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            4  研修医一年・十二月


       4  研修医一年・十二月


             一


 冴吏からの招待状は、倉真の目が届かない所へ仕舞っておいた。 突っ込まれるのも話をするのも、はっきり言って気が進まない。


 問題の招待状には、冴吏との対談の申し込みも同封されていた。

『……あれ、マジな話だったのか』 手紙を眺めながら、考える。

『何とかコッチも、断れないモンかな?』


 つい先ごろ、全国紙の紙面で、利知未の名前と年齢が公表されてしまった。 その事で、地方局からの取材も、何件かオファーが入ってきた。

 それらに対しては、利知未本人から丁重に断りを入れたばかりだ。

この上、冴吏との対談にまで応じてしまったら、とんでもない事に成りそうだ。 その模様は、雑誌にも掲載されるらしい。

 最近、この事について頭が痛い思いをしている。 思考を切り替える必要が、ありそうだと思った。


 倉真は、漸く勉強にも力を入れる事が出来始めた。 利知未は邪魔をしないように、今まで以上に家事を頑張ってくれていた。

 それと同時に、先月末頃から、偶に見える利知未のご機嫌斜めな様子を、倉真は敏感に感じていた。

『最近、世話、掛けっ放しだからな。 流石に、利知未も疲れるよな』

そんな風に思って、偶には気晴らしに誘ってみようと考えた。

『そー言や、アダムに利知未、連れて行く約束、果たしてないな』

 利知未よりは、ちょくちょく顔を出していた倉真は、行く度にマスターから、今度は利知未も連れて来いと言われ続けていたのを思い出した。

 自分も、この九月に準一と出掛けた時以来、顔を出していない。 あれ程、世話を掛けたマスターに、婚約の報告さえまだしていなかった。


 利知未の夜勤明け、四日・月曜の夜。 夕食時間に、倉真が言い出した。

「最近、ストレス溜まってないか?」

「どうして?」

「偶に、イライラしてるだろ」

「ストレスと言うか。 ……ちょっと、考え事があっただけだよ。 心配させちゃった? ごめんね」

利知未は勤めて、笑顔を作った。

「考え事、か。 俺じゃ、相談には乗れなさそうだな」

利知未の考え事は、仕事の事では無いかと勝手に解釈した。

「いいよ、気にしないで。 倉真は勉強、頑張って」

「お前のお陰で、進んでるけどな。 最近、頑張り過ぎた。 偶には息抜きも必要そうだよ」

「今度の日曜、どっか行く?」

「久し振りに、アダムへ行かないか? お前、すっかり無沙汰だろ」

「そうだな。 ……丁度、二年くらい行ってなかったかも?」

「今度はお前も連れて来いって、行く度に言われてたんだ。 九月に準一と行った時も言われた」

「そう言えば、そんな事も言ってたね。 じゃ、行こうか?」

倉真に誘われて、丁度良いと思った。


 最近のイライラの気分転換と気晴らしに、久し振りに、あの人に会うのも良いかも知れない。 遅れ馳せながらの婚約報告も兼ねて、行ってみる事にした。 どうせならバータイムに顔を出そうと言う話しに成り、次の土曜に出掛ける事にした。

 その日は、倉真の土曜出勤、利知未の休日だ。 夕飯は済ませて行く事にして、のんびりと酒でも飲んで来ようと話が決まった。



 九日・土曜の夜、八時半過ぎ。 久し振りに懐かしの店内へ、鈴の音を響かせて、足を踏み込んだ。

 始めに店内へ入った倉真が、態と自分の後ろへ利知未を隠しながら奥へと進む。 マスターの表情を、後ろからこっそり見ていてみろと、囁いた。


「いらっしゃいませ」

 そう声を掛けたマスターが顔を上げ、新しい客を視界に認めた。 倉真の顔を見て、明らかに一瞬、詰まらなさそうな顔になる。

「また、お前だけか?」

つい、ぼやく声を聞いて、利知未は倉真の後ろで小さく笑ってしまった。

「本当に、何時もそう言われてたんだ」

声を聞いて、マスターの目に嬉しそうな表情が浮かんだ。

「誰が一人で、この時間のアダムへ来ると思うンすか?」

倉真も、面白そうな顔になる。

 後ろから姿を現した利知未を見て、その人の頬が、柔らかく緩んだ。

「やっと、連れて来たか。 ……遅過ぎるぞ」

待ち兼ねていたと、その表情が言っている。

 利知未は変らない彼の様子を見て、心から嬉しいと感じた。


 カウンター席へ、倉真と並んで腰掛けた。 マスターが言ってくれた。

「随分、淑やかそうになったじゃないか」

「猫被るのが、前より上手くなっただけだよ」

少し、昔の自分が顔を出す。 悪戯坊主のような笑みが、利知未の頬へ浮かぶ。 けれど、その微笑みに、確りと女性の艶が伴っていた。


 愛娘の成長を見る、父親の心境だ。 ……あの頃の、一瞬の情熱は。

 心の奥の、小さな箱の中へ、柔らかい思い出に包まれて、仕舞われている。


 利知未も、同じだ。

 利知未の箱の方が、少し豪華な装飾になっているかもしれない……。


 マスターが、再会を記念して、利知未にカクテルを奢ってくれた。

「タダに成るのは、利知未だけか?」

倉真が、軽く憎まれ口を利く。

「当たり前だ。 男に奢っても、つまらないだろう」

相変わらず、口の悪いことだ。 それでも、それが彼の魅力の一つだ。

「一応、女だと認めてくれる訳だ」

利知未も、倉真の肩を持つ。 今の一番大事な人は、勿論、倉真だ。

「憎まれ口は、相変わらずだな」

「マスターこそ」

出されたカクテルグラスを軽く掲げて、乾杯をして口をつけた。

「……懐かしい味だな。 前、出してくれたのだ」

「二年も無沙汰は、流石に長過ぎだな」

「Waiting for……。 待たせて、ごめん」

 倉真には、その話の裏は、解らない。

「昔、何かあったのか?」

「俺と利知未の歴史は、お前よりも長いんだ。 色々あって、当たり前だろう」

少し倉真を、冗談半分に苛めて見た。 いい大人が、子供みたいな事をすると思う。 利知未は、軽く笑ってしまう。

 男が偶に見せる、幾つになっても幼いような部分は、利知未には好きだと感じられる部分だ。 


 ……心から愛しいと思えた、男が二人。

 そのじゃれあいを眺めるのは、最近のイライラを解消するには、丁度いいかも知れない。


「報告があったんだ」

倉真が話を変えて、切り出した。 利知未を見る。

 目を合わせて、利知未も小さく頷いた。 報告は、倉真がした。

「俺達、婚約したよ」

少し、照れ臭そうな顔だ。 マスターは、満足げに頷いた。

「そうか、漸く落ち着いたか。 おめでとう」

「祝いに、俺の分もタダにならないか?」

照れ隠しに、倉真がニヤリと笑って、そう言った。

「仕方ない。 そう言う事なら、取って置きのカクテルを出してやろう」

そしてシェーカーを振って、二人にオリジナルカクテルを作ってくれた。

「昔から、俺が関係した結婚カップルへは、このカクテルで洗礼してやる事にしているんだ」

カクテルグラスを二人の前に置き、バーテンダーの顔になる。

「お待たせ致しました。『Marriage knot.』 日本酒ベースのカクテルです」

「ありがとう、マスター」

「……世話に、なりました」

倉真はそう言って、頭を下げた。

 顔を上げ、マスターに促され、利知未と二人でグラスを合わせた。


 二人きりの乾杯を、マスターは穏やかな笑顔で、見つめていた。


 一口飲んで、倉真が言った。

「日本酒の味が、良く解るな」

「三三九度に掛けてあるんだ。 日本酒には、拘っている」

「……意味は、『結婚による絆』で、いいの?」

「婚約報告には、早過ぎる祝いだな」

「婚約祝いも、有るぞ?」

「どんなカクテル?」

「甘過ぎるカクテルだからな。 お前らには、向かないと思ったんだ」

「そんなに、甘いンすか?」

「殺人的に甘い。 イチャイチャしている二人に祝いとやっかみを込めて、俺が離婚した時に婚約した、親友に出したカクテルだ」

つまり、親友にだから通じる、冗談カクテルだ。

 アダムで婚約パーティーがあると、その話を知った主役の親友から、熱々の二人へとオーダーが入ると言う。


「何て名前のカクテル?」

「Promise ring」

「何の捻りもない名前だな」

 倉真の突っ込みに、マスターが答える。

「やっかみ半分の冗談カクテルだ。 凝っても仕方ないだろう」

「それも、そーかも」

「ピーチフィズにガムシロプップを加えて、ドロドロに甘くする。 他の酒も混ぜる。 色は綺麗だがな、アルコール度数が非常に高い。 二日酔い効果覿面だ」

楽しそうに、ニヤリと笑っている。

「流石に、それは遠慮したい所だ」

「お前らなら、二日酔いは平気かも知れないな」

「甘さが怖いな」

その味を想像して、利知未は冷や汗を流してしまった。


 昔話に花が咲く。 利知未の中学時代の話を、マスターが倉真に聞かせてくれた。

 利知未とマスターの初対面は、『野良猫のホットミルク』事件として、以前、利知未から聞いていた。 それも、もう七年半以上、前の事だ。


 その話を始めて聞いた、あの頃。 倉真は実家を飛び出したばかりだった。 一人暮らしが始まって、直ぐの五月。 十七歳になったばかりだった。

 利知未はあの当時、高校三年。 心の中には、まだ初めての恋人・敬太が息づいていた頃だ。


 マスターの話は、傷だらけの宏治を、始めてこの店へ連れて来た時の事。

 宏治をボコボコにしていた近隣中学のチンピラに、それまで見せた事も無かったような怒りを爆発させていた、幼い利知未。

 想像して、倉真は小さく笑ってしまった。

「俺は、その頃、近所のガキ大将だったな」

「そんな事、言ってたね」

自分の昔の話は恥ずかしい。 けれど、話し手がマスターだからなのか、懐かしい昔話を聞いている気分だ。

「利知未の笑える話なら、まだ沢山有るぞ」

「あんまり、バラすなよな」

少し剥れて、昔の言葉使いが復活してしまった。

「次に来た時の為に、ネタとして暖めておくか」

「俺は、もう少し聞いていたいけどな」

「お前達が知り合ったのは、その二年後くらいに成るのか?」

「そうなるっすね。 どうせ俺の話は、お袋からバラされるんだ。 利知未の昔話は、マスターから聞いた方がバランス取れんだろ?」

「その内、あたしが自分で話すよ」

「それじゃ、自由に脚色されちまうんじゃネーか?」

「当然。 話したくない事は、倉真を見習って話さないから」

「フェアじゃネーな」

「何か、文句有る?」

利知未の軽い睨みに、倉真が首を竦める。

「尻に敷かれそうだな」

 二人の様子を見て、マスターが笑っていた。

「夫婦は顔が似てくると言うが……。 お前らは、昔から似ていたな」


 ここまで話していた昔話で、当時の利知未の表情や仕草が、マスターの頭の中に鮮明な記憶として蘇っていた。


「そんな事は、無いと思うっすけど。 まだ、結婚前な訳だし」

 利知未に似ていたのなら、自分も美少年だったと言う事になってしまう。

「一緒に住んでいれば、同じ事だろう。 釣り目の角度がそっくりだな。 並んで鏡を見た事は、ないだろう」

「そんな必要、無いからな」

「ねぇ?」

倉真の言葉に、利知未も視線を合わせて軽く首を傾げた。 同じ時間に起き出して、仲良く鏡の前に並んで歯を磨く事など、やって見たことも無い。

 けれど、利知未は少し興味を持った。

「鼻筋も、少し似てるか……?」

 改めて、二人の横顔が並んでいるのを見て、マスターは其処にも気付いた。

「帰ったら、じっくり鏡を見てみたらどうだ?」

「態々?」

「……ちょっと、面白そうかも」

 二人の顔が似ているのなら、将来出来るだろう子供達も、双子の様にそっくりに成ったりしないだろうか……? そんな興味だ。


「他の話は?」

「利知未が、怖い顔で睨んでいるぞ。 その内、色々、聞かせてやる」

「んじゃ、今度は利知未を置いてくるか」

「絶対、着いて来て邪魔してやるから」

「俺は、どっちでも構わないぞ。 二人で顔を出してくれた方が、嬉しいぐらいだな」

「それじゃ、二度と聞ける機会がなくなっちまいそうだ」

「ザマミロ」

チラリと昔の顔が出て来た。 舌を出して、勝ち誇った顔をしている。

「昔、俺が睨んでいた通りになったな」

「……世話になりました」

「俺は、何もしていないと思うがな」

「あの頃、マスターに言われた事で結構、救われてたっすよ」

「何か、言われたことがあるの?」

「秘密だ」

「あ、そ。 別にいいけど」

少しだけ、剥れた。 自分の話はストップを掛けた癖に、勝手な事ではある。

「知りたきゃ、お前の昔話も聞かせてくれよな」

「そー来る?」

「お前ら、店で喧嘩でも始める気か?」

呆れ顔のマスターに言われて、二人で視線を合わせて首を竦めた。



 久し振りにマスターとも楽しい時間を持てて、利知未は少し気が晴れた。 帰宅してから早速、鏡の前に倉真を引っ張って行った。

「面白くも、何とも無いだろ?」

「そう? ちゃんと、前見て」

倉真の頭へ両手を掛けて、利知未が正面へと向けさせた。

「……成る程」

「似てるか?」

「確かに、二人とも似たような釣り目だな。 倉真は、一重なんだよね」

「お前は奥二重だな。 目は、お前の方がデカいんじゃないか?」

 そう言って、倉真は鏡から視線を外してしまった。

「あ、もう! 観察、出来なくなっちゃうよ」

「もう良いだろ。 お前の顔は鏡越しに見るより、直接眺めた方が良いよ」

逃げ口上だ。 本気でも無さそうに言い捨てる。

 こうして鏡の前に並んでいるのは、小恥ずかしい感じだ。


 倉真はさっさと、洗面台の前から逃げ出した。 利知未は少し剥れて、倉真の後を追いかけ、リビングへ移動した。

「もう、十二時過ぎてるな」

「倉真がお風呂に入る前に、出掛けちゃったんだよね。 温め直す?」

「そうだな。 のんびり浸かって、酒抜いてから寝るか」

「OK。 じゃ、沸かし直して来るよ」


 再び脱衣所へ取って返す。 洗面台は、脱衣所兼用だ。 スイッチを入れて、洗面台の鏡に映った自分の顔に、目が止まる。

『……冴吏、あのモデルは女だって、言ってあるのか?』 そうで無いなら、いっその事、倉真もパーティー会場へ引っ張って行って、誤魔化したり出来ないだろうか……?

女の自分がモデルと言うよりは、信憑性が有りそうな気がする。

『やって見ようか?』


 倉真に、人身御供に成って貰えたらラッキーかも知れない。 上手く行ったら御の字だ。 上手く行かなければそれでも仕方が無いが、やってみる価値は有りそうだと思った。



 翌日、良いタイミングで冴吏から連絡が入った。

「招待状、届いたよね?」

「ああ、届いたぜ」

言葉が昔に戻る。 気が乗らないのは変わらない。

 倉真は、今日も勉強に勤しんでいる。 電話に出た利知未の雰囲気に首を竦めた。

『何か、嫌な予感がするな』 利知未が電話中のリビングから、逃げ出す事にした。


「で、日時の候補、書いてあったでしょう? ゲストの仕事の都合を考えて、招待状の前段階の仮予約。 勿論ご出席、願えますよね?」

「そう言うことか。 ……道理で」

 招待状には、日付がいくつか記入されていた。 ご丁寧に返信用封筒まで同封してあった。 返事が中々、届かなかったので、痺れを切らしての連絡だ。

「ご都合は、何日が宜しいですか?」

「そう言うのは、パーティーの主催者側がオファーするんじゃないのか?」

「まだ、モデルは内緒だから」

そう言われて、利知未はニヤリとしてしまう。 ……誤魔化せるかも知れない。

「分った。 その代わり、倉真同伴。 じゃなきゃ、行かない」

「……何か、企てていそうだな」

それでも、返って面白くなりそうだ。 冴吏は、承諾する事にした。

「で、何時がいいの?」

「二十三日なら、二人とも休みだよ」

「了解しました。 じゃ、改めて正式な招待状、送ります!」

そう言って、電話は切れた。


 利知未は、朝美の協力を仰ぐ事にした。



              二


 パーティーまでの平日休みに、利知未は朝美が働いている店へ、一人で出掛けて行った。 その前に、朝美のシフトは確認済みだ。


「二十三日、休み交代して貰ったから」

 店に来た利知未の顔を見るなり、朝美がワクワクした顔で言った。

「サンキュ。 で、今日中に服探して、当日までに直し出来るかな?」

「まだ、十日ぐらい有るでしょ。 直しは、一週間あれば余裕だよ」

「助かる。 当日は、昼過ぎには下宿へ行くから、準備は大丈夫か……?」

少し自問してみる。 朝美は、自信満々な笑みを見せる。

「任せなさい! で、幾つか候補、見繕って置いたけど」

「見せてくれる?」

「少々お待ち下さい」

朝美は利知未を待たせて、店の奥へと引っ込んだ。

 暫らくすると、何点かのワンピースを持って出て来た。

「何か、どれもあんまり好きじゃないな……」

「利知未の好みに合わせたら、どんなメイクにしたってイメージが変わらないと思うけど?」

それは一理ある。 渋々ながら、その中でもシンプルそうなのを選んで、試着室へ入った。


 始めに試着してみたのは、意外と胸が開いている、身体にピタリと来る素材のロングワンピースだ。 鏡に映る姿を見て、恥ずかしくなってしまう。

「これ、見た目よりも色っぽいデザインだな……」

シルエットは綺麗に映る。 利知未の胸は、あまり大きいとは言えない。 これを選んだ場合、何時かの様に、胸パット三枚は必要に成りそうだ。

「……却下」

直ぐに、別のワンピースに着替えた。 それもロングで、スリットが深かった。

「あのチャイナドレスに、チョイ近いか……?」

これも恥ずかしい。 歩く度に足のラインが、際どい所までチラチラしそうだ。

 他のワンピースを手に取り、どうやら色っぽいデザインが多い事に気付く。 カーテンを開けて、朝美を呼んだ。

「チョイ、際どいのが多くないか?」

「スタイル良いんだから、ソコを活かさないでどうすんのよ? はい、これも着てみて」

また一枚、新しいワンピースを押し付けられた。 その後、五着も着替えさせられた。


 最終的に、全体が深いブルーで、袖から胸の辺りがシースルーの素材で作られている、ミニワンピースに決まった。

「結局、これもスリットが深いんだ」

しかも、前面スリットだ。 歩く分には平気そうだが、椅子にでも腰掛ければ、確実に下着が見えてしまいそうだ。

「このワンピースなら、ストッキングはコレね」

「網じゃないか」

「そんなイヤらしい網じゃ無いでしょ、上品なくらいよ。 足首と、太股部分のアクセントが少し色っぽいか?」

「……少しか?」

「足、綺麗なんだから。 活かして、活かして。 あと、ハイヒールもね」

高さ7センチの、ピンヒールだ。

「こーゆーのは、履き慣れないから、転びそうだな」

一応、履いて歩いてみた。 始めはグラついたが、直ぐに慣れてしまう。

「体の重心、綺麗に整ってるじゃない」

「バランス感覚の問題じゃないのか?」

「どっちかって言うと、普段の姿勢が重要ね。 骨が曲がってたりすると、スタイルにも影響すんのよ。 あんた、専門でしょうが」

「学校の骨格標本には、透子がチャーリーって名前、付けてたけどな」

「透子ちゃん、流石なセンスだわ……!」

朝美の笑いのツボに入ってしまった。

 骨格標本に話しかけている透子の姿をイメージして、息が苦しくなるまで涙を流して笑っていた。


 再び試着室に入り、ワンピースに着替えた。 朝美が虫ピンでウエストの余分な布を摘んで、仮止めする。 身体にぴったりのサイズに合わせて、改めて利知未の全身を眺めて呟いた。

「裾は、もう少し下ろすか。 5センチは余裕がある筈だから、もう4センチ」

「そうしてよ。 コレじゃ、膝が丸見えだ」

「了解。 じゃ、当日までに直して、あたしの部屋へ置いとくよ。 会計は今日、済ませちゃって良いのね?」

「大丈夫。 これ、いくらなんだ?」

改めて商品のタグを確認してみた。

「大体、二万か……。 一揃えで、三万は掛かるな」

小さく溜息が出てしまう。

 金が無い訳ではないが、現在、将来の為に小使いの中から余分に、月六万は貯金へ回している。 倉真には内緒だ。


 オペが入ると、もう少し稼げる。 その分は全て別の貯金へ回す。 こちらは将来、子供が出来た時の為の貯金だ。

 少しずつでも今から準備すれば、養育費の足しに成る。 まだ結婚前ではあるが、確り者の奥さんと言ってしまっても、良さそうだ。


「倉真君の服は、秋絵が前、サークルの撮影で使った衣装を貸してくれるって言ってたから。 靴と靴下だけは、用意してね」

「倉真、革靴は持ってないからな。 ……男の革靴は、高いんだよな」

それにも、軽い溜息だ。 自分の勝手で倉真を巻き込むのだから、自分が準備しなければ申し訳ない。 結局、今月の要らない出費は、合計五万にはなってしまうだろう。


 準備が整って、後は当日を待つだけになる。 問題は倉真にはどうやって、お願いするか? と言うことだ。 余り早くから予告しても、返って難しいかも知れない。

普段通りの生活を続けて、タイミングを計った結果、パーティー前日に言い出してみた。



 その三日間、利知未は遅出だった。 何時も通り利知未の遅い夕食に付き合って、倉真が晩酌を始める。

「明日、倉真も休みだよね?」

「祝日だからな」

「……あのね、チョットお願いが有るんだけど」

何時も以上に可愛らしい、おねだり顔だ。 嫌な予感が走る。

「……何か、面倒事じゃないだろうな?」

「面倒事と言えば、面倒事かな」

視線を逸らして誤魔化した。

「勉強が忙しいんだけどな?」

「協力してると思うけど?」

 この三日間、利知未は家事も確りと手抜き無しだ。 弁当も毎日早起きをして、作ってくれていた。 お陰で、少し寝不足だ。

 どっち道、倉真は利知未に勝てはしない。 力技では無い限り、どんなに足掻いても悪足掻きだ。 一つ溜息をついて、聞いてみた。

「……何だよ?」

「聞いてくれる?」

「内容が分らなけりゃ、聞き様が無いだろ」

「ありがと。 明日、一緒に下宿まで行ってくれる?」

「そんな事か」

正直、ホッとしてしまった。 次の言葉で覆された。

「で、夜七時から、冴吏の本を出している出版社が主催する、パーティーに出席しないとならないんだけど……」

「……一緒に行けってか?」

「ご名答。 断り切れなかったんだよね、……良い?」

可愛らしく、軽く首を傾げて見た。

「俺が行かないと駄目ってことも、無いんじゃないか?」

「あたしがイヤなんだよね、そう言うの苦手だし」

「俺は、お前以上に苦手だぞ」

「あたしの事、守ってくれるんでしょ?」

「危ない所へ行くって事じゃ、ないんだよな?」

中々、頷いてくれない。

 今度は、膨れてみる事にした。

「そーなんだ。 不安な所へ行かなきゃ成らないのに、突き放すんだ」

それから、少し悲しそうな顔をして見る。 利知未の百面相だ。

「じゃ、良いよ。 何かあっても知らないから」

「何があるんだ?」

「お酒、飲まされ過ぎたらどうなるか判らないしな。 ……朝帰りに成ったら、ごめんね」

「お前が、酔っ払うほど飲まされるか?」

脅し文句の選択ミスかもしれない。 倉真の頑固は筋金入りだ。

「……じゃ、もうイイ」

食事を終えて、利知未は黙って食器を片付け始めた。 少し、口を利かないで居てみる事にした。

 片付け終わり、さっさと風呂の準備をして浴室へ向かう。


 倉真は一人で飲み続けて、溜息をついた。

『何、考えてるのか判らネーな』 少し冷や汗ものだ。

このまま、口を利いてくれないまま就寝するのも、寂しいかも知れない。


 暫らくして、利知未が風呂から上がり、ロックを一杯用意する。 何も言わ無いまま、リビングへ引っ込んだ。

 やはり、自分が負けるしか無さそうだ。

「……シャーねーな」

呟いて、グラスを持ってリビングへ移動した。

「利知未?」

無言でロックに口をつけている。 倉真は観念して、折れてやる事にした。

「……判ったよ。 一緒に行けば良いんだな?」

「……本当に、行ってくれる?」

「行くよ」

小さく溜息をついて、倉真が約束をしてくれた。 利知未は笑顔になって、倉真を振り向いた。

「ありがと。 一緒に飲もう?」

 笑顔を見て、ほっとした。 倉真もソファに腰掛けて、何時もの姿勢になる。

「ったく。 お前には勝てない」

「倉真が優しくて、嬉しいよ」

ニコリとする利知未を見て、倉真は思った。

『この力関係は、結婚してもガキが出来ても、変らネーんだろうな』

それでも家内円満なら、それが一番、良い事だろうと思う事にした。



 翌日、昼過ぎ。 電車を使って、二人で懐かしい下宿へと向かった。 準備を終えたら、今度は里沙の車を借りてパーティー会場へ向かう事になっている。


 慣れない革靴の感覚に、倉真はこれから起こるであろう出来事に、一抹の不安を感じてしまった。




              三


 下宿に着くと、リビングで秋絵が倉真の衣装を揃えて待っていた。 直ぐに朝美は、利知未を自室へと引っ張って行く。

 リビングを出る前にチラリと見えた倉真の衣装は、少しホストチックな派手目のスーツだった。

『アレ、倉真に似合うのかな……?』

 利知未は少し、不安になった。


 これから、朝美の部屋で髪型を弄られメイクを施される。

「ファンデと、リップはして来たね。 持っては来た?」

「一応」

「眉は整える様になったんだよね、変われば変わるもんだ」


 下宿時代の利知未は、髪も軽く櫛を通すだけ、眉は殆ど弄った事もない。 勿論、口紅なんて滅多につけない。 そんな状態だった。 お陰で凛々しい眉の形も手伝って、美人というよりは美少年、美青年の顔立ちだった。

 髪を整え、眉を弄り、口紅をつけた事が有るのは、ホンの二、三回だけだ。


「今日は兎に角、絶対に昔のあたしが想像出来ない様に、徹底的に女っぽく」

「任せなさい! あんたは元が良いから、やりがいが有るわ。 あたしのメイクは、綺麗な人はより美しく、そうでない人もそれなり以上に美しく、がモットーなんだから」

「何か、どっかのキャッチコピーみたいだな」

「それ以上よ。 アレは、『そうでない人も、それなりに』でしょうが。 じゃ、メイクから片付けちゃおう!」

 朝美は腕捲りをし、喜々としてメイク小物を構え始めた。

「……信用してる」

 イヤでも何でも、されるがままだ。

「全体に、色っぽく仕上げるから。 後で鏡見るの、楽しみにしててね」

何時も十分で済ませるメイクを、本日は三十分掛けて丹念に仕上げた。

「口紅は色気を醸し出す様に、少しはみ出し気味にするのがポイント。 途中でメイク直しする時は気をつけてね。 アイラインも涙が出るとパンダになり易いから、欠伸は禁止。 タバコは、口の端っこに軽く挟んで吸う事」

「注意事項ばっかりだな」

「美を追求する為には、努力が必要なのよ」

「……畏まりました」

「言葉使いも気をつけてね。 里沙の真似するつもりくらいで、宜しく」

「了解」

「メイクは、こんなもんか。 次、頭ね。 軽く鋏入れても良い?」

「お任せします」

「任せな」

小振りな鏡を立てて、テーブルの上に置いた。 利知未は自分の顔を見る前に、ガーゼ生地のハンカチを顔の上に載せられてしまった。 音だけで、朝美の鋏使いを想像する事になった。

「髪、切るの難しくないか?」

「行きつけの美容院で仲良くなった美容師さんに、特訓して貰ったの」

「どうして?」

「毎年、チラシ作ってるでしょ? あのヘアメイクあたしが担当してるから。 プロ使うとお金、掛かるからね」

「仕事熱心なことで」

「昔から興味もあったし、好きだったのよ。 メイクは一時期やってた化粧品の営業で、みっちり仕込まれて来たし」

「そんな仕事、やったこと有るのか?」

「今の仕事始める前に、半年位ね。 名古屋へ行って始めにやった事務仕事は、向かなかったみたい。 一年で止めちゃったのよ」

「……会わなかった間の話し、聞いたこと無かったな」

「今度、のんびり話してあげるわよ。 はい、カット終了、後はブローだけだ。 もう少しハンカチ、載せててね」

鋏の音が収まり、ドライヤーの音が聞こえ始めた。



 倉真の担当は、秋絵だ。 大学の映画サークルでは裏の仕事を担当していた。 役者のヘアメイクや衣装も、仲間で持ち回っていた。 秋絵もこの三年半で、中々やるようになっていた。

 用意されたスーツを見て、倉真がげんなりとした顔をする。

「マジ、それ着るのか?」

「コレでも地味目なスーツ、選んで来たんだから。 文句言わない」

「それで、地味だって? ホストみたいな服だな」

「そう言うシーンで、使ってた衣装だから」

「……成る程」

面白くない。 普通のリクルートスーツでさえ、袖を通した事も無いのだ。

「ネクタイはしなくても平気なデザインだから、安心して」

「それ位だな、文句が出ないのは」

「それにしても、二人に会うのも随分、久し振りだな。 婚約したんだって?」

「樹絵ちゃんから聞いたのか?」

「そう。 偶に電話してるから」

「そうか」

樹絵とは、三月の末に会った切りだ。 利知未は十月にも飲みに行っていた。 元気そうで何よりだと、話を聞いて思った。

「特にメイクする必要は無いから、髪型だけ弄らせてね」

「……仕方ねーな、利知未の命令だろ?」

「朝美からも、頼まれてるから」

「相変わらず仲が良いな、朝美さんと利知未は」

「わたし達が、下宿へ来る前からの親友だよ、あの二人は」

「そうらしいな」

 秋絵に髪を弄られながら、そんな話をして気を紛らせていた。


 倉真の準備は、三十分もあれば終わってしまう。 一度スーツに着替え、全身をチェックされてから、もう一度、普段着に着替えてしまった。

 利知未の準備が整う時間を見計らって、着直せば問題ない。 秋絵の出してくれた珈琲を飲みながらテレビを眺め、タバコを吸って待つ事にした。



 利知未はメイクとブローを終えてから、始めて鏡を見せて貰った。

「……まるで、別人だな」

「当然。 我ながら、このメイクテクは素晴らしいと思うわ」

「自分で言うか? 普通」

「ご注文通り、以上の出来でしょーが。 りっちゃん、色っぽいよ!」

ふざけて囃し立て、ベッドの上から洋服の一揃えを持って来た。

「はい、着替えて!」

ワンピースを手渡されて、着替え始めた。


 着替えを終え、全身鏡に映して、全体をチェックした。

「あと、アクセも」

 ピアス風のイヤリングとブレスレットは、朝美の物だ。 余りゴテゴテと着け過ぎるのも変な感じになってしまう。 後はエンゲージリングだけ身に着けた。 指輪に注目して、朝美が言った。

「それが、エンゲージリングね。 サイズの割には、良い石を使ってるじゃない。 デザインはシンプルだから、何時も着けてても可笑しくは無いね」

「この格好に着けるの、止めた方が良いのかな?」

手の甲を胸の前に軽く翳して、鏡に映してチェックした。

「ブレスと相性、悪くないし、 平気だと思うけど。 はい、ストール羽織って」

利知未の準備が完成した。 改めて自分の姿を見て、恥ずかしくなった。

「……何か、物凄い嘘、ついてる感じだ」

「女はメイクと服装で、いくらでも変わるモンよ。 普段しない格好とかすると、変な感じがするだろうけど。 コーディネートを失敗しなけりゃ、傍からの見た目じゃ本性なんて判りっこないんだから、大丈夫」

朝美にそう言われて、そんな物かと思い込む事にした。

「猫被りは、上手くなったからな。 何とか、誤魔化せるか」

「腰に手、当てない! 言葉も注意」

「里沙の真似、だった? ンじゃ、改めて」

腰に当てていた手を下ろして、淑やかそうに立ってやった。

「中々、イケるじゃない。 利知未もやっぱり、女だったんだ」

「それ、どーゆー意味だよ…、じゃなくて、どう言う意味かしら?」

「その調子!」

朝美が相手だと、やはり照れ臭かった。 赤くなってしまう。

 利知未の様子を見て、朝美は面白そうに笑っていた。


 利知未を待たせて、部屋から廊下を覗いて階下へ声を掛けた。 二階から呼ばれて、秋絵がソファから立ち上がる。

「準備、出来たのかな。 倉真君も服、着替えておいて」

「……仕方ない」

渋々立ち上がって、スーツに着替え始めた。


 秋絵が先に、一人で上がって行く。 ノックをして、朝美の部屋へ顔を出す。

「倉真君は?」

「ここへ呼んで良いの?」

「構わないよ。 今日は、他の子達も出払ってるし」

「OK。 でも、その前に利知未の出来栄え、見せてよ?」

利知未は照れ臭くて、背中を向けたままだ。

「感動しちゃうかもよ。 ほら、利知未! 今から人目に晒さないと、会場で顔、上げて居られなくなるでしょうが」

無理矢理、背中を押して向きを変えてしまった。

「うわ! 利知未じゃないみたい……。 綺麗じゃない! 女優も出来そうだね」

少し俯き加減で、恥ずかしそうにしている。 その雰囲気も初めてだ。

「女優も裸足で、逃げ出しちゃうわよ」

「さっすが、朝美さん! 相変わらずのメイクテク!」

「まっかせなさい!」

自信満々で胸を張る。 利知未は恥ずかし過ぎて、何も言えなかった。 秋絵が階下へ向かって声を掛けた。

「倉真君! 着替え終わったら上がって来て!」



 二階から呼ばれて、溜息をついてリビングを出た。

「何で、俺まで行かなきゃならネーかな……。 しかも、この格好」

ぼやきながら階段を上がって行く。 この下宿の二階に上がるのは、初めてだ。 朝美の部屋は、直ぐに判るのだろうか? 等と、関係ない事を考えて、自分の姿を忘れる事にした。

「倉真君! なにぼやいてんの? こっち」

朝美の部屋のドアから顔を出して、秋絵が呼ぶ。

 朝美の部屋は、階段を上がりきった取っ付きの、直ぐの部屋だ。

「っつーか、マジ、コレしかないのか? ……大体、リクルートスーツさえ着た事、無いんだぞ。 肩凝りそーだ」

頭を上げて秋絵に、首を解す様を見せる。

 ニマリと笑った秋絵がドアの前から身体を避けると、朝美に背中を押された、ドレスアップした利知未が恥ずかしそうに姿を見せた。


 首を解していた倉真の頭が、右45度の可笑しな角度でピタリと止まってしまう。 もう一言、文句を言いかけた口も、半開きだ。

 まだ、階段を上がり切る前だった。 ワンピースの前スリットの中身も覗けそうで覗けない、かなり色っぽい眺めだった。

 利知未が慌てて、小さなハンドバックを持った手で、スカートの前面部分を押さえた。 色っぽい恥じらいを見せる表情とその動作に、益々、見惚れてしまった。

 クラリと来て、足を踏み外しそうになってしまった……。

 後ろから覗き込んでいた朝美の笑い声が、秋絵の小さな笑い声に重なる。

「素晴らしいリアクションを、ありがとう!」

「はい、カット! 良いシーンが、撮れました」

目に見えないカメラを回して、秋絵も一緒になって、冷やかした。

 まだ止まっている倉真の所まで、利知未を後ろから押して行く。

「ちょっと…! 階段、危ない」

小声で軽く抗う利知未の様子は、随分と淑やかだ。 そんな利知未を、朝美も秋絵も始めて見せて貰った。 当然、倉真も初めてだ。

 朝美と秋絵はチラリと視線を合わせて、満足そうな笑みを交わした。



              四


 二人に冷やかされ、送り出されて、漸く正気が戻った倉真と里沙の車へ向かった。 さっきから二人とも、一言も言葉を発していない。


 角を曲がり、里沙の車を置かせて貰っている、手作り家具製造工場の屋根が見え始めた。 倉真が、やっと言葉を発した。

「……良く、似合ってる」

「……ありがとう」

「取り敢えず、会場近くの喫茶店でも探してみるか」

「そうだね。 …じゃ、なくて、そうね、かな」

「どっちでも良いんじゃないか?」

「朝美からの厳重注意事項だから。 ね、倉真。 今夜だけは、慣れてね?」

「……おお」

返事をしたけれど、心の中では、ずっとこのままでも良いかも知れないと思ってしまった。


 利知未一人と付き合っている筈なのに、何人もの女性と付き合ってる様な気分になってしまう。 FOXで少年として振舞っていた利知未も、その正体がばれてからの利知未も男前な感じで、格好良かった。

 仲良くなるに連れて、時折は女らしい雰囲気も見せて貰える様になった。 それから付き合い始める前までの利知未は、その女らしさを見せてくれる瞬間が、段々と増え始めていた。


 最近の利知未は、すっかり実年齢なりの女性と言う感じだ。

 何かあった時に出てくる昔の雰囲気も、良い刺激になっているかもしれない。 その上、今日の利知未は色っぽくて、かなりの淑やかさだ。


「一生、飽きないで済むだろうな」

 車の近くへ到着した。 倉真は助手席のドアを、お抱え運転手にでもなったつもりで、大きく開いて利知未を促した。

「飽きないって?」

促されて、照れ臭そうに乗り込みながら、倉真の呟きに反応した。

「お前、色んな顔があるな。 ……今日は、かなり善い女だ」

照れ隠しにそう言いながら、倉真は助手席のドアを閉め、運転席側へ回った。 利知未が、倉真が乗り込むのを待って、少し膨れて聞いた。

「今日は、って、どういう意味よ?」

「訂正。 何時も以上に善い女だ。 ……で、イイか?」

恥ずかしくて、まともに利知未の顔は見れなかった。 顔を見ないようにしながら、エンジンを始動した。

「オートマか。 運転に、飽きちまいそうだな」

 呟いて、ゆっくりと車をスタートさせた。



 下宿を出たのは、四時過ぎだった。 のんびり走らせ、渋滞に捕まってもまだ余裕だ。 五時半頃には、会場近くの道をウロウロしていた。


 目ぼしい店は見付からない。 パーティー衣装だ。 ファーストフード店へ入るのも、向かないだろう。 それ以外は、高級そうなレストランが何件か。

「七時からって事は、三十分くらい前に会場へ入れば良いよな」

「商談相手と会う訳でもなし、名刺交換する必要も無し。 二十分か十五分前でも、いい位じゃないかな?」

「あと、一時間以上有るな」

「ホテルに車だけ止めて、歩いて探してみる?」

「靴が慣れないだろ。 俺は、靴擦れが出来そうだよ」

気が乗らないのは変わらない。

 利知未は、敬太とのデートを思い出してみた。 こんな時、彼はどうしていただろう……?


「ホテルの中にも、喫茶スペースは在る筈だな。 パーティー会場になる様な所は、特に。 ね、やっぱりホテルの駐車場へ車、止めちゃおう」

「了解」

ウインカーを出して、地下駐車場へ滑り込んだ。



 エレベーターで一階へ上がり、フロントへ、今日ここで開かれるパーティーの出席者である事を告げ、コートを預けた。

 喫茶ラウンジが二階にある事を確認して、エレベーターに乗った。


 エレベーターを降りた途端、広々としたラウンジが目に入った。

「……在るのが、当然見たいだな」

倉真は、こんな所へ入るのも初めてだ。 呟いてしまった。

「大体は、ね」

短く答え、先に立って歩き出した。


 こう言う所では、敬太は何時もレディーファーストで行動してくれた。 それがマナーなのだろうと、敬太の所作を見て利知未は覚えた。

 口で説明するよりも、雰囲気で倉真に判って貰えれば良いと思った。


 物怖じする事無く自然に振舞う利知未を見て、倉真は内心、驚いた。

『俺が着いてくる必要も、無かったんじゃないか……?』

 動きが止まってしまう。 利知未が気付いて、首を傾げる。

「どうしたの?」

「いや。 何でもない」

 ゆったりと構えられている席へ着き、珈琲をオーダーした。

『ブレンドで六百円するんだな』 高いと思う。

こんな所で金額の事を口にするのも見っとも無い感じがして、倉真は無言でウンザリ顔を見せる。

「今の内に、タバコ吸っておこう」

呟きながら、利知未が小さなハンドバックから、見慣れないシガレットケースを取り出した。 細身のタバコが七本程入っている。 朝美に渡されたのだ。 ハンドバックが小さいのだから、コレが丁度良いだろうと言われた。

「徹底的だな」

「ファッションについては、朝美はトコトン拘るから」

ライターも朝美からの借り物で、細身のガスライターだ。 注意されて来た通り、口の端に軽く挟むようにして吸ってみた。

「こうして吸っても、あんまり美味しくないかも……」

つい、ぼやいてしまった。

 朝美が細身のタバコを吸っている理由が、判った気がした。 口紅の乱れが、普通の太さの物よりも少なくて済むみたいだ。


 珈琲が運ばれて来て、利知未は軽く口紅を紙ナプキンで抑えてから、口を付ける。 これは、アダムでのバイト中に、上品そうな女性の所作を見て覚えた事だ。 気の付く女性は、口紅の痕が必要以上にグラスへ付かない様に、そうしてからカクテルに口を付けていた。

 仕事で洗い物もしていた利知未は、その差を身を持って教えて貰った。


 利知未の所作を、テーブルに肘を突いて、つい眺めてしまった。

「倉真。 行儀、悪いよ?」

利知未に怒られてしまう。 仕方なく姿勢を伸ばして、腕を組んで見る事にした。 それも、余り行儀が良いとは言えないかもしれない。



 何とか一時間近い時間を潰して、会場へ向かう事にした。

 その間に、お互いの姿にも漸く見慣れた。 利知未は気合を入れ直した。 ここからは、絶対にボロを出す訳には行かない。


 今日は倉真に人身御供になって貰う事よりも、大事な目的が有る。

 隆史のモデルにイメージされる人物像と、実際の人物像が余りにも掛け離れて見えてくれる事が大事だ。

 その先に計画されているのは、主人公、隆史人気で持っている小説の為の対談だ。 イメージが遠過ぎれば、無理に対談などさせる必要もなくなるのではないか……? そう踏んでいた。

 倉真の同伴意義は二つ。

 実際のモデルである利知未よりも、隆史に近い男性の存在として、編集者側に捕らえて貰う事。 それと、利知未が女らしく居るための、心の安定剤。


 上手く流れれば、話題性重視の対談計画は矛先を変えてくれるかも知れない。 そんな淡い期待も、あるにはある。



 十五分前に会場へ到着した。 冴吏が気付いて、直ぐに近付いて来る。

「ようこそ。 久し振りだね、利知未」

「お招きに預かりまして。 元気だった?」

「病気一つ、してませんよ。 ……成る程、そー来たか」

「何の事かしら?」

すっとぼけて見せた。

 利知未の特技は、最近すっかり磨かれた猫被りと、昔から変わらない、気持ちの切り替えの素早さと、徹底だ。

「いえいえ、何でも。 館川 倉真さん、でしたよね? 始めまして、ですね」

「そう言えば、そうなるのか。 本、読ませて貰ったぜ」

「ありがとうございます。 後でゆっくり、感想を聞かせて下さいね」

本心の読めない、笑顔を見せた。

『冴吏のヤツ、何考えてるのか判らないな……』

その考えは顔に出さずに、利知未も笑顔を浮かべていた。


 二人の間に挟まれて、倉真は少し引き気味になってしまう。

『女って、怖い生き物だよな……』 中学時代にも、同じ様な気持ちになった事がある。

 あれは、宏治の部屋へ泊り込んでいた正月の出来事だった。

 あの時は美由紀から、意味ありげな微笑を返された。


「パーティーが始まるから、奥へどうぞ」

 冴吏に促され、二人は会場へ踏み込んだ。 受付の担当者や招待客達の、興味深い視線を集めていた。 これは、気の所為では無いだろう。

 今日この会場へ、主人公のモデルとなった人物が呼ばれているのは、皆が知っている。

 パーティーは、新人の作家が出したハードカバー小説が異例の売れ行きを見せている事への祝いと、来年から続編が始まる事への激励と、宣伝を兼ねた物だった。 ほぼ内輪だけのパーティーで気楽な事は気楽だが、早くも作品に目をつけた某テレビ局・ドラマ担当部の実力者も数名、招待されている。 マスコミが面白そうなネタを、捨てる事は無いだろう。


 利知未達は、直ぐに編集長へ紹介された。 冴吏は、どちらが隆史のモデルなのかは明言しないで置いてみた。

「下宿時代の店子仲間で、瀬川 利知未さんと、友人の館川 倉真さんです」

並んでいる二人を見て、編集長は騙された。

「君が、隆史のモデルか」

倉真に向かって、笑顔を見せる。

「イメージ通りで、嬉しい事だ」

倉真は、利知未の顔を見て、冴吏にも視線を向ける。

「いや、あの、」

「残念ながら、モデルはこちらの女性です」

困っている倉真を見て、冴吏が言う。 編集長は利知未を見て、笑い出した。

「冗談は止してくれ。 どうして、この上品そうな女性が隆史のモデルになるんだ?」

豪快に笑い飛ばしてしまった。 冴吏は利知未をチラリと見て、肩を竦めてみせた。

「後で、ステージに上がって貰いたい。 宜しく」

笑顔で倉真の肩をポンポンと叩いて、誰かに呼ばれて行ってしまった。

「……お前、そう言うつもりで連れて来たのか?」

編集長に対して、何も言い返す余裕が無かった。 倉真に言われて、利知未が冴吏を軽く睨んだ。

「そう言うつもりは、無かったんだけど。 ……冴吏?」

「挨拶はして貰いたいって、今日になって言い出されたのよね」

笑いながら招待客の相手をしている、編集長を眺めやる。

「あの通り、豪快でワンマンな人だから。 断る事も出来なかったのよ」

そう言って、少し困ったような笑顔を見せた。

「ちょっと、信頼の置ける人にでも相談して見ようか? ついて来て」

冴吏に連れられて、今度は冴吏の担当編集者に紹介された。



「君が、隆史のモデルかい?」

 やはり、倉真を見てそう聞いた。

「違うんです。 隣の女性が、モデルなんです」

こちらは反応が違った。 目を丸くしている。

 冴吏とは、デビュー前から二人三脚で頑張って来たパートナーだ。 雲の上から眺めている様な長とは違って、作家の言葉に対して、確りと聞く耳を持ってくれている。

「編集長には?」

「到着したら直ぐに連れて来て欲しいと言われていたので、チラリと」

「……信じなかっただろう?」

「ええ」

「……そうだろうな。 さて、どうするか?」

「何か、ご都合の悪い事でもあるのですか?」

利知未が丁寧な口調で尋ねる。 その言葉に、一瞬、両眉を上げて言った。

「話される雰囲気も、イメージと随分、違うんですね」

上品な女性には、それなりの対応も出来る紳士らしかった。

「話題性の問題です。 実は、ドラマ化の話も出ておりまして」

ここだけの話ですが、と付け足した。

「対談の予定が、あると言うのは?」

「……そのようですね」

少し考えて、利知未が答えた。

「余り乗り気では無さそうですね。 ……無理も無い。 今のお仕事の都合も有るのでしょうから。 隆史のモデルを公表して、ドラマのオーデションの特別審査員をお願いしようと、考えているようです。 まだ、企画の前段階という所ですが」

 それは、確かに話題には上るかも知れない。

「逃げるか?」

倉真の言葉に、利知未は軽く笑ってしまった。

「そうしようか?」

二人の雰囲気を見て、担当編集者が聞く。

「お二人は?」

「この二人は、婚約者同士です」

冴吏が、代わりに答えてくれた。 彼は納得した。

「冗談抜きで、逃げた方が良いかも知れませんね。 ……彼は、しつこいですよ」

編集長の顔を思い出して、そう囁いた。



 相談している内に、パーティーが始まってしまった。

「ただ、ステージには、上がって貰う事になってしまいますが」

その後の対談と特別審査員に関しては考えて見るからと、彼は言ってくれた。 彼の立場では、この場で二人を逃がす事も出来ない。

「前沢さんは、信用しても大丈夫だよ」

冴吏は、二人にそう言ってニコリと笑った。

「嘘を付いても仕方ない、その後が面倒になる。 瀬川さん、済みませんが後で紹介されたら、出て頂けますか?」

 小さく溜息を付いて、利知未は頷いた。

「前沢さんを、信用させて頂きます。 イメージ通りの倉真が出て行ったら、騒ぎが大きくなりそうだし」

「そうですね。 お祭り騒ぎに拍車が掛かってしまうでしょうから」

「俺は、どうしていれば良いんだ?」

「直ぐに逃げ出すから、先に車とコート、取りに行っててよ?」

「それが良い。 まだ、時間があります。 それまで、ゆっくりとパーティーを楽しんで行って下さい。 料理はお勧めです」

 言われた通り、その時までは料理を堪能する事にした。


 一時間ほどして、冴吏が近付いて来た。

「そろそろ呼ばれるから、館川さんはトイレに行く振りでもして、会場を出て。 利知未は、私と一緒に来て」

頷き合って、其々、別れて行った。

 冴吏と一緒にもう一度、前沢氏の元へ行き、挨拶を交わした。

「騒がれてしまうかも知れませんが。 アフターフォローは、出来る限りします。 宜しくお願いします」

「ご迷惑、お掛けします」

今の内に言って置かなければ、この後で言葉を交わすのは、不可能だろう。


 司会者が、パーティーを進行して行く。

「本日は皆様のご要望にお応えして、ゲストをお呼びしております」

作品の名前を上げ、隆史のモデルとなった……、と言いかけて、原稿を確認し直してしまった。 女性の名前が書いてあったからだ。

 作者である冴吏と目が合い、頷かれて、改めて紹介をした。

 会場がざわめいた。 招待客は、ほぼ全員、先ほど見かけた強面の青年、倉真の顔を思い出していた。 ステージに冴吏と共に上がった利知未の姿を見て、更にざわめく。 冴吏がマイクに向かった。


 冴吏が挨拶をして、改めて利知未を紹介した。 利知未は紹介に合わせて、キッチリと頭を下げて、毅然とした顔を上げて見せた。

「話が、違うじゃないか?」

「そう言われましても。 今まで隆史のモデルが誰であるかは、全く触れておりませんでしたので」

囁き交わす声が聞こえる。 弁解しているのは、恐らく前沢だ。

 利知未は、思い切り媚びる様な笑顔を見せてやった。

「お騒がせ致しまして、申し訳ございません。 自分がモデルにされていたと言うのは、私本人も、今まで存じておりませんでした。 仲田さんとは昔、下宿へお世話になっていた頃の店子仲間です。 驚きと共に、光栄に存じております。 これからも、妹分として仲良く過ごして来た彼女、仲田冴吏を、私も応援して行きたいと思っております」

 喋りも雰囲気も、全くイメージと違う。 集まった者達全員が、狐に摘まれた様な顔をしていた。

 会場の中、唯一の味方である前沢は、驚きながらくすくすと笑ってしまった。


 マイクを冴吏に返して、締めを促した。 利知未はステージを降りて、真っ直ぐに会場を出て行った。

 あっけに取られていた客達は、つい、そのまま見送ってしまった。

『僕が頑張らなくても、対談と審査員の話は綺麗に流れてくれそうだ』

前沢はそう思い、ステージを降りて来た冴吏を、笑顔で迎えてやった。


 話題の人に逃げられてしまったので、その後、冴吏と前沢は大変な思いをさせられる事になった。 利知未の代わりに、質問攻撃を受けてしまった。

 編集長からも怒られてしまった。 けれど、嘘をついた訳ではない。

「昔と随分、変わってしまっていました。 私も驚いています」

冴吏はそう言って、誤魔化しておいた。


 その後も、本の売れ行きには心配した程の影響も無くて済んだ。 対談の話もお流れだ。  対談については、前広告を打っていた段階でもなかったので、傷は浅く済んだと言えるかも知れない。



 帰りの車の中で、利知未は笑っていた。

「どうなる事かと、冷や冷やしたぜ」

倉真は気が抜けてしまった。

「ま、何事も無く、で、良いんじゃない? 料理、美味しかったね」

「…そうだな」

気楽な利知未の雰囲気に、倉真も釣られて笑顔を見せた。


 冴吏からは、あの後、一度だけ連絡が入った。 その後の経過を報告してくれたのだった。


 月末までには、後一週間を残す。 月が替われば、年も明ける。 年明けには、元日から館川家への挨拶が待っている。

 年末年始は、年明けに希望休暇を申し出てあった関係で、大晦日まで仕事が入っていた。 その代わり新年四日までは、のんびりと休めそうだ。



 最後の一週間、普段と同じ生活をしながら、利知未は緊張していた。

 倉真の家族に紹介されると言う事は、将来の舅、姑とも初顔合わせと言うことだ。 小姑・一美とは、倉真に内緒で仲良くなった。


 偶に電話が掛かってくる。 倉真が出ると、一美は適当な話をして電話を切ってしまう。 利知未が出ると、女同士の長話が始まってしまう。

 倉真が風呂に入っているタイミングや帰宅前の電話なら、名前も平気で出すけれど、そうでない時は気を使う。

 倉真は勝手に、あのパーティー以来、一度、連絡を寄越した冴吏か、別の友人が相手だろうと、気にも留めない。


 倉真の勉強は、取り敢えず予定通りに進んでいた。 漸く一通りの勉強を終え、最近はこれまでの復習に取り掛かっている。

 少しだけ気が楽になって、利知未の緊張にも多少は気付く事が出来た。



 二十八・二十九日は、利知未の年内最後の休日だ。 倉真は二十九日が仕事納めだった。 晩酌をしながら、話をした。

「明日、明後日は遅出になるのか?」

「うん。 だから、今夜はのんびり晩酌、出来そう」

「で、休む間もなく、か」

「……そうだね。 ごめんね、今年は煮しめ作る暇、無さそうだよ」

「仕方ないだろ。 実家の煮しめ、貰って来るか?」

「タッパーでも、持ってくつもり? それは無いでしょう」

利知未の事を思い遣って、成るべく構えずに行ける様にと、冗談を言ってみた。 その優しさに、利知未は笑顔を見せる。

「構えなくて良い。 普段通りで居てくれれば、問題ない」

 利知未の笑顔を見て、ほっとして倉真が言う。

「ありがと。 ……でも、どんな格好して行けばいいんだろう」

そこが悩み所だ。 ベターなのは、ワンピースだろうか?

パンツスーツでも良いかも知れないけれど、そう言う席で座敷に上がる時にパンツルックと言うのも、違うかも知れない。

考えて、自分の持っている服を思い出してみた。

「この前のパーティーの時のは、セクシー過ぎるよな」

倉真の言葉に、ビックリしてしまう。

「確かにアレもワンピースだけど、着て行けないよ」

「冗談だよ」

「だよね。 良かったよ、冗談で」

「俺としては、あの眺め、気に入ってるんだけどな」

階段の下から覗き見てしまった角度が、今でも印象に残っている。

 倉真のニヤケ顔に、利知未は呆れてしまう。 けれど、緊張は中々、解れてはくれない。

『これからが、大事だから……』


 利知未の雰囲気を感じて、倉真は利知未の肩へ掛けた手に、力を込めてくれた。 その手の温かさに、利知未の心が少しずつ落ち着いて行く。

「……倉真。 頼りに、してるからね?」

「任せておけ」

言い切ってくれた倉真が、本当に逞しく感じられた。


 館川家への訪問は、もう、三日後に迫っていた。






  二〇〇六年 十月九日(2008.4.20 改) 利知未シリーズ・番外3

       研修医一年・九月から十二月 見つけてくれて、ありがとう  了



利知未シリーズ番外3『見つけてくれて、ありがとう』に、お付き合い下さいまして ありがとうございます。

 漸く、ここまで来ました。 取り敢えず一週間での更新、という事になれたのでしょうか……?(--;)


 最後までは、あと二つのお話があります。 次回のタイトルは、『素敵な勘違い』となります。 今月中に、ここまではお送りできれば良いのですが……。

 諸所の事情に寄り、今月中に最後までのアップは難しい感じです。

 五月の二週目中に最後の一つ、番外5『貴方は私の世界』を、上げられるように頑張りますので、また宜しくお願い致します<(__)>


 また、検索キーワードに、「利知未シリーズ」と、入力しておきます。

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