第1話
*本作は銘尾 友朗さま企画 「春センチメンタル企画」参加作品です。
少し…昔話を聞いて欲しい。
今から…20数年前。
1993年、携帯電話も無い時代。
20歳のオレ…丈紀の話。
当時のオレは…、田舎から仙台市の専門学校にでてきて、一人部屋の寮暮らし。
自由!一人の生活を楽しんでいた。
そして、彼女の紗季とも付き合ったばかり。
楽しい、青春を送っていた!
学校生活。東北では一番大きな都市の仙台に、東北六県の人間が集まってはじめて顔を合わせて交流するわけだ。
互いになまりをからかいあい、自分の田舎自慢や自虐ネタを扱いながら仲を深めていった。
みんな親元を離れて一人暮らしや寮生活。
それぞれ、大人らしく、大人っぽく着飾って自由な大人を気取り出した。
だがしょせん「大人らしい」「大人っぽい」止まりのオレたちは親のすねをかじって、勉学なんかに励むわけがない。
バブルがはじけたとかそんなことオレたちには関係なかった。
覚えたての酒、タバコ、パチンコ、パチスロ、競馬、そしてネオン輝く街…。
あらゆる“大人”に手を出していた時代。
その日も俺たちは仲間のアパートの狭い一室に集まって麻雀をしていた。
部屋の半分にはタバコの白い煙の層ができていて、ライターの火もつかない始末だった。
タバコの吸えないオレは、一人ちびりちびりと甘い缶酎ハイを飲んでいた。
すると、友人の京一郎がそわそわしはじめた。
ははぁ…あのことを言いたくて仕方ないんだな…。と察した瞬間、麻雀パイを切りながら
「はい、では本日はタケノリからご報告がありまーす!」
やっぱり…。うぜー。オレは躊躇しながらも
「そうなんです…。ハイ。浮いた話ひとつなかったわたしですが…女性とお付き合いすることが出来ました!おめでとう!拍手!!」
京一郎とは一年の頃に一緒にバイトをしていたので、先んじて彼女…紗季のことを知っていた。
付き合い始めだし、まだ公表したくはなかったのだが仕方なく仲間たちに話すとさっきまでやさぐれ麻雀を打っていた仲間たちのテンションも上がって質問攻めにあった。
「すげーじゃん!おめでとう!スミレ??」
「なんでスミレがでてくんだよ。スミレじゃねーよ…。」
「あ、いっつも一緒にいるから…。じゃ、誰?」
「学校の人じゃないよ…。前のバイトで一緒だった高校生。」
「!!!女子高生??犯罪じゃん…。」
「犯罪って…。まだ何もしてないよ。つい先日つきあったばかりだし。」
そう。彼女には一週間前に告白してOKをもらったばかり。二、三回デートしただけ。
ヒロインは彼女じゃない。
ヒロインは、この女友達のスミレ。
スミレは…。専門学校1年の終わりくらいからつるみ始めた。青森出身の子。
お笑いとか、マンガとか、ゲームとか話があった。
結構かわいくて男子に人気があったのだが、
全然彼氏を作ろうとしない、さっぱりしたヤツだった。
それからしばらくして(サボってた)学校に行くと…、前からスミレとその友人の京子の姿が見えた。
京子は今は絶滅危惧に指定されている元スケバン。
例えは悪いが二人の様相は「尼神インター」のようだった。
スミレが大声で手を振る。
「おおお!タケちゃーーーん!」
「おーす。スミレ。どう?元気してた?」
「元気してた?じゃないよ。全然お店の方に顔出さないじゃない。ママさみしがってたわよ。」
「ゴメンゴメン。仕事で忙しかったんだよ。」
とミニコント「スナックの客とチーママ」を披露すると、京子が眉を吊り上げて
「タケノリなんで学校こなかった??」
「!!…すいません。バイトで忙しかったもので…。」
「あっそ…。何しにここに来てんの?勉強しに来てんじゃないの?」
こ、怖い…。とても怖い…。
と、京子の剣幕に恐れたが、スミレは平然と話を続けた。
「タケちゃん、今日の学食、スパゲティはミートソースだよ!」
「…お!よくオレの好きなの覚えてたなァ~。じゃぁ、昼、学食で会おう。」
と言って、二人と別れた。彼女たちは違う学科だ。オレは自分の教室へ行くと麻雀の仲間である、耕司が恋人の美弥にオレに彼女ができたことを言っていた。
美弥は美人だがいわゆる女王気質。男を従えるのが好きなのだ。
オレ、京一郎、耕司が美弥の座っている机の前に直立不動の姿勢をとる…。
「あんた、聞いたよ。女子高生と付き合ったんだって?」
「さようでございます。」
「そんなダッサイ風体じゃ、先方に申し訳ない。わたしがコーディネートしないと全然ダメ。京一郎。耕司。ついてらっしゃい。」
ということで、美女に3人のお供がついて、授業そっちのけで街に服を買いに出た!
「あなた、無駄にでかいから、あたしも困るわ~。ノコギリで首切ったら??」
オレの身長は185cmだ。
首を切れと言われても…。
「すいません…。」
つべこべいうと、叱られるので、すべて肯定か謝罪をして適当にあしらっていると、さっぱさっぱと服を選んで、彼女はレジにそれを運んだ。店員は
「26000円です。」
「あの…美弥さん、わたしの懐具合も考えていただかないと…デートもできなくなるんですが…。」
「いいから買いな。未来への投資だよ。服は無駄にならないから。」
いや、そーゆーことじゃないんだけど…と思いながら購入させられ、買ってから試着させられた。
「ど、どうです?」
「いいんじゃない?」
「いい。すごくいい。」
と、男友達二人は賛同してくれたが、美弥は
「…なんか、華がないのよね~。」
「そそそ。華がね…。」
と、恋人の耕司が相槌を打つ。
耕司は美弥にぞっこんだ…。すぐに寝返る、腰ぎんちゃく。
「ま…いいでしょう。これでいきましょう…。」
「そうね。それでいいね。」
と、お二人。なにがなにやら。
だが、了解をいただいたのでまずよかった!と、ほッと一息……
「デートには、SS30(仙台の30階建てのビル)で景色をみましょう。」
「おー!いいね。」
「で、28階のサボテンでとんかつを食べると…。」
「サボテン!めちゃめちゃ旨いよ!」
といって、二人が勝手にデートの算段まで決めているうちに、時間は昼前になっていた。
おっと、スミレとキョーコと飯食うんだった!
オレがみんなに別れを告げると京一郎が
「京子ちゃんもいるんでしょ?じゃ、俺も!」
と言ってついてきた。美弥と耕司を二人っきりにして、俺と京一郎は学校に戻り、学食へと向かった。