アヤ、驚愕する
「え゛」
「貨幣が分からなければ、渡された金額なんて、わからないですよね」
「こ、こんなにコッチの人は稼いでいるものなんですか…?」
若干声が引き攣っている。リリィーから聞いた、お金の計算。シドがどれだけ規格外の金額を渡したのか分かってしまったからだ。日本円換算ざっと、一億。0が8つ。サラリーマンが一生働いて稼ぐ金額。宝くじで当たる金額。それをぽんと投げてよこしたのだ。
「まさか! 四人家族で20万コリンあれば、十分生きていけます!大体一部の冒険者以外の平均収入なんて20万コリンそこそこですよ!」
「えっと、シドさんってすごい人…?」
「彼は上位ランカーですよ!見つけて(拾って)貰って良かったですね。下手したら、慰み者になっていた所ですよ」
「ほ、ほんとですね」
「「ふー…」」
ため息が出てくる。いきなり、異世界にも困ったけど、大金持つとどうしたらイイものか…。
「とりあえず、お店を持つ方向性でいいんですよね?」
「はい!」
「それじゃ、こうしててもしょうがないですし、街に行きますか。幸い資金はあることですし」
「そ、そうですね」
中央商業都市コリーン。その名の通り、この大陸のほぼ中央に位置し東西南北への流通をコントロールする場所でもあり、大陸において一番の物資供給量をもつ都市である。また税による統治ではなく、自主的な自営をしているため、身分制度のない都市。らしい。その制度のお陰でこうして、狐耳に猫耳の獣人さんが見られるという認識で間違いはないだろう。
「はー。つまり自由なんですね、ホントに」
「ええ、コリーンにおいてはね。他の都市というか国には、まだまだ身分制度が残っているし私達獣人の扱いもモノとして扱われるわね」
「モノ…ですか」
「ここ、コリーンにはそれがないから楽よ?代わりにお金は必要になるけどね」
「成程…」
「アヤさんは、資金がたっぷりあるんだから、どうせなら一等地に店を構えちゃいましょう」
「えっと、いくらぐらいかかります?」
「場所にもよると思うけど、大体4〜 5億コリンかしらね?」
「う…。倒れそうな金額です」
「何言ってんのシドがくれたんだから使っちゃいなさい。迷惑かけるんでしょう?」
「…はい」
「さー、行くわよ!どうせなら大通りに立てちゃいましょう!」
リリィーに連れられ、ギルドを出る。どうやらギルド自体がこの都市の中央に位置するらしく、東西南北へと大きな通りになっているようだ。大通りとなると東西南北のどれかになるそうだが、どうせなら一等地にしようかな?とアヤは思う。
「あの、リリィーさん?」
「ん、何かしら?東西南北のそれぞれの特徴かしら?」
「あ、いえ、その…場所決めたんですが…」
「あら?早いのね。どこの通りにするのかしら?」
「ここにします」
「へ?」
「ギルドに作っちゃダメですか?」
「え?え!?」
「見たところ、ギルド自体もガタがきてるようですし、資金丸々使って、ギルドの立て直しとお店を作ってみるのはどうかと思います!それにここ、一等地です!」
ニコニコ笑うアヤの笑みは、純粋だった。しかしだ、どこの商人も考えた事もないような事を言い出したのだから、リリィーも言葉を失う。確かに老朽化が進み、建て替えも視野にいれていたが、如何せん予算の問題があった。しかしどうだ、お店を入れるという条件で10億コリンの予算は、ギルドとしては、喉から手が出るほど欲しい。これは、ギルド長に打診するべきだ。
「…アヤさん。少々待っていて下さい」
リリィーは、出たばかりのギルドへ踵を返して走って行った。残されたアヤは、ふーっと息を吐く。
見渡す風景は、見慣れない。賑わう人々のなかに獣人の姿、ガタイのイイ人は腰に人振りの剣を差し、背中には麻袋。多種多様な種族。露天には見たこともない物が並び、列をなす。
「ふあー、ホントに異世界かー…。親孝行しとけば、良かったな」
零した言葉は、足音に揉まれて消えた。
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