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Counter World  作者: touya
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(トゥーヤ・アルフレート②)


一条家のダイニングテーブルの椅子に座ると、落ち着いた様子で食事をするトゥーヤ。


その向かいの席に陣取り、その様子を窺う東子。


少し離れた距離でTVを見る振りをしながら動揺を隠せない進。


「どれも逸品だ。あなたはいつもこのような食事を作っておられるのか?」


テーブルの上に置かれていたのは味噌汁、ブタの生姜焼き、漬物、ごはん、お茶


「毎日朝ごはんはこんな感じかな」


王子様相手にどういう言葉遣いをすればいいのか、東子は考えながら喋ろうとしているが、ぎこちない口調を隠せない。


「そういえば、そなたたちの名前をまだ聞いていなかった。私の名前はトゥーヤ・アルフレート。トゥーヤと呼んでくれれば良い」


「私の名前は一条東子、外国読みで行くと、東子 一条だから、東子でいいわ。それと私のだんな・・・、夫のが分かりやすいか。進 一条。tohko と susumu でいいわ」


「とぅこ すすむ 短い間になるとは思うがこれからよろしく頼む。こちらの世界での目的が終われば、私の存在はそなたらの記憶にも残ぬかもしれぬがなるべく早くあの部屋の主をこちらへ返せるように尽力する」


その言葉を聞いて、徐に進が立ち上がった。


「どうして私の息子なんだ。私の息子は原因となるようなことを君に何かしたのか?俺達の大事な宝を今すぐ返してくれ」


感情を抑えきれない進を見て、椅子から立ち上がり、東子が駆け寄る。


「あなた、籐哉はどんな状況でも乗り越えて、ここに帰ってくる。そう、信じましょう。トゥーヤさんの言う事が正しいとは限らないわ。私達の息子です。自力で帰ってくる方法を見つけるかもしれない」


「籐哉と俺達には血の繋がりがない。それでもあいつが俺達の所へ来てくれて、俺達の息子になってくれて、成長していく姿を見るのが俺の毎日の楽しみだ。それが突然、別の世界に飛ばされた?いつ帰ってこれるのか分からない?目的があるか、無いかはこの際、どっちでもいい。籐哉を向こうに飛ばさなくても、トゥーヤ君、君だけこっちに来ればいいんじゃないのか?」


「そういえば、どうして、トゥーヤさんが来るのに、籐哉がこちらの世界から居なくなることになったのかしら?」


「ドラゴンの意志なのかもしれぬ。私と何らかの心の接点があったのかもしれぬ」


「心の接点?」


東子が聞き返す。


「いや、聞かなかった事にしてくれ。あくまでも私の憶測に過ぎぬ」


「ドラゴン?そんなものが本当に存在するのかは分からないが籐哉のやつ、不思議な夢を繰り返し見ていたのを思い出した」


「籐哉が初めてこの家に来た日もそうだった。まだ4歳だったあの子は緊張からか言葉数も少なく、食事も多く残して、ソファーに座らせたら、気付けば眠りに就いていた。それを見届けて、私達が食事を取っているとその途中で急に泣き始めて、起きたでしょ。真っ暗で恐い場所に居たって」


「あれからも定期的に同じような夢を見るって言ってたな。真っ暗で恐い場所ではなくなったらしいが」


「七色の雪が太陽の代わりをしている世界だったか?」


「そうそう。幻想的な世界だからお母さんにも見せてあげたいって、その夢を見るたびに口にしてた」


「トゥーヤ君、籐哉の見る夢は今回の事に関係していると思うかい?」


「それはover wallだな」


「over wall?」


東子と進の声が重なる。


「この世界と私が居る世界の間にある世界だと私は思っている。私達の世界では心と体には別々の世界が存在すると言われている。そして、私はover wallと呼ばれる世界でドラゴンと話した。正確には私の身代わりになり、私の国に変革をもたらす人材の要請を願い出たとでも言うべきか。それをドラゴンが聞き入れた」


呆然としながら二人はトゥーヤの話を聞いている。


「籐哉が選ばれたということはその理由があったということかしら」


「別の世界の国の変革をもらたす人材。籐哉なら出来るかもしれない」


「しかし、すべては私一個人の勝手な願い。今思えば、お二人と、あの部屋の主には本当に申し訳ないことをしたと思っている」


食事を終え、椅子に座ったままだったがそのままの姿勢でトゥーヤは頭を下げたまま、上げようとしない。


「トゥーヤさん、もういいから頭を上げて」


「まだ信じられないが信じるしかないんだな」


「申し訳ない」


上げた頭をまた下げるトゥーヤ。


「それでトゥーヤさん、聞くのを忘れていたけどあなたはどこかの国の王子様?」


「いや、今は国王になった。古のドラゴンが守護する国シュラールの国王、トゥーヤ・アルフレート」


その言葉に二人は魂を抜かれたようにさらに呆然とした。


「お二人とも大丈夫か?」


「王子様かと思っていたら、王様だったなんて」


「その年齢で王様なのか。内乱でも起きたということかな?」


「年齢とは?」


「私が40歳、妻が39歳になる。息子の籐哉は17歳だ」


「少し待ってくれ、心で感じてみる」


「心で感じる?」


トゥーヤは目を閉じて、何かを考えているようだ。


「この世界の年齢では私は12歳ということらしい」


「トゥーヤさんの世界には数字は存在しないの?」


「数字と言う単位は存在する。しかし、年齢と言う単位は存在しない。それから時間というものも存在しない」


「こちらが聞く前に時間のことまで」


「私の住む世界には朝昼夜というものが存在しない。こちらの世界を照らしている太陽も存在しない」


「トゥーヤは私の心の声が聞こえるの?」


「東子、さんが抜けてる抜けてる」


「びっくりしすぎて、忘れてた」


「東子、進も向こうで私が王様であろうと、さんも君もいらない。それからこの世界の知識はこの世界に住む精霊にご教授頂いた。シュラールの一部の人間に備わる才能のようなものだ。君達には見えていないのかもしれないが私の直ぐ横に来ている」


「この世界に住む精霊が」


東子にはそれは伝説上の生き物として人気の高いイエティを小さくしたような生き物に見えた。


「東子にも見えるのか?あれはミニサイズのイエティなのか?」


「ええ、私にも確かに見えています。目の錯角でなければ、イエティのようなものが」


呆然の次は驚愕しながらその精霊をじっくりと凝視している二人。


「見えるのか。まだ会ったことはないがさすがにあの部屋の主の父君と母君であるな」


トゥーヤの言葉に二人は笑いがこみ上げてきた。


「東子、まあ何とかなるか。俺は何にも出来そうにないけど」


「そうですね。籐哉が交換留学に行って、代わりにトゥーヤがこちらに来た。成長して帰ってくる息子の帰りを待つとしましょうか?」


「籐哉が今頃、王様か。いや、トゥーヤ君とは見た目も違えば、顔立ち、肌の色も違うから王様殺害の容疑者になっている可能性もあるのか。それでもあいつなら道を切り開く力がある。出来の悪い俺とは違って、成績は学内トップ、その裏側は読書マニアで偉人オタク。俺に似ているところと言えば、彼女の綾乃ちゃんを見ると、大人しそうな和風美人だから好きな女性のタイプくらいか。どことなく、東子に雰囲気が似てる感じだったな」


「あなた、照れるからやめてください。でも、綾乃ちゃんにはどういえばいいのかしら?やっぱり海外留学?行方不明だとは言えないし」


「しかし、海外留学だと学校側にごまかしようがないだろう」


「そこは最優秀生徒の力でなんとかなるかもしれないけど、綾乃ちゃんにどう説明しようかな」


「連絡先を聞いてるなら一度来てもらう」


「今日、連絡を入れておく。メールじゃなく、電話のほうがいいわね」


「お二人とも本当に申し訳ない」


再び、トゥーヤが頭を下げる。


「トゥーヤ、あなたは今日から私達の二番目の息子です。遠慮せずに何でも相談して。息子の部屋の書籍は自由に読んでいいし、使っていいからね」


「そうだな。トゥーヤ、こちらの世界での父と母は私達だ。何でも相談しなさい。この世界では君は王様ではなく、1人の少年だ。小さな事でも私達を頼りにしなさい」


あの部屋の主は幸せ者なのだな。


血の繋がり以上にあの部屋の主を思う、そしてこんな私を受け入れる強く温かい優しい心を感じる。


私も取り戻さねばならない。


血の繋がりではなく、心の繋がりをもう一度


もう一度 母上を 許されるなら 父上も


「これを貰ってほしい」


進と東子に一つずつ手渡されたのは青く輝く宝石だった。


「見た事のない石だけど、凄く綺麗」


「サファイヤのような、しかし全体は七色に輝いている」


「これはシュラールの龍の谷と呼ばれる場所でたまにしか発見されない貴重なイシュラールの名が付いた霊石。綺麗なだけでなく、所持する人それぞれに石が示す効果が違うと聞いている。なるべく肌身離さず持っていてほしい」


「トゥーヤ、大事にするわ」


「ドラゴン、精霊、霊石、時間単位のない国、驚き信じられなさ過ぎて、信じる・・・しかないな」


「ええ、籐哉も今頃、きっとあなたと同じような事言ってるわ」


「おいおい、向こうは死にかけてる可能性もあるんだぞ。代わりに俺が行ってやれれば」


「私とこの家の家計はどうするの?それにあなたが言ったら本当に死ぬ可能性が上がると思うわ」


「色々な意味でその通りだと思う。籐哉の帰ってくる場所を守っていかないとな」


「私のことはスルーですか?」


「色々な意味でと言っただろう」


「色々な意味とは?」


「仕事もそうだし、東子を不安にさせることは出来ない」


「よろしい」


二人の流れるような会話を聞きながら、トゥーヤはただただ笑みを浮かべていた。


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