書斎の本(1)
俺の一歳と妹のミリの誕生パーティーから一週間。
とりあえず、この一週間であった出来事について確認しておこう。
まず始めに、アイリに話せることを打ち明けた次の朝のことだ。朝起きる(起こされる)とアイリに
「そろそろ一歳だからお父様とお母様に喋れるようになったのを一歳らしい口調でですけど、話したほうがいいですよ。」と言われ、お母様がいる時に少し喋ってみた。と言っても、まんま、と言っただけだがお母様は目に軽く涙を浮かべ、喜んでいた。そのあとすぐに俺が喋ったことをお父様に報告したらしく、お父様がドタドタと音を立てながら廊下を走ってきた。俺の部屋に入ってすぐ俺に向かって喋って見てくれと言われたが、そっぽを向いて無視しといた。すると、お父様が今までに無い様な表情を浮かべて俺の部屋を去っていった。
だが、それだけでは終わらなかった。どうしても声が聞きたいのか、時間があるときは常に近くにいるようになったが三日程過ぎた時に、お母様にその事がばれてこっぴどく叱られていた。それからは、お父様が俺に付き纏う事は無くなった。
次に、初めてアイリと話をした夜から、結構話をするようになってきた。まぁ、話と言っても雑談なのだが、これがこの頃俺が一番楽しみにしている事なんだよなぁ。
後は、そうだな、誕生パーティーから三日ほど過ぎた日のことだ。
アイリがお父様に許可を取ってくれたから家の中なら自由に出歩いてもいいのだが、なぜかいつもアイリに抱きかかえられる。まぁそれは置いといて、家の中を探検している時に書斎を見つけたのだ。もう、見つけた時はちょっと大きな声で叫びそうになったね!
ということで本を読もう!となって本を開いたところで絶望した。
・・・・・・・読めねぇ!
さすがに人生はそんなに甘くなかった。アイリは俺を膝の上に乗せる感じで座っているので、文字が読めないことに絶望している俺を見下ろしている.
そして、本を広げて固まった俺を見て笑いを抑えている。
「あれっ、読まないんですか?カイ様?」
「...アイリ」
「ふふっ、どうかしましたか、カイ様。」
「・・・・・文字を教えて。」
「はい?何ですか?聞こえませんでしたのでもう一度言ってください。」
「文字を、教えてください。」
「はい。いいですよカイ様。」
そうしてその日から文字を覚えるための練習が始まった。
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「う~ん、わからん。」
俺は本を読みながら悩んでいた。
「さっきからずっと唸ってますけど、どうかしましたか?」
「うわっ!...なんだアイリか、急に話しかけてくるから驚いたよ。」
「で、どこが分からないんですか?」
「んーと、あぁここだよ。これなんだけど、、、」
「へぇ~、カイ様はそのあたりの文法が苦手なんですね。まあ、いつもは説明したら大体一回で理解できてしまっているからつまらないんですけど、やっとカイ様の苦手分野が分かりました。ということで、その分野を徹底的にやりましょうか。」
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アイリに文字を教わり始めて、大体覚えたのが三か月ほど過ぎたころだった。普通は1年~2年くらいかかるはずなのだが、なぜか早く覚えられたので予定していたよりも早く書斎で本を読み始めることが出来た。書斎を使う許可はアイリがとってくれたので手間もかからずに書斎の本を読むことが出来た。さすがに一人だと書斎には入れてくれないが基本的にアイリがいつも一緒にいるので入ることが出来る。
俺は、書斎に入ってすぐにまだ読んでもらっていない本に手を付けた。絵本は部屋の隅にまとめて並べてあったので、見つけやすかった。そして、俺はある真っ黒な表紙の絵本を見つけた。本のタイトルは『封じられた神 ディアボロ』という絵本だった。
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この世界が創造神によって創られた。それと同時に人間や獣人などの多くの生き物が生まれた。。人々は、街を作りそこで暮らした。しかし、獣人たちにはそこの環境が合わなかったのか、他の大陸へと移り住んだ。そして獣人を率いていた者が王様(獣王)になった。魔物は、すぐに増殖、繁栄、進化しすべての大陸に広がり、そして、住み着いた。それ以降人間は魔物たちが襲ってくるのに怯え、自分たちの命を守るために城壁を築いた。
それから時が流れ、数千年の時が経ったある日、一柱の神がこの世界すべてを支配しようと企みこの世界におりてきた。その神の名前が『ディアボロ』といった。
ディアボロが現れてからというもの、作物が枯れ、空が雲で覆われた。そしてディアボロに逆らったものはすべて殺された。それがたとえ誰であってもためらいなく。そんな世界が数百年続いた。
ある時、世界を作った神様がこの異変に気付いた。すぐにディアボロがやったと分かったが、神々は基本的には何があろうと下界に手を出してはいけないというルールがあったため、すぐに手を出せなかった。その間にもたくさんの人々が死んでいった。そこで創造神様は人々に聖剣と勇者召喚の秘法を教えた。
そこから人々の快進撃が始まった。勇者召喚の儀式で呼び出された勇者の名前は リュー カワシロ と呼ばれた。その勇者は黒髪と黒目という特徴を持っていたらしい。勇者リューは聖剣を授かり、やがてディアボロを封印し、世界を救ったのだった。
その後、勇者は姿を消したといわれている。
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・・・・・この物語に出てくる勇者ってまさかの日本人?そんなことありえるのか?でも、そうじゃなきゃあんな名前はありえないし。しかも黒髪に黒目とか、何とも言えない。...でも所詮は絵本だからな。
うん・・・・・
一応確かめてみるか。アイリに。
「ねえ、アイリ。この物語って、さぁ、、、、」
「その物語がどうかしましたか?」
「ただの物語だよね?」
「いえ、本当にあった話らしいですよ?勇者の姿に関しては黒髪に黒目なんているのかどうかわかりませんが、ディアボロに関しては本当ですよ。私は見たことはありませんが、確か王城にそういった文献が残っていたと思います。」
...はい、決定ですね。この人は日本人です。でも、ディアボロを封印した後この人はどうなったのか気になるな。普通に帰れたのならいいんだが、ラノベとかの定番だと大体の結果は帰るか、殺されるか、それとも自分の意思で残ったのか、帰る手段がなかったのか。大体この四つのうちのどれか何だが。まぁ、今はこんなことを気にしてもしょうがないか。
ということで気分を入れ替えてもっと本を読むか。。。。と、思ったところで、アイリからストップがかかる。
「カイ様、そろそろご夕食の時間ですよ。」
そういって俺はアイリに抱きかかえられて食堂まで連れて行かれた。
食堂に着くと俺はいつもの席に座らされた。
「今日からカイは普通のごはんを少しずつだけれど、食べてみましょうね。」
その日から少しずつだがお母様に言われた、パンとスープが出てくるようになった。
少し前から段々と歯が生えてきているが、生まれてから初めてパンを食べたからか、すごく硬く感じられた。
幼馴染が登場するまでまだまだ時間があります。