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Counter World  作者: touya
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(一条籐哉①)


「今日もまたこの場所か」


幼い頃から定期的に見るこの景色は何一つ変わることなく、久遠の時間を制止しているかのように俺以外の人影は見当たらない。


この世界には日常で立ち並ぶビルも住宅地も目にすることは無い。


そして、この世界では絶え間なく、雪が吹雪く。


いや、舞い踊っているという表現が正しいのかもしれない。


その雪は現実世界に降る雪の色とは少し異なる。


虹色に輝き、この幻想世界の光源になっている。


夢だと分かっていても、目を閉じたその先の光を感じたくて、俺は目を閉じる。


そして、その先を見ることなく、現実世界で目を覚ます。


俺が憧れる世界を俺はいつまで見ることが出来るだろうか?


忘れてしまう日が来るのだろうか?


忘れる?


夢だから忘れるって言う言葉は間違っているかもな。


夢なのに定期的に見ることが出来ることも不思議なんだが。


それについては触れないでおこう。


そういう疑問がこの夢を見ることを閉じる原因になりかねない恐れもある。


さあ、今日も一日頑張ろう!


って、ここはどこだ?


このベッド、寝心地良すぎ・・・・俺が大の字になろうが手足が上下左右、ベッドからはみ出すことがない。


極めつけは掛け布団の感触、ふわふわのモフモフで目覚めようとする俺の心を簡単に打ち砕く。


上に目をやると、綺麗な青い眼をした美女が俺を睨んでいる。


「うんうん、なるほど、これもまだ夢の延長という訳だな」


「それならこの美女に睨まれても恐くない」


「いや、寧ろ、この美女にキスしてみるか」


「夢の中限定のアグレッシブモードを発動してみるか」


「そんなモード、今考えてみたが夢の中だったとしても俺にはそこまでの度胸もない」


気づけば、その美女の顔がこちらに近づいていた。


「もしかして、これはツンデレからの甘えモードに変わる意表をつくご褒美ルートか」


「いや、待て待て、そうだったとしても、俺には綾乃という大事な彼女がいる」


「しかし、夢の中なら」


籐哉がその続きを言おうとする前にその美女は迷うことなく、籐哉の唇に触れた。


唇に触れたのは美女の指先であって、唇ではなかった。


「大事な女性がいるのにも関わらず、他の女性に目移りするなど、最低の男だな」


心の声が途中から漏れていたことに気づくと同時にその美女が顔を近づいてくると同時に自然に目を閉じてしまっていた自分の行動の恥ずかしさに赤面しながらフリーズしている籐哉。


やばいやばい、やってしまった。


心の声をいつのまにか言葉として出してしまっていたとは不覚。


それはそれとしてだ。


これは夢の中なんだよな。


部屋の中を見渡してみたが中世の古城特集とかで見たことのある内装か。


現実離れした夢であることは間違いない。


この美女はツンデレモードから変化はない。


綾乃とは手を繋いだり、抱きしめるまでしか出来てない。


それだけですげぇー幸せなのもあるし、正直なところ、勇気がないところもある。


「よし、決めた」


そういうと、籐哉は布団から半身、体を起こしたと同時にアリーシャの体を引き寄せ、戸惑っているアイシャの表情も気にすることなく、その艶やかな唇に右の人差し指で触れてみた。


「何をする!」


緊張からか、アリーシャの声は本人が想像する以上に小さく、籐哉には聞き取りにくかった。


「よし、ちゃんとした感触はあるようだな。それなら改めて、決めた」


籐哉本人は夢の中のことだと、完全に勘違いしているようだ。


「夢の中の最初のキスの相手は君に決めた」


どストレートに目の前の見ず知らずの男にファーストキスを宣言されたアリーシャは拒むよりも緊張で体が固まってしまったらしく、うまく言葉が出せない。


そして、その間にも籐哉の顔がアリーシャにその唇に近づいてくる。


アリーシャは覚悟を決めて、目を閉じた。


しかし、その後、何事もない。


唇の感触も伝わってこない。


「やっぱり、駄目だ。俺には無理。綾乃のあのムスッとした顔が頭の中に浮かんで耐えられない。夢の中でもあいつの事、すげぇー思ってるんだな、俺」


その言葉に満足している籐哉に力強いビンタが右頬に飛んだ。


「その決断には助かったわ。いや、見直した。あのギリギリの場面でよく留まったと褒め称えてもいいわ」


「お、おぅ。夢の中とはいえ、こんな美女とファーストキス出来る展開はもう二度とないかもしれないが」


「それから、さっきから夢の中、夢の中と言ってるけど、ここは現実世界であって、あんたこそ、夢の中から飛び出してきた人間じゃないの。何よ、その服装、髪型、肌の色も合わせて、この国の人間ではないようね」


「ここが現実世界?いやいや、ないない。ないない。大事な事なので二度言いました。こんな部屋に住む事が出来る人間って、俺はそんな身分でもないし、時代錯誤も合わせて、現実的ではない」


「まあ、その件についてはあとでお話しましょう。それよりも、この部屋のいや、この城の主を何処へやったのかしら?私の恋人、いや婚約者として、決められていた人だったんだけど、どう見てもあなたではないわよね」


「またまた。恋人の顔も知らないなんて、いつの時代の話だよ。顔も知らないなんて、ありえないだろう。こんな豪勢な部屋、いや、城って言ったか。そんな場所に住んでいる人間なら、写真、いや、スマホやネットで画像を検索すれば、すぐに出てきそうだし」


「あなたの言っていることは夢の中のお話の事かしら。写真、スマホ、ネット・・・画像?その単語を耳にするのは初めてですが何なのですか?」


「はぁ、美女とのファーストキス展開からめんどくさい感じになってきた。これならせめてキスしとくんだった」


「わたくしの最初の相手はその方だと決められております」


「顔の分からない行方不明の王子様」


「いえ、王様です」


「もうそういう展開はいいからそろそろこの夢から」


籐哉の唇に柔らかい感触が伝わる。


唐突に起きた出来事に籐哉の目は開いたままだったがそれだけでなく、アリーシャの瞳も開いたままだった。


一瞬でその唇は籐哉から退く。


「あなたはこれで裏切り者ね。そして私も裏切り者。あなた、この国の王になりなさい。あなたの為に、私の為に。いい、分かった?」


「冗談・・・・ではないんだよな。ファーストキスの代償にしては」


籐哉の会話を遮るアリーシャ。


「私の初めての相手なんだけど。代償?今あなたは現実が見えてるのかしら?王様の婚約者の唇を奪い、この部屋に居座る見ず知らずの盗賊、いや王殺しの疑いも掛けられるでしょうね?あなたにある選択肢は私と一緒にこの国を乗っ取るしか残されていない。しかも、こちら側は大いに譲歩してあげているんだけど」


「これが夢で無いと仮定し、今までのお前の発言がすべて本当ならその通りだ。しかし、そうだと考えると腑に落ちない点がある。俺が捕まり、極刑になるとしても、お前はただ自分の国に返されるぐらいだよな。王がいないならその兄弟が王位を継承することになるだろうということも理解できる。しかし、俺が殺されるとして、殺されたくない理由がお前にはないよな?」


「ええ、その通りよ」


「それならどうして俺を助ける」


「面白そうだから」


「どういうことだ?」


「人生って一度しかないんだからそういう選択肢もありかなと思ったのよ」


「俺には極刑か、王様の選択ししかないんだよな?」


「極刑か、乗っ取りでしょ?この国の王はまだ若いと聞いているから年齢はあなたぐらいかもしれない。だけど、見た目どおり、この国の王様の偽物にもなれないわ」


「なら、極刑しか、残されていないということになる」


「ならない。周辺諸国一の才女と言われるこのアリーシャの力を持って」


「待った!その先は言うな。言わなくても俺には分かる。俺に腹を抱えて笑われたくないなら、やめておけ」


「よく分からないけど、分かったわ」


「それで才女の力を持って、どうするんだ?」


「正直、誤魔化してやりすごせる事とそうもいかない問題がある」


「だろうな。とりあえずはこの世界のこと、この国のこと、詳しく教えてくれないか」


「ええ、いいわ。私の事も含めて、長くなるけど、覚悟はいいかしら」


「なるべく、短くお願いします」


「この世界はこの世界、この国は希望を意味するシュラールという国。意味と反して希望のない国。周辺諸国の中では弱小国の一つ。この国が生き残っている理由はただ一つ。ドラゴンの住む神聖な山を所有しているため」


「ドラゴンなんているわけ無いだろう」


「ええ、伝説上の神獣だとわたくしも思っている」


「目撃情報とか、足跡とか、ドラゴンにしか起こせない奇跡や自然災害」


「あなた、意外と博識がある人間なのね」


「それとだ。そういうもののほとんどは嘘や見間違い、見当違いだ」


「博識に現実主義者か」


「そのドラゴンの力で王様が生まれ変わったとか・・・そこまでは」


「その手いいですね」


「それはそれとして、王女さまになりそこねた美女さま。高貴な口調で話すのか、普通に話すのか、統一してくれないか?」


「なりそこねた?その口をわたしの唇でもう一度塞いでやろうか?」


「はい、出来れば」


「う、うそに決まってるでしょ!」


お互いに照れてしまい、会話が止まる。


「それでドラゴンは本当にいるのか?お前はいると信じてるのか?」


「お前じゃない。アリーシャと呼ぶがよい」


「王女さま口調きたか」


「アリーシャと呼んでいい」


「アリーシャ、長そうな実名に関しては、聞かないから教えなくていいからな」


「そういうことで良いならそうしよう」


「で、ドラゴンについては?」


「存在する。子供の頃、空を飛んでいる姿を見た事がある」


「小さい頃なら大きな鳥をドラゴンと見間違えたとかありそうだよな?」


「ドラゴンを目にした人間以外は誰もがそう言う」


「それならその山に行き、ドラゴンを説得して、連れ帰るか」


「お前の言っていることは無茶苦茶だ」


「王女様口調どころか、育ちの悪い感じの口調きた。それから俺の名前は一条籐哉。籐哉でいい。それからアリーシャはアリーシャで。ミドルネームまでありそうな国の名前は覚えられん」


「籐哉か、不思議な名前」


「これからよろしく」


「こちらこそ」


この二人が打ち解けていた頃、籐哉の部屋でも若き王が目覚めようとしていた。


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