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デッド・オア・キス  作者: 夕凪渚
3章 アーボレス大陸〜第3のマギアビーストと竜〜
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17話 『⋯⋯エーベルト君、それ逆に怪しいわよ?』

「おいおいそんなもんかァ?」


「⋯⋯くっ。まだまだ」


「⋯⋯そうね。今のでやられたって勘違いしてもらっちゃ困るわよ」


  フュールとフェミリーが少し傷がついていたがなお立ち上がる。

  一方エーベルトはカミラの援護をしていた。


「ははっ! そう来なくっちゃなァ! ならこれは避けられるか? 《ヴァンアロー》!」


  突然エルガーの手に炎の弓が握られ、その瞬間、フュールとフェミリー目掛けて炎を纏った矢がいくつも迫ってくる

  フュールとフェミリーは避けたり、弾いたりしてエルガーに勢いよく肉薄した。しかし──


「残念だったなァ。くらえ、《ヴァンフレア》!」


  エルガーが言うと、フュールとフェミリーの中心に炎が集まりだし、次の瞬間大爆発を起こした。フュールとフェミリーは勢いよく飛んでいき、地面に数メートル転がり、止まった。辺りには石の崩れる音と、エルガーの足音しかしなかった。


「あーあ、こりゃもうオレサマの勝ちだなァ! がーはっはっは! 口程にねェやつらだぜ!」


「⋯⋯まだまだ、局部魔装⋯⋯! <魔剣・マルミアドワーズ>⋯⋯!」


「⋯⋯私もよ。局部魔装⋯⋯! <魔槍・オベリスク>⋯⋯!」


  フュールとフェミリーがふらふらになりながらも立ち上がり、局部魔装を顕現させる。フュールの手には金色に光り輝いく大剣が握られていた。フェミリーの手には魔のオーラを纏った槍が握られている。


「あ? まだやんのか? 懲りねぇ奴らだな! じゃあ次で()()。ヴァンアロ――」


「やめろぉぉぉ!!」


  エルガーが炎の弓をフュールに向けて打とうとしたとき、男が両手を広げフュールの前に立った。今にも腰が抜けそうなくらい貧弱で、足もガクガク震えている。それでもその男は立っている。


「⋯⋯エー、ベルト?」


  フュールがその男の名を呼んだ。そう。フュールたちをかばったのはエーベルトだったのだ。


「もうこれ以上争うのはやめろ! 四天王だかなんだか知らないが今すぐここから立ち去れ!」


  エーベルトが震える声でエルガーに言う。すると、エルガーは呆れたように肩をすくめて言った。


「わぁったよ。そいつらを殺るのは止めてやる。だがなァ、そこにいる女は返してもらうぜ」


  そう言ってエルガーが指さした場所には、涙目でこちらを見つめる女の子――カミラが座り込んでいた。


「お前達はマギアビーストを捕まえてどうする気だ! まさか⋯⋯()()んじゃないだろうな?」


  エーベルトが"殺す"という単語を言うと、カミラは怯えたように体を震わしシクシクと泣き始めた。それを見たエルガーは面白そうに笑っていた。


「さぁな。殺すかどうかはオレが決めることじゃねェから分かんねェな。とにかく返してもらうぜ。おい女! こっちに来い!」


  エルガーは強く怒鳴った。すると、カミラは肩をビクつかせ、エルガーの方を顔を引きつらせながら見ていた。


「カミラ! こっちに来ちゃだめだ!」


「テメェは黙ってろ!」


  エルガーはエーベルトの脇腹に蹴りをくらわせた。エーベルトは数メートル先まで吹っ飛んでいった。


「⋯⋯エーベルト!エルガー⋯⋯! お前だけは許さない⋯⋯!」


  フュールが足をガクガクさせながらもエルガーに威嚇する。


「うるせぇガキばかりだなァったくよ。おら女。こっちに来い」


  言ってエルガーはこつこつと足音を立てながらカミラに近づいて行く。


「⋯⋯くっ。魔力が足りるか分かんないけどやるしかないわね⋯⋯!」


  そう言ってフェミリーはふらつきながら叫んだ。


「転移魔法! エーベルト君、フュール、カミラをどこかへ転移させて!」


「っ! テメェ何しやがる!!」


  エルガーがフェミリーの方に走ってきて、フェミリーに蹴りをくらわそうとする。だが時すでに遅し。蹴りが当たる寸前、フェミリーの体は、エーベルト達と共にきれいさっぱり消えた。


「クソがァ!! あいつら絶対に許さねェ!!」


  1人の残されたエルガーは八つ当たりをし、辺りを爆発させてから消えた。




 ▲



「⋯⋯いってて。ここは――公園か?」


  エーベルト達はフェミリーの転移魔法で転移し、1番最初に来た公園に転移していた。


「っとそんな場合じゃない! フュール! フェミリー! カミラ! 大丈夫か!?」


  エーベルトの周りには傷だらけで倒れているフュールとフェミリー、そして目に涙を浮かべているカミラがいた。


「⋯⋯大丈夫。エーベルトこそ無事?」


「⋯⋯私も大丈夫よ。エーベルト君は大丈夫なの?」


  2人がエーベルトに心配の声をかけてくる。2人は明らかに傷を負って大丈夫なはずはないのに、他人の心配をする優しい心の持ち主である。


「ああ、俺は大丈夫だ。カミラ、お前は?」


  「は、はい。私も大丈夫です。でもおふたりは⋯⋯」


  カミラは心配そうにフュールとフェミリーの顔を交互に見る。そんなカミラを見て、フュールとフェミリーは立ち上がった。


「心配ない。この程度の傷はすぐに治る」


「そうよ? なめてもらっちゃ困るわ」


  そう言ってフェミリーは胸をはった。エーベルトとカミラは力なく苦笑した。


「さてと、カミラ。お前が捕まってた理由とお前の正体を教えてくれ」


  エーベルトが言うと、カミラは一度逡巡したあと、口を開いた。


「私が捕まったのは大分前のことです。私がこの街で暮らしていると、あのエルガー様が来て、「お前が大人しく捕まらないと、こいつを殺す」と言って、一緒に暮らしていた家族のような人を人質にとったんです」


「それで、人質にとられた人は?」


  エーベルトが聞くと、カミラは静かに首肯した。


「はい。私は家族を助けるため、人質を解放する代わりに捕まりました」


「なるほどな。辛かったよな、お前も」


「⋯⋯はい」


  エーベルトが慰めの言葉をかけるとカミラはシクシクと泣き始めた。エーベルトはカミラの頭を撫で、数分後にカミラは泣き止んだ。


「それでカミラは⋯⋯えーと⋯⋯」


「マギアビーストなの?」


  エーベルトが戸惑っていると、フュールがすかさずフォローを入れる。しかし、カミラは首を傾げた。


「まぎあ、びーすと?」


「そうか。やっぱり分からないよな」


  エーベルトは言って、フェミリーに目配せする。


「あなた、100年以上前に『マギアゲール』と呼ばれる戦争に参加してなかった?」


  そう。マギアビーストならば昔行われた戦争に参加しているはずなのだ。しかし、フェミリーは未だ分からずといった様子だった。


「まぎあげーる? ⋯⋯なんのことでしょう。私には分かりません」


「⋯⋯そうなのか。じゃあカミラはマギアビーストじゃない⋯⋯」


  エーベルトとフェミリーが肩を落とす。しかし、フュールだけはカミラをじっと見て動かなかった。


「フュール? どうした?」


「カミラから魔力を感じる。だからまだマギアビーストじゃないと決めつけるのは早い」


「本当か!?」


  エーベルトが言うと、フュールは無表情のままこくりと頷いた。


「エーベルト。カミラにキスしてみて。ついでに私も」


「なんでお前にもキスしなきゃならないんだ⋯⋯。でもいい案だ。それで反応すればカミラはマギアビーストということになるもんな」


  言ってエーベルトはカミラに向き直る。


「あ、あのなカミラ。今からすることは、その、決して下心からくるものではなくてな、ただ、魔力を封印するための儀式みたいなものだからな、だから、そんな構えなくていいぞ?」


「⋯⋯エーベルト君。それ逆に怪しいわよ?」


  フェミリーにツッコまれ、エーベルトは頬をかきながら苦笑した。


「じゃあ改めて、カミラ。キスしよう」


「え!?」


  カミラが驚きに目をひん剥く。それも当然である。今日出会ったばかりでキスをしようなんて言われたときには通報もんである。


「エーベルト。私ならウェルカムだけど、いきなりすぎ」


「⋯⋯すまん」


  さすがにエーベルトは反省をし、1から説明し直した。数分後、説明を受けたカミラは納得したように頷き、次に頬を赤く染めた。


「キ、キスなんて初めてです。お手柔らかに⋯⋯」


「そ、そんな構えなくていいからな? 逆に俺も緊張しちまう」


「す、すみません⋯⋯」


  エーベルトとカミラの間に気まづい空気が流れる。フェミリーはそれを呆れたように見ていた。フュールは嫉妬しているのか、少し羨ましそうに見ていた。


「じゃあするぞ⋯⋯」


「⋯⋯はい」


  エーベルトが口を近づけていく。カミラも目をつぶりエーベルトの唇が触れるのを待つ。そしてエーベルトとカミラの吐息が混じり合い、ついに唇が重なる。エーベルトは、フュールとフェミリーにキスをしてきたが、やはりその柔らかい感触に理性が飛びそうになる。そして次の瞬間、カミラの着ていた服が光り輝いて無くなり、カミラの胸から出てきたマギノステインがエーベルトの手に収まる。


「きゃー!! ふ、服がー!!」


「わ、わるい! 何故か封印するときは服が消えちまうんだ! でも、封印に成功したってことはやっぱりマギアビーストだったのか」


  エーベルトは目を逸らしながらカミラに言った。そしてその間にすかさずフュールが予備に持ってきていた学院の制服に着替えさせた。数分後、落ち着いたカミラと、エーベルト達は公園に座っていた。


「でも、なんで昔の記憶が飛んでるんだろうな」


「それは、分かりません。ですが、自分がそのマギアビーストというものだったことに驚きました」


  カミラが言うことに全員が頷いた。


「ま、でも良かったんじゃない? これで封印してあとは帰るだけでしょ?」


「ああ、そうだな。じゃあもう封印もできたし、戻るか!」


  エーベルトの言うことに全員が賛成した。しかし。


「おや? これはこれは。こんな所でまた出会えるとは」


  突然声がし、その方向に向き直る。そしてエーベルトは目をむいた。


「あ、あんたは⋯⋯!」

 

「お久しぶりだね。マギアビースト諸君。そして、エーベルト」


  そう。そこにいたのは人形のロボットに身を包んだ人。ABC、オズウェル・ドルフレッドその人だったのだ。

 

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