずがない
そんな中、先生は軽くゆっくり紅茶を飲んでいる。
「……で、話だ海彩。お前、本当に進学を考えていないのか?
お前ならどの大学にでもいけると思うが……」
「はい先生。私は進学は考えていません、この意思を変えることもありません。
それは絶対です」
「そこまでして進学を考えていないということは何かやりたいことでもあるのかね?」
「はい。私には高校を卒業したのち、世界中を見て回りたいと思います。
そのためには大学に行く時間は一秒たりともないんです」
先生は黙る。沈黙が続く
長いように感じるが実際の時間にして10秒。
この雰囲気が苦手な人も多いだろう
そうしてようやく重い口が開く
「……そうか、お前には夢があるのか、じゃあ俺からは何もいうことはないな。
ただの生徒なら無理だとバカにしているがお前の目からは力強さがある
そんな生徒の目を見たらもう言うことはないさ
ーーーそれにあいつと虎子先生の娘だからな、お前ならどこででも生きていけそうな気がするさ
……たまには帰ってきて話を聞かせてくれよ。何を見てきたか。とか
ーーーじゃあ話は終わりだ、もう教室に戻っていいぞ!
また明日元気な顔で登校しろよ!」
「ありがとうございます、先生。また明日、よろしくお願いします」
そうして彼女が出て行った後職員室のドアが閉められる
「……まさかあいつと同じことを言うとはな、
血が繋がっていないとはいえやっぱりあいつの娘だな…」
「そうですよ!司馬先生、それに虎子先生の娘さんなんですから
野生児のようにどこまでも生きていけるでしょう!あいつは!」
「言い過ぎじゃないですか、竹中先生?あいつはそこまで……
いやあいつならありえるな……ハハハハハ」
アハハハハハと職員室の中で笑い声が響く。今このひと時は仕事の多忙さを忘れたかのように
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「この道もほんと変わらないよねー!昔ながらの街って感じだよ、ほんと♪」
「玲奈はほんといつも元気だね、私はそっちの方が頭の良さより大事だと思うわ」
「別に頭がいいだけだったら何も言わないよ!
空は見た目もスタイルも何もかもいいじゃん!
整った顔立ちに青混じりの黒髪、お目目もパッチリ、身長も年齢にしたら高いし
健康診断の時見たけど体重も軽い!足も長い!
『天は二物を与えず』って言うけど
空は天に愛されすぎ!二物、三物どころか十物くらい与えられてるんじゃないってくらいじゃん!
そりゃあ嫉妬もしますって話ですよ!ほんと!」
「アハハハ!ありがと、玲奈!そんなに思ってくれてるなんて私は嬉しいよ!」
「ちょっと暑いよー、抱きしめないで〜空〜!」
「だーめ!さっき頭クリクリされた仕返しだー!抱きしめ続けてやるぅ!」
『アハハハハハ』と2人の笑い声が帰り道にこだまする
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「じゃあ、そろそろお別れだね空!また明日!」
「うん、じゃあまた明日!」
友達と別れ家まであと2kmほど歩き続ける
家に到着するまで道中、いつもと変わらない道。
八百屋のおじさんはいつも通り私に学校帰り会と尋ね、
買い物に来たおばさんたちと少したわいない会話をし、
下校中の子供たちと足を揃えて帰っていく
そうして道を越え、周りの家より一際大きい木の家、もとい自宅に辿り着く
今日が終わりであると感じさせる夕焼けとともに家の中に歩き出す
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「ただいま、お母さん」
玄関からそう呼応する声は壁を伝ってキッチンまでこだまする
その呼応に帰ってくるのは母親と思しき女性の声
女性の声は野獣のような力強さを感じさせるとともに
母獅子が子獅子に向ける愛情のようにも感じる
「おかえりなさい!空ちゃん!学校楽しかった?
ご飯も出来てるよ、今日は肉じゃがなの!
味見したけどちょーおいしかったのってなんの!ほめてほめて!」
「うん!部屋にカバン置いたらすぐ行くよ!肉じゃが楽しみ!」
「んで、今日は学校で何かあった?」
テーブルを彩る料理たちは見るだけで食欲をそそる
そんなご飯を肉食獣のように貪りながら彼女はそんなたわいもない事を聞く
「んー?別に何もなかったよ?
いつもと変わらない日常、いつも通りの平凡な生活だよ?」
「ふーん、何か非日常でも起こらないかなー、
とか思わないの?ある朝起きたら突然入れ替わっているとか、美少女の吸血鬼が突然転校してくるとかさ!」
「ないよ、そんなの小説や漫画じゃないんだから
お母さんももうそんな歳じゃないんだから妄想も大概にしないと周りから引かれるよ?」
「はいはーい、気をつけまーす」
「うんそれでよろしい」
「あ、なまいきー!!、もうご飯作ってあげないよ!」
「あはは!ごめん、ごめん」
そんなたわいもない会話をするさなか
突如テレビから流れる映像に母親の視線が向く
「...近くで殺人事件があったみたいね、気をつけなさいよ空。空はちょーかわいいんだから!夜道には特い!」
「はいはーいわかってますよ!可愛い私は狙われないように頑張ります。」
『さて、では次は特集です。七年前に突如消失したテロr』
じゃあそろそろ片付けましょうか
そう言った母親はテレビを消し食器を運ぼうと机を立つ
少女は母親の負担を減らそうと
家事を手伝おうとする
ーーーが、
「いいよー、別の手伝わなくても!学生の本分は勉強と遊ぶこと!家事は私の仕事!ささっ早く部屋へ行った!」
少女は少し躊躇したが
せっかくの母親のありがたいお言葉なのだと甘えることにした
「じゃあ、勤勉な私はお風呂に入ってそのあと
お母さんと遊んであげる!学生の本分は 遊ぶことだからね!もちろん拒否権はないよ」
「仕方ないわね、早くお風呂に入って来なさい!」
「はーい、部屋に服置いてるからそれ取って早くお風呂に入りますよーだ」
「うふふ、空はいつも元気ね」
「余計なお世話!」
そう言った少女は早急にキッチンから脱出し二階にある自室へ向かうそうして部屋の前へと立ちドアノブを持ちドアを開き自室へ入る。
ーーーーーーー否、そこは部屋ではなかった
少女が見たのはいつもの自分の部屋ではなく
小さな羽の生えた人達、人間が妖精と形容する存在があちこちに飛び回っている
現実とは思えないような森の中にいた