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デッド・オア・キス  作者: 夕凪渚
1章 ヴァルエスト大陸〜初めてのマギアビースト〜
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2話 『キス!?』

「ちょっと待ちなさい」


  エーベルトは教室を出ようとしたとき、壁に背を預けて立っていたユリアンネに袖を引っ張られた。一体何の用だろう。


「どうしたんだ?」


「どうしたんだじゃないわよ全く⋯⋯」


  そう言いながらピンク色の髪の毛を指先でくるくるとする。


「あなた、本当にライムント様の弟だったのね」


「だから言ったじゃないか。本物の兄弟だって。なんであんなに信じてくれなかったんだ?」


  エーベルトは聞きたかったことを聞いた。信じてもらえないのも当然ではあるが、そこまで信じなかった理由をエーベルトは知りたいのだった。


「だって、あなた魔法(マギア)試験最下位でしょ? それって、魔法(マギア)に関しての知識、経験がないってことじゃない」


「ああ、そうなるな」


「それが信じられなかった理由よ」


  それに――と付け加えてユリアンネ。


「⋯⋯羨ましかったのよ。私、アレクシア家の貴族なの。それで兄弟っていうのが羨ましかったのよ。ましてやライムント様と兄弟だなんて」


  ユリアンネはうつむき加減にそう言った。


「なるほどな――って! お前貴族なのかよ!?」


「驚くとこそこ!? そ、そうよ! それが何か?」


  ユリアンネがそう言うと、エーベルトは頭を下げ謝罪した。理由は単純。会ったときから下に見ていたからだ。


「ちょっといきなりなによ!? 頭上げなさいよ!――まさか! そういうの嫌いなの! 普通の対応をして!」


「わ、わるかった。お前を下に見ていたことを謝りたかったんだ」


「くっ! (かん)に障るけどまぁ許してあげるわ」


  などと、教室前でやり取りをしていると突然放送が流れた。


『エーベルト・カールマー、至急職員室へ来い』


  という放送が流れた。


「え、俺か? 何か悪いことしたか?」


  今日は入学初日。当然悪いことなどできない。いくら考えても答えは出てこなかった。


「そんなことより早く行きなさいよ! 怒られるわよ!」


  エーベルトが顎に手を当て考えていると、後から背中を押された。


「お、おう。じゃあ行ってくる」


  エーベルトはユリアンネにそう言い残し、早足で職員室へ向かった。




 ▲




  エーベルトが呼ばれた場所に着くと、そこにはエーベルトたちの担任のヴェローザとエーベルトの兄のライムントがいた。2人とも何やら険しい雰囲気を出しながら書類を見ている。


「あの⋯⋯なぜ俺はここに呼ばれたんですか?」


  ヴェローザに多少ビビりながらも素直に尋ねると、ヴェローザが書類を置いてから口を開いた。


「いきなり呼んですまなかったな。まぁ少し話があるんだ」


「いえ。それは全然いいんですが⋯⋯何かあったんですか?」


  今の2人の顔つきはとても険しかった。まるで殺人事件の書類でも見ているような顔で見ている。しかし、たとえ殺人事件が起こったとしても、エーベルトが呼ばれる意味が分からなかった。


「単刀直入に聞く」


「はい」


  唾をゴクリと飲んだ。


「『マギアビースト』というのを聞いたことがあるか?」


「マギアビースト⋯⋯聞いたことあります」


  そう。エーベルトは聞いたことがあった。実際に見たことはなく、本で読んで知ったのだが、大昔、五大陸で戦争(マギアゲール)を行っていたとき、突如として現れた魔獣、と聞いたことがあった。


「そうか。それなら話が早い。つい先日、マギアビーストがこのヴァルエスト大陸中心部の森にて目撃された」


  ヴェローザの言葉を聞いた瞬間、エーベルトに電撃が走った。


「そ、それって本当ですか? 嘘じゃないですよね?」


「嘘でこんなこと言うか。ちなみに既に犠牲者も出ている」


「もうそこまで⋯⋯」


  いくら本で読んだとはいえ実在するとは思ってもいなかった。もし、本で書いてあることが事実ならマギアビーストは一大陸に一体いると書いてあった。

  エーベルトはそこまで考えて考えをやめた。


「そのマギアビーストって、どんな姿をしているんですか?」


  マギアビーストと呼ばれるほどだから、獣の姿をしているだろう。しかし、その予想は大幅に外れた。


「それがな⋯⋯目撃したものの証言によると、女の子の姿だったようだ」


「お、女の子!?」


  思わず大きい声を出してしまったため、周りの教員の視線が集まる。エーベルトは慌てて口を抑えた。


「ああ。強力な魔力を有し、いろいろな種類の魔法(マギア)を使っていたと言っているらしい」


「強力な魔力⋯⋯」


  そう呟いたとき、ふと疑問が浮かんだ。それをそのままヴェローザにぶつける。


「あの、マギアビーストと俺にどう関係があるんですか?」


「そうだな。そろそろ本題に入ろう」


  そう言っていつの間に持っていたのか、タバコをふかしながらヴェローザは言った。


「お前とマギアビーストに()()をしてもらう」


  ⋯⋯はい?


「あの⋯⋯⋯⋯今なんて?」


「聞こえなかったか? お前とマギアビーストにキスを――」


「聞き間違いじゃなかったぁぁぁぁぁぁ!!」


  またも教員の視線が集まるが、エーベルトはそんなことお構い無しに叫んだ。


「一体どういうことですか!? マギアビーストとキスって!? 相手は化物ですよ!?」


「ああ、正確には保護だ。キスっていうのは理由(わけ)があってな。キスをすると、"マギノステイン"と呼ばれる石のような物が手に入って、マギアビーストの魔力を抑えることが出来るんだ。そして魔力を抑えた状態でこの学園へ通わせ普通の女の子に戻す。――そういうことだ、分かったか?」


「いや全然分かりませんよ!」


  今ので分かったら天才か何かだろう。エーベルトは天才ではないので当然分からない。


「まぁ分からなくてもキスすることだけをとりあえず今は覚えておけ。早速明日やってもらう。詳しいことはまた話す。話は以上だ」


「わ、分かりました」


  エーベルトは納得いかない様子で職員室をあとにした。


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