忘れられないニュース
テレビ。
テレビをつけるといろんな情報が飛び交っている。
どれが自分にとって大切な情報なのかよくわからなくなる。
またニュースを見ているとそれはそれは
事件が多い。殺人事件、交通事故、虐待、自殺などなど。
毎日毎日どこかで事件は起こっている。
明らかになっていないだけで
まだまだニュース予備軍として今でもどこかで
事件は起きている。
しかし時が経つにつれてどんどんと僕らの
記憶から遠ざかり、そういえばあんなニュースが
あったなぁなどと思い出したりする。
大半は忘れ去られていく。
しかし30数年僕が生きてきて
一つの忘れられない事件がある。
それは今でも鮮明に残っている。
一字一句覚えている。
皆様もご存知だろうか
あの連続実験殺人事件を。
世界中を震撼させたあの事件。
それを初めて知ったのは新聞のニュースだった。
まだテレビでは大きくは放送はされていなかった。
どこかの国の事件。
そこにはある男性が残虐に殺されていた。
犯人は複数犯である。
ニュースで声明文等も読まれていた。
その一部をここに記そうと思う。
「我々は実験動物解放軍。
我々の知らないどこかで
閉じ込められ毎日毎日四六時中
実験され続ける動物達の解放を
訴えるグループである。
我々は平和を愛する。
しかし平和などありはしない。
平和の裏側には残虐で
非道な人間達の闇やエゴで
一部の動物達がゴミのように扱われている。
いくら動物愛護団体が出来、解放されたとしても
我々のまた知らない所では残虐な実験が行われている。
話し合いでは無駄だ。
目には目を 力には力を
我々は宣言する。
実験動物に関連する組織
またはそこに関与する人間たち、家族一同
未来永劫に渡り全てを抹殺する事をここに誓う。」
これが最初の犯行の声明文だ。
その犯行組織の声明文の最後には
犬だか猫だかの肉球の判子が付いていたそうだ。
それが犯行組織のマークだと推測する。
殺された男はある動物実験施設で働いていた男だった。
死体には頭のこめかみに電極を埋め込まれ
手足の腱は全て切断されていたそうだ。
初めてこのニュースを知った時
僕はいまいち何が起きているのか
全く想像できなかった。
どこかの変質者の仕業だろう
そう思っていた。
そしてその例の動物解放軍とやらが関与する
ニュースはテレビでもどんどん大きくなっていった。
なぜなら他の実験動物施設で働いている人々が
様々に残虐に殺されていったからだ。
世界中で150人は超えている。
それも様々な国で。
テレビ局には実験動物たちに関与してきた人々に
同じ苦しみを味合わせる為に実験されボロボロにされていった
人間達のビデオも届けられた。
テレビではその映像は放映されなかった。
最初の事件から約2ヶ月後ある犯人の一人が捕まったそうだ。
どこかの国で幽閉されているらしい。
本当かどうかはわからないらしい。
その犯人の一人を問い質したそうだ。
犯人は「何もしらない」と言う。
ただ知っているのは組織の人間は
頭からはすっぽりと
あらゆる動物たちの着ぐるみを
かぶっているらしかった。
服装は全員がスーツだそうで
顔も名前も国籍も知らない。
ライオン、虎、ウサギ、豚、猫、犬、などなど。
しかしそれ以上の情報はその後
明るみにされなかった。
それからというもの
実験動物施設は職を辞職する人が
どんどんと増えていき閉鎖される施設もあったという。
数ヶ月間に渡ってこのニュースが流れていた。
また次々と動物実験に関与する人間達は
殺されていった。
ニュースではその犯行グループ以外にも
どこかで動物実験が行われている事にも
人々は関心を示していった。
映像等も放映された。
どんな実験が行われているのか。
狭い檻に閉じ込められた動物たち。
犬や猫、豚に猿に鳥、ねずみ
そこでは本当に目を疑いたくなるような
残酷な実験が行われていた。
動物たちは生きたまま刻まれ
死ぬまで治療もされずエサも与えられず水も与えらず
死んでいった。
僕が見たある実験では
ある子猿に盲目の実験と称して
視力を損失させる実験が行われていた。
目は両方とも縫い合わされ頭も縫い合わされていた。
生まれた時から頭にプラスチック製の
何かを取り付けられていた。
また頭にはとてもうるさい音が流されていた。
ひっかく音やガンガン鳴る音、また鋭い音など。
とてもかわいらしい小猿だった。
何の為にそんな実験をしているのか僕には
理解できなかった。施設の人は、楽しそうに
その実験を行なっていた。
全ての人が楽しんでやっているとは思わないが
その一部の人は楽しそうにやっているように見えた。
まだまだそれは一部な事で
どこかの知らない所では
まだまだそういった無意味で残酷な
実験が行われているんだなと思った。
明るみにされない実験動物たちを心から
悲しく思った。
それからまたしばらくして
動物解放軍の新しい声明文が
ニュースで取りあげられていた。
「我々はこういった実験を行う限り戦い続ける。
我々が犯罪をしているのは百も承知だ。
捕まれば死罪は当然の事だ。
しかし我々はもう止まらない。
もはや我々人類もろとも滅びるまで」
言っちゃあいけないけど
僕は元々動物が好きなので
心のどこかでその戦う人達を
応援するようになっていた。
その時はまだ自分がそう思っていることには
気が付いていなかった。
彼らのやり方は間違っている。
だが・・・
何が間違っているのかがわからない。
動物は残虐に殺してもいいが
人間は殺してはいけない・・・
そして忘れられないあの映像が
僕の目に飛び込んできた。
ある日の夜テレビを見ていると
突然画面が変わった。
そこにはスーツ姿に
頭には様々な動物の着ぐるみを着た
人間が数人写っていた。
ライオンに猿に虎に犬や猫に熊。
またちょうど画面真ん中には
白衣を着た男性がイスに縛り付けられていた。
字幕でこう書いてあった。
「〇〇実験動物研究所 主任R・H
全世界に向けて我々のメッセージ
生中継で今から人体実験を放映する」
これが電波ジャックというものか?
頭にライオンの着ぐるみを被った人が話し出す。
「我々は動物実験解放軍。
まだまだ世間の人々にはわからないようだ。
人間は進化してきた。
何故に進化してきたのか?
我々は幸せを願う。
そのように出来ている。
人間は思考しあらゆる知恵を出し
文明を築いてきた。
しかしどこか間違った方向へと進んでいる。
みんなどこかで感じているはずだ。
いつまでたっても争い続け
戦争は無くならない。
正義の名のもとに人を殺す事を許し
我々は間違いに気づいていたとしても
それを許してしまう惰弱な生き物だ。
国により貧富の差も縮まらない。
ある国ではいつでも食べることが出来
ある国では飢餓に苦しみ
私たちはまだまだ協力しあう事ができずにいる。
私達はより多くの幸せを願い
今のままじゃあまだまだ幸せになれないと感じている。
もっともっと幸せをください。
まだまだ足りない。
もっともっとたくさんのものがあれば
幸せになれる。
そう思い込んでいる。
しかし今幸せじゃないとすればいつ幸せが来るというのか
また我々が幸せを感じる時
我々の知らない所ではたくさんの
苦しんでいる存在たちがいる。
それらを闇に葬って我々はそれらを
見ないようにしている。
知らないようにしている。
私には必要のない情報だ。
見る必要もなければ知る必要もない。
しかし人間はそれではいけない。
我々はもっと真実と戦うべきだ。
我々の歴史は血で塗り固められ作られてきた。
実際私含めこの組織もそうだ。
卑怯な人間達だ。
「力には力を」
それしかないと思っている。
だがいつまで経ってもこういった残虐な現実は無くならない。
金、金、金
金は命よりも重い。
そういった時代だ。
我々ははまだ幸せに追いつける時代ではないのかもしれない。
我々は更に進化しなければいけないだろう。
やがていつか地球は滅びるであろう。
そして人類も永久に消滅する日もくるだろう。
しかしそれらを超えて今しか生きることは出来ない。
我々は今を戦う事しか出来ない。」
僕は時間を忘れ食い入るように画面を見つめていた。
画面は変わり様々な動物実験されている
映像が飛び込んできた。
残虐・・・
悲惨・・・
悲鳴。
とても見ていられない。
でも僕はそこから目を背ける勇気がなかった。
人間はこの痛みを感じることは出来ない。
しかし映像の中の動物たちは
言葉はわからなくとも
散々な悲鳴をあげているようにしか見えない。
彼らはとても傷つき、痛みを感じている。
どんな動物でもそうだ。
ボロボロにされやがて力尽きる。
動物も涙を流している。
何の為に生まれてきたのか?
僕ら地球の生命たちは食物連鎖で成り立っている。
殺して食べないと生きていけない。
病気を治す為には実験される存在、
犠牲も必要な事だ。
それはわかっている。
でも見ていてそれらの上に成り立っている
僕たち人間はこのままで良いのだろうか・・・
人間とは何か?
動物と何が違うのか?
動物は人間の犠牲にならなければいけないのか?
生まれては活動し
死んでは活動を止める。
命。
命は生まれ死んだら消える。
同じではないのか?
死んだら終わり・・・
ならば共存する生き方を考える必要は
地球で生きていく同じ生命として
前提として考えねばいけないのではないか?
悲惨だ・・・
悲惨すぎる。
僕たちが本当の幸せを追い求める存在なら
もっともっと謙虚にならなければいけないのではないのか?
やがて残虐な映像は消え
また彼らが映り出した。
ライオンは話し出す。
「私達は今までの行動を微塵たりとも後悔はしていない。
この活動を止めることもない。
まだまだ世の中の関心ごとは
自分が幸せになる事ばかり。
だが我々はそうはさせない。
我々この組織はこの白衣の男性の
行動をじっと内部に潜み観察し続けた。
こいつは悪魔だ。
実験と称してどれだけ自分のサディストの
欲望の為にたくさんの動物をいたぶってきたか・・・
今から同じ痛みを知るがいい・・・」
そういってライオンはドリルのようなものを手にした。
白衣の男性は猿ぐつわをされてイスに縛られ
身動きできずにいる。
泣きながら何かを叫んでいる。
他の動物の着ぐるみをかぶった人達が
白衣の男性を押さえつけている。
ドリルは回転し男のこめかみにどんどんと近づいていく。
と、その時
カメラは激しく揺れ
誰かに銃で射殺されるライオンが倒れていた。
その後、もみくちゃの末映像は消えた。
ニュースではその団体を全て検挙したそうだ。
その組織については明らかにされていない。
僕はあの事件が今でも脳にこびりついて離れないでいる。
人間はこの先、真実と戦う日がくるのだろうか
あれからテレビは見なくなった。
久しぶりにテレビをつけてみると
相変わらずどうでもいいようなニュースが流れていた。