第2話
買い物をした場所から学校の食堂へ向かったが、もう昼時間も終わりころ…。
もう、いないだろう…と思うと、スミレと京子が学食の前で立ち話をしていて、オレたちに気付いて嬉しそうに手を上げた。
「お!タケちゃん!おなかすいちゃったよ~。」
「なんだ、待ってたの~???」
「ん~ん。ちょっと用事があって出てたんだよね。京子ちゃん」
「…お…おう…。そうそう。」
京一郎は、京子に気があったのでいい格好をしようとして、
「タケノリのさァ服を見てきたんだよ。コイツ金がなくなっちまったから、ここは俺がみんなにおごるよ。ただし、300円くらいにしてくれよ!」
オレは、京一郎の肩をポンと叩いて「おぅ!カッコイイ!」と称えた。
学食だから、そこは安い。
だが、300円ではミートソースには手が届かない。ミートソース360円。
スミレはオレに肩をぶつけながら
「じゃ、みんなミートソースにしない?300円「ぐらい」でしょ?「ぐらい」。」
「そーだな。「ぐらい」の範疇だな。」
京一郎はオレたちの会話に苦笑しながら「じゃ…それで…」と小さい声で言った。
4人で会食。静かに…なんてことはない。終始うるさい。食事しているんだか、会話しているんだか分からない。スミレは買い物の内容が気になってようで、床に置いてある大きな買い物袋を気にして
「タケちゃん、いっつもトレーナーとGパンだもんね。どういう服買ってきたの?」
「いやぁ、美弥ちゃんに選んでもらったんだけどね…」
といって、服をだして見せるが、なぜかスミレの機嫌が悪くなった。
「別に、いつもの服でいいと思うけど、なんで美弥と授業サボって服?」
おや、めずらしい。怒ってる。
彼女を適当になだめすかして、冗談を言ったりしていると、そこに同じバイト仲間の仁志が遅い登校をしてきた。俺と、仁志は同じコンビニバイトで22時からの勤務だった。
「うっす。タケノリ、今日バイト、一緒?」
「そだよ。サボんなよ。」
「うっす。起きれればいく。ども、スミレちゃん、キョーコちゃん」
と、彼は照れながら美人二人に声をかけた。
「どーも~~!」
「うっす。」
女子二人に返答されて仁志は照れながら去って行った。
どんだけ女子に免疫がないのか…。
「タケちゃん…いっつもバイトしてるよね。何買うの?」
と、スミレが質問してきた。思えば、ここでデート代とかって言えばよかったのだが、なぜか、スミレに彼女がいることを言ってなかった。
このことが、俺達にもう2度とふさがることのない溝を作ることになるのだが。
「仕送り少ないからさ~。生活費充当。アンド電話引く!」
そう。このころ携帯なんて代物がなかったので、電話線を引く必要があった。
約8万。贅沢なものだ。
だいたいは公衆電話や寮付属の電話を使ったものだ。
しかし、公衆電話はいつも満員でなかなか彼女に電話できない。電話線が喉から手が出るほど欲しかった。
「タケちゃん、電話引くの?いいね~。」
スミレは能天気にいう。
「そそ。電話線高いんだよね~。」
と、やっていると京一郎が
「なんだ、電話線欲しいの?俺、2本もってるから、4万で売ったるよ。」
「ま、マジ???おまーなぜ早く言わん!でも、来月ね。来月。バイト代入ってから。」
京一郎の実家は工場をやっているらしく、数本の電話線を親から譲ってもらっていたらしい。翌月、京一郎から電話回線を買って接続した。
そしてすぐに紗季と電話をしてデートの約束をした。やった!
小さい部屋で小躍りして喜んだ。
そして実家に電話をして、電話線をつないだことを連絡したが金があるなら仕送りやめるといわれる。
4万とは言わず友達に譲ってもらったんだよ。と言うと、ああそう。学業に精を出してください。と手厳しく言われた。
週末、紗季とデート。
今は違うコンビニ同士だが、前のバイト先では先輩だったから先輩呼ばわりしてくれる。
二人して美弥と耕司が立てたプラン通り、SS30というビルの30階の展望台から仙台市を見下ろしながらまったり…。昼食はサボテンという店のとんかつを食べた。
食べ終わって、2人でカラオケに行って時間と金が許す限り熱唱した。
そんな感じでオレたちはしばらくバイト、週末デートの生活を送った。学校はほとんどサボっていた。
そんな中、久々に学校に行くとスミレがオレの学科の教室に顔を出して「あ!いた!」と言って駆け寄って来た。
「お!久しぶり…。どうした?」
「タケちゃん、ハイこれ。」
「なにこれ?電話番号?」
「電話引いたんでしょ?まだ誰にもかけてないと思うから、あたしにかけていいよ~。」
「なんだよぉ…!かける人くらいいるし…。」
「見栄はんなって!どーせ親でしょ?」
「は…はい…。」
「かけてきてよ!」
…………。
たしかに…スミレとの電話は盛り上がった。
恋愛の話しとは無縁の俺たちって感じで、ずっと雑談ばっかだったが、気づくとすごい時間になっていた。
紗季は親と暮らしているので思い切った話はできないし、親御さんに悪印象を与えてもいやなので、ほんとにデートを約束する程度のわずかな時間。
スミレは一人暮らしなので、受話器で耳を暑くしながら時間許す限り話した。最後はだいたい
「もう、電話代。電話代かかるから!」
といってやめる感じだった。そして、次の日学校で続きを話す…という感じ。
しかし、ここまで異性と話をしていても
付き合いたいとか、好きっとかって感情ではなかった。
ホントに友達。女友達。サキとはまた違う感じだったのだ。
だいたいにして、真新しい恋愛に没頭し、他に恋を見つけるとか考えられなかった。
しかし、学校に行くと、二人きりではないがスミレとほぼ一緒に並んで歩ってる感じだったので周りには「ご両人!」とか「よ!ご夫婦」とかっていわれてその度、
「ショートコント夫婦」
といって、なにかしらやっていた。
その時間がとても好きだった。
ある時オレたちは、廊下で固まって話しているとスミレがオレの服の袖を引いて小声で言った。
「タケちゃん、ちょっと話がある…。」
みんなにバレないようにこっそりと二人で、薄暗い移動教室へ行って
「どうした??」
「…あのね…。」
というと、
ぷぅ
「…なに…wwwww
オナラ????
はっはっはっはっはっは!何してんだよ~~~!!!」
「うふふふふふふふ。ウケた?」
オレは誰もいない教室で笑い転げた。まさかこの女、笑いのためにそこまでやるとは…。
しかも、大きすぎず、聞こえなさすぎず…ちょうどいい音のを出しやがって…
会話でも下ネタはよく言っていたし、彼女は男女の仲を超越した友人!と周りにうそぶいていたし、オレもそんな風に感じていたので別に引きはしなかった。
「ウケた。そう来ると思わなかった。かわいいのに、そーゆーことするから…。人前ですんなよ?」
「かわいい!!???
かわいい!!???
え?え?え?え?」
彼女の狼狽に、逆に驚いた。
「いや、スミレかわいいじゃん。もったいねーなー。
…ちょ…なにパニクッてんの???」
「パニクってなんかない!
…タケちゃん、鼻毛でてるよ…??」
「あら…失礼しました。ちょっと抜いてもらえます?」
その程度で狼狽するオレではない。身を屈めて彼女に顔を突き出した。
「どれ、じゃぁ、こっちに顔をだしなさい。」
「え?動じないね、この人は。じゃぁお願いします。
ちょっと、…ホントにあるの?ヤダ!痛くしないでね?痛くしないでね?」
「初めてか!……じゃ……いくよ……ほら……力を抜いて……」
「wwwwwwwwだめだ…面白すぎて…」
「ちょっと!動かないで!」
プツ…
「いっっっっっ!!!!…たぁーーーー。」
「抜けた!」
「痛ェよ!バカ!」
「この毛は…家に持ち帰って藁人形に使います!」
「wwwなんの恨みで!!」
すると、カチリと部屋の電気がついた。オレたち二人ははしゃぐのをやめて、入り口の方に顔を向けた。
「…あら、あんたたちなにやってんの?付き合ってんの?」
と、京子が入って来た。今度はオレが狼狽した。
すると、スミレが片手を上げて
「付き合ってまーーす!」
「いや、付き合ってませんよ~。私にスミレさんはもったいなさすぎます。」
「お互いの前でオナラして鼻毛抜きあう仲でーーす!」
「ちょっと、それを言うな」
「なに、タケノリ、オナラしたの??幻滅…」
「まだ、幻滅されてなかったか…。いや、私ではなく…」
キャッキャキャッキャと、部屋をでていく3人。
京子は忘れ物をとりにきたら偶然俺たちがいたのだ。
京子が俺たちを誤解し始めたのはこのころだった…。