書斎の本(1)
つい最近から俺は固形食を食べ始めた。まだ完全に歯が生えているわけではないからお母様や、アイリが千切ってくれたパンをスープに浸して柔らかくしてから食べている。日本の食事と比べるとあまり美味しいとは言えないがこの世界だとこの位が貴族の食べ物として普通なのだろう。それどころか、少しは良い物を使っているのかもしれない。
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さて、今日はどこに来ているのかというと...書斎です。
いつもと変わらない日を過ごしています。朝はアイリに起こされて、朝食を食べる。その後はアイリを連れて書斎に昼まで引き篭もる。昼食を食べた後はまた夜まで書斎に引き篭もる。夕食を食べて本を読んで寝る。
毎日がこの繰り返しだ。書斎の本は一日に二冊か、三冊読めるが、この書斎にある本は、ざっと見ただけでも千や二千じゃない。五、六万はあるんじゃないかと思う。この書斎の大きさが大体、学校の体育館くらいの大きさで、いちいち移動するのがめんどくさいから、部屋に入ってすぐの本から読み始めることにしているのだ。そんなことを考えながらも本を読んでいると、気になる本を見つけた。
「ねぇ、アイリ。この本読める?」
俺がそう聞くとアイリは自信ありげに読める。と答えた。
中身を見ずに。
俺の手から本を取りアイリが本を開いた。が、そこで固まった。
うん。予想通りだな。だがここで終わらせてはつまらないな。ということで、
「あれ、アイリどうしたの?早く読んで?」
俺がそう言うとビクッ!とアイリの肩がはねた。
「え、え~とですね、これはえっと、その~何というか、、、わかりません。」
「あれっ?さっきアイリは読めるって言ったよね?嘘だったの?」
「うっ、その、えっと、すいませんでした。」
「うん。素直に認めればいいんだよ。次からは気を付けようね。」
「う~、偉そうにして、そんなこと言うならカイ様はもちろんこれ、読めるんですよね?」
そんなセリフを吐きながらににやにやとしているアイリにはちょっとお仕置きが必要かな?
「あれ、いつ俺がこの本を読めないって言った?」
「えっ?これ、読めるんですか?」
「あぁ。アイリとは違ってもちろん読めるよ」
「...。嘘です!絶対に嘘です。こんな変な文字かどうかも怪しいような物を絶対カイ様が読めるはずがありません。さぁ、カイ様。謝るのなら今のうちですよ?ふふふ。」
「・・・いや、ほんとに読めるからね?嘘じゃないよ?」
「じゃあ、読んでみてくださいよ。もし読むことが出来たなら何か一つだけなんでも願い事を聞いてあげましょう。あっ、もちろん私に出来る範囲で、ですよ?ただし、もし読めなかったら、私のお願いを一つ何でも聞いてもらいますよ?」
「あぁ、いいよ。」
「ふふ。じゃあ読んでみてください。」
「じゃあ行くよ?本の題名は『 ゴブリンでも解る!魔法の使い方 初級編 』だね。」
「そこまでは誰でも読めますよ。問題は内容が読めるかどうかです。」
俺はこの本を読むことが出来る。だってこれは......
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題名 『 ゴブリンでも解る!魔法の使い方 初級編 』
作者 河白 隆
まず初めに。この本を読める人は殆どいないだろう。
この本は俺の後輩へ残そう。俺がそう思ったからだ。だからこの本を読もうとした人が読めなくても仕方がない。
さて、この本を読んでいる君は一体どのような人物だろうか。男性だろうか、それとも女性だろうか。そして君は転移者なのか。それとも転生者なのか。それは俺にはわからない。果たして君に魔法の才能があるのかも分からない。
だけどこの本を読んで魔法が使えなくてもこの本は残してほしい。それがいつか次の後輩のためになるであろうから。
さて、前置きはこの辺にしておくとして、剣と魔法の世界へようこそ後輩君。この本では俺が勇者として身につけた知識を書き残そうと思う。
※もし魔法が使えなくてもあきらめないで方法を探してくれ。そして、この本の内容を他の人に伝えるかどうかは君が決めてくれ。
では、『 ゴブリンでも解る!魔法の使い方 初級編 』を始めるとしよう。
この世界には魔法や魔術が存在している。さて、そもそもこの魔法とは何か。それから説明しよう。
魔法とは魔力と言われる物質を直接何かしらの現象または物質そのものに変えることを言う。
次に魔術とは何かだが、
一般的に魔術とは何かに書いた魔法陣または、魔力そのものを魔法陣の形にし、それを触媒として魔力うを流して魔法を使うことを言う。
だが、魔法に比べると威力が三割ほど落ちてしまう。それに、スキルを使って魔法を使うよりも魔力の消費が激しいため、良い事ばかりでは無い。
ここまでが一般常識だ。
魔法にはいくつかの系統がある。全部で
火魔法、水魔法、風魔法、土魔法の一般的な魔法属性4個と光魔法、闇魔法と言われる珍しい魔法二種類の合計6個だ。
ただし、基本属性以外の上位魔法と呼ばれる炎魔法、氷魔法、雷魔法、地魔法などは、基本属性の魔法スキルを最大まで上げるとその属性に関連した魔法スキルが手に入る。
とりあえず基礎はこの位でいいだろう。では次に段階に行こう。
まず魔法を使うには、魔力がないと使えない。そのため、まずはこの魔力を感じる所から始めよう。魔力はイメージからすると血管を通って回っていると考えればいい。集中できれば大体掴めるはずだ。魔力が感じられたら、あとは明確にイメージすれば魔法が使えるはずだ。
この世界の人達は、詠唱をしているが基本的に詠唱は魔法に要らないものだ。
ではなぜ魔法を使うときに詠唱をしなければいけないのかと言えば、魔法を使おうとしている人物にイメージ力がないからだ。この世界では、《無詠唱》というスキルがある。そのスキルの取得条件はイメージだけで魔法を使うことだ。それから、詠唱をしていてもイメージがちゃんと出来てさえいればスキルを手に入れることが出来る。まぁ、この世界の人は詠唱がないと魔法は使えない。《無詠唱》スキルは宮廷魔法使いの最上位にいるような人しか取れないと思っているから、それなりに魔法が使えて、無詠唱が出来るようになれば宮廷魔法使いになれるはずだ。
まぁ、俺たちのような日本人からすれば、イメージは大体の奴ならできるだろう。転生者や転移者は宮廷魔法使いになるくらいなら、冒険者をやったほうが確実に稼げる。宮廷魔法使いになっても、名誉くらいしか手に入らないだろう。
『 ゴブリンでも解る!魔法の使い方 初級編 』 終わり。
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「...っていう感じだったけど、アイリ......」
「・・・・・」
今回はここまでです。