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Counter World  作者: touya
6/6

(一条籐哉④)

「それで籐哉はこれからどうするの?」


アリーシャが素朴な疑問をぶつけた。


「それより、アリーシャ。ちょっと聞きたい事がある」


「言ってみられよ、一条籐哉どの」


悪ふざけ気味のアリーシャ。


「確かさぁ、時間の単位はこの国には存在しないって言ってたよな?」


「そうですがそれがどうかしまして?」


女王様口調がまだ続いている。


「でも、アリーシャ自身でも分かっているだろうが成長している」


籐哉の疑問をぶつけても、アリーシャは平然としていた。


「それはそうですわ。食事も就寝も取りますし、生活を積み重ねていますから」


「なるほど、生活の積み重ねか。時間の概念がない環境だとそういう答えになるのか」


「籐哉のいる世界だと時間と言うものに縛られている感じがしたけど」


「縛られると言われれば、そうかもしれない。時間を上手く使うために予定を立てるけど、時間に支配されてる感もたまにある。でも、永遠に軟監禁とかありえないだろう」


籐哉の眼がアリーシャの瞳を見据えている。


「ええ、この世界の人間は自分の寿命をある程度は感じる事が出来る。もちろん、変化していくものではあるけど。籐哉の世界で言う年齢を感じた感覚と似たような感じかもしれないし、正確には違うかもしれない。でも、永遠に生き続けられるわけじゃない。だから・・・・・」


その続きの言葉をぼそぼそと呟くアリーシャ。


「アリーシャさま、この者に女心を試されても無駄です」


レイリアは籐哉の方を蔑みながら睨んでいる。


「レイリア、私も何だか分かってきたわ。籐哉はあちらの世界に別の女がいるらしい。でも、まだ何もしていないと言ってました。約束された相手ならもう結婚もされている年齢だとは思いますがまだのよう?みたいですしね」


籐哉の耳に聞こえるようにアリーシャが答えた。


さあ、籐哉、どう答えるの?


私はすでにあなたとの初めてを交わした。


向こうの世界にいる女よりもあなたとの親密度は遥かに高いはず。


しかし・・・・私は・・・こんな頼りなさそうな男に何を求めようとしている。


私のように白い肌ではく、瞳の奥も茶色、黒色?


この瞳の色は少し苦手だ。


背は私より少しだけ大きいくらい。


体格も痩せ型で戦士のようでもなければ、城主や王としての雰囲気も持ち合わせない。


そして、ドラゴンの加護を微塵も感じない。


いや、これからドラゴンに戦いを挑むのだから。


いや、会いに行くって言ってたかな?


いや、私が勝手に言ったんだ。


ドラゴンと対峙する人間だって。


何であんなこと言ったんだろう。


それに何で籐哉は文句一つ言わないんだろう。


先が見えない状態で恐くないのかな。


これから先のことが恐いのは私自身。


「アリーシャ、俺の世界だと、まだ幼い年齢だとされてる。歴史の中ではそういう時代もあったようだけど。それと他の国ではそうなのかもしれない。争いも知らなければ、命を懸けて戦う事も無い国に生きている。その分、学べることが沢山あるし、その時間で多くの知識を付けることも出来る。机上の空論と言われても学ばないよりは学ぶ事で多くを得る事が出来る。それは時間を越えて身につけることが出来る形や結果のない感覚のようなものなのかもしれない。アリーシャの世界で言う感覚とは違うと思うけど。彼女にことについては今は触れられたくないし、どうしていいのかも分からない。この世界から僕の世界へ帰れるのかさえ、分からないし、とりあえず、ドラゴンに会いに行くしか方法がないのならその案に乗るしかない事は分かった」


アリーシャへの返事ではなく、今の自分自身の気持ちと考えを籐哉は心の底から吐き出した。


「籐哉がドラゴンに会う事は多分出来ない。あなたにはドラゴンの加護を感じない。ここの王様はドラゴンに選ばれたのかもしれないし、何らかの力と目的の為に向こうの世界へ行ったのかもしれない。でも、あなたには自分の世界に帰りたいという気持ちすら感じない」


心の底から吐き出したはずの言葉を籐哉は否定された上に本心でもないと言われる。


「それなら俺自身の存在が無意味かもしれないということになるな。無意味や不可能と分かっている事を成し遂げる事で俺自身の存在が意味を持つかも知れない。それが本心だ。正直、世界だの、彼女だの、未来のことだとか、どうでもいい。それよりも死ぬまでにどれだけ多くの書物を読破できるか、その事が大切だと思っていた。でも、綾乃に出会って、心がホンワカして、ドキドキして、別の男子と仲良く喋っているところを偶然見かけただけで不安になったり、手を繋いだだけでその不安も一瞬で消えたり、何も喋らなくても何となく俺の事を分かってくれてるような気がしたり、一緒にいる時も離れている時も綾乃の事を考えると、俺って生きてるんだなと思えるようになった。ようやくそういうのが幸せなのかなと気付き始めたそのタイミングでこの世界に飛ばされたんだ。頭の中は混乱と混沌の混合と混雑で考える気力も動こうとする気持ちも涌かない。勇者様でもなければ、王子様でもないし、ましてや、王様でもない。それが一条籐哉という人間だ」


「アリーシャ様、この男、文句と弱音とデレデレ感を語りたいだけに聞こえましたが」


「ええ、私もそう感じました」


「そうだとして何か問題があるのか?」


「アリーシャ様、ついに開き直りました」


「レイリア、それよりもそろそろ食事にしましょう。私はお腹が減りました。しかし、このような状況なので部屋移動は困難です。申し訳ないけど、あなた1人で3人分の食事を用意してほしいのだけど」


「この男の分もですか?」


「ええ、最後の晩餐よ。聖域の中に入れず、死んでしまう可能性のほうが高いんだから、盛大な食事を用意してあげて」


「分かりました。さすがアリーシャ様、慈悲深きお方です。ドラゴンの加護もないものが聖域を越える事が出来る話は聞いた事がありません。最初にして、最後になりますが美味しいものをご用意して差し上げます、一条籐哉」


「食事の時間もよく考えたらないんだったな。時間のない世界。なかなか慣れそうにないかもしれないなあと思いながら食後のドラゴンの聖域試練で慣れる前に風前の灯宣言をされるともうどうにでもなれって気持ちになるんだな。こういう気持ちは初めてだ」


「初めてのづくしの短命人生、それもまたよろしいのではないですか?」


「他人事だと思って」


「いえ、運命を共にするんだから私も当然聖域に挑戦するわよ」


「アリーシャ様、それは無謀な行為です。おやめください」


「レイリア、あなたはもし私が消えてしまったら私の財産をあなたに委ねることを文書に書き記しておきますから少しでも良い人生を送れるように考えておきなさい」


「いえ、それなら私も聖域に挑戦いたします」


「そういうことなら3人揃っての最後の晩餐か」


「いえ、私とアリーシャ様はどうにかして、聖域を突破いたします。最後の晩餐はあなただけです」


「よく言ったわ、レイリア。それでは食事の方、頼むわね。私は用意できるまで少しベッドで横になっておくわ。もし寝てしまっていたら起こしてちょうだい」


「かしこまりました」


「俺はここにある書物でも読むとするか。何が書いてあるのか分からないけど、この本のように絵と説明付なら何とかなると思うし。たった一日でも別世界の書物に触れることが出来たならその見返りが命か。その前に一日というものがないから一日もはっきり区切れないし、モヤモヤっとした感覚だな^^;」


「私も覚悟を持ってこの国に来たのよ。幼き王であっても神国の王様に嫁ぐことになったからには」


「はいはい、そこまで。その王様は今はいないし、お前は俺を選んだ。その事に関して、俺も本来なら真剣に向き合って返事をしないといけないのも分かっている。でも、それでも、そうだとしても、俺は綾乃と別れる気はない。でも、お前は俺を選んで命を懸けて助けてくれようとしている。それに応えたい俺もいる。でも、やっぱりお前はこの国の王様と結婚するべきだ。そう思うから俺もおまえの為に頑張ってみようと思う。それが返事でもいいか、アリーシャ?」


「それもまたあなたの本心なんだね、籐哉。私も正直、混乱している。混乱している中かもしれないけど、自分の信じる感覚であなたを選んだ。そして、私の覚悟であなたに初めてを捧げた。だから私を選ばないとしても私はあなたを選ぶ。それだけの事よ」


「いやいや、俺だぞ?大して背も大きくないし、寧ろお前と同じくらいか。お前を守れるほど、筋力も体格もない。あるとしたら向こうの世界で培ってきた書物から学んだ知恵と方法くらいか。俺の立場と状況からも聖域の情報は集める事が出来ない。この城を出ることが出来たとして、ドラゴンと話す事が出来たとして、またこの部屋に戻ってこれるかも分からない」


「それは大丈夫。そのときにはドラゴンの加護があなたを守護してくれる。そして、その時あなたはこの世界初の王族ではない選ばれた神国の王としてこの国を収める事になる」


「そういえば、ドラゴンに選ばれたものがこの国の王様だったな。俺が王様か。シュミレーションは得意な方だが時間計算やスケジュールが組めないこの世界だとどうすればいいんだろうな」


「その時は慣れていくしかないでしょうね、こういう事も」


それはアリーシャの咄嗟の行動だった。


気付くとアリーシャの唇は籐哉の唇に触れていた。


「お妃様、お戯れも大概にしてください」


籐哉はアリーシャの唇と自分の唇の間を右の人差し指を横にして塞いだ。


「だって、最後かもしれないのよ。それに私はあなたを選んだのだからその権利を主張する」


「間違っては無いと思う。それに嫌いでもない。というか、こんな綺麗な女性に好きになってもらえるなんて夢のような話だとも思う」


「好きだとは言ってない。選んだだけ。選択肢として選んだの。だから権利なのよ。分かった」


「権利か。アリーシャには確かにあるよな、選ぶ権利。でも、キスをする権利って何なんだ?」


「そこは深く考えなくてよろしくてよ。立場を弁えなさい、一条籐哉」


「はい、アリーシャ様、ごまかし入りました。少しお顔も赤いようで大丈夫でしょうか?」


そういう籐哉の顔も負けず劣らず、同様に火照っていた。




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