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ぎゃくシュウ!





バシロ無双!これが刻印術だ!

―前回より―


「撃ち方止め。もういいだろう」


 ヒト一人を殺すには余りにも過剰な弾丸掃射は、その一言と共にピタリと止みました。

 素直に拳銃や機関銃だけで済ませればいいものを、榴弾砲や焼夷弾ばかりか火炎放射器や手榴弾まで使わせた所為か、濃密な煙に隠れ中央の様子は窺い知れません。


「幾ら大見得切ろうが所詮は霊長種。こんだけやられりゃ死体も残りますまいよ」

「その通りだ。よくやったぞティアーズ、お前達の仕事は何時も完璧だ」

 ホスト風の身なりをした蛾系外殻種の優男・ティアーズは、その穏やかそうな外見に反してレーゲンに付き従うゴロツキ共を束ねる知性派の悪漢でした。

「これもレーゲンさんのお力添えあってこそですよ。俺達と貴方が組めば、表裏両面からこのエレモスを掌握することさえ夢じゃあ――「うぁあ!?」

 ティアーズの言葉を遮って、ゴロツキの一人が間の抜けた悲鳴を上げました。信頼している上司の手前、格好良く決めようと思っていたティアーズは、腹立たしげに何があったのかと声を荒げます。

「(ったく……折角格好良くキメようと思ってた矢先に…)…どうした!?」

「へ……は……さ、さき、崎村がぁっ……」

「崎村がどうした?」

「崎村が、死んじまってますっ!何か、頭にナイフみてぇなの突き刺さって――「クナイだよ」――ひっ!?」


 ゴロツキの言葉を遮って響き渡った声を聞き、ゴロツキ達は一斉に声のした方向―つい先程銃口を向けていた方へ向き直りますが、それと同時に何人かのゴロツキが次々と地面に倒れては絶命していきます。

 よく見れば彼らは皆、先程死んでいた崎村同様頭に菱形の刃物―東方に伝わるクナイというものが眉間に深々と突き刺さっていました。


「レーゲンさん、こいつぁ……」

「言うなティアーズ。どうやら彼は馬鹿で非常識なばかりか往生際も悪かったらしい……」

 悩ましげに軽く額へ手をやったレーゲンは、煙が晴れつつある円陣の中央へ向かって語りかけます。

「いい加減姿を見せたらどうなんです、ジゴール先輩?トリックは知りませんが貴方が死んでないことぐらいもう解ってるんです。いい加減、勿体ぶるのはやめにしませんか」


 レーゲンの呼びかけに応じるように、薄れ行く煙の中からバシロが姿を現しました。

 とは言ってもその姿は、栗色のショートヘアにコーカソイド的な顔立ちをした霊長種などではありません。一言目には『黒光りする怪物』などの言葉が出そうなその姿は、差詰め如何にも強固そうな外骨格に覆われたクワガタムシの化け物でした。但しそれでもヒトめいたフォルムは失っておらず、外殻種というより虫を模した鎧という表現が妥当な外見をしています。


「……それが刻印術ですか。初めて見ましたが、まるで種族が変わったかのようですねぇ」

「元はただのキチン質だが、色々変なもん混ぜたせいで地雷踏んでも傷一つつきゃしねーぜ。銃弾なんぞ以っての外、腕っ節から五感までインチキかってぐれぇボーナスつく。自慢じゃねーがこと格闘じゃほぼ無敵、この場でお前ら殺し切るにも長くて20分ありゃ十分てとこだな」

「言うじゃありませんか。しかしその余裕、どこまで長持ちしますかねぇ?」

「……あ゛?」

 不穏な気配を察知したバシロは恐ろしい異形の姿を維持したままレーゲンを睨み付けます――が、対するレーゲンはまるで動じず、寧ろ嘲るような表情でゴロツキの一人に一言『連れてこい』と指示を下しました。

 そして拮抗状態のまま待つこと約二分。指示を受けて奥へ向かったゴロツキが戻ってきたとき、バシロは思わず絶句し、手に持っていた数本のクナイを落としてしまいました。


「んな……ぁ?」


 しかし、バシロがそうなったのも当然と言えるかも知れません。

 レーゲンの指示を受けたゴロツキが連れてきたのは、事も有ろうにバシロの弟・ロフィと妹・ケトだったのです。

 縄で縛られ、粘着テープで口を塞がれた二人は何とかその場から逃げ出そうと躍起になっていましたが、大の男に押さえつけられたのでは満足に動くことも叶いません。


「どうです、先輩。これでもまだ『20分で殺しきる』なんて言えますか?」

「……テメェ……何処までも腐りきった真似を……」

「そうさせたのは貴方ですよ?貴方は私に背いたがために、己が身を滅ぼすばかりか刻印術をも絶滅に追い込んだのですから」

「刻印術が……絶滅……テメェ、信田慎一はどうしたぁ!?」

「信田慎一……あぁ、あの間抜け面の禽獣種ですか?殺しましたよ?」

 そう言ってレーゲンは、バシロに向かって何かを放り投げました。

 角を持った獣の頭のようなそれは、よくよく見れば慎一の生首でした。

「あ……ぁぁ……んて、こった……」

「いい切り口でしょう?剣道十五段のティアーズにかかれば山羊の首如き大根のようなものなんですよ」

 唯一無二と信じてきた親友が知らぬ内に殺され、自分の眼前でゴミのように扱われているという現実を目の当たりにしたバシロは、それまでの威勢が嘘のように落胆してしまいました(それと同時に刻印術の変身も強制解除されたと言えば、ショックがどれほどのものかはよくおわかりかと思います)。

 一方のレーゲンは、言葉巧みに(というか、明らかに調子に乗った様子で)バシロを嘲りにかかります。

「いい気味……否、滑稽という方が正しいでしょうかねぇ先輩――いや、愚かなジゴールよ……お前はちっぽけなプライドや倫理のために親友を殺し、そして家族をも殺そうとしている。

生半可な正義感で善人を気取って大義を果たそうとした愚者が、己の弱さと愚かさを突き付けられながら絶望していく……これほどに滑稽な笑い話もそうあるまいよ」

 レーゲンは気取ったような喋りでバシロを嘲りますが、絶望バシロの耳にはそんな言葉など入ってくるはずもありません。

「……脆いな、やはり霊長種などこの程度か。よし」

 何かを思い付いたレーゲンは、懐から拳銃を取り出し言いました。

「お前達、手を出すなよ?このガキ共は私が、この場で直に殺す……一人ずつ、慎重になぁ」


 レーゲンは芝居がかった口調で言い放ちます――が、その時でした。


「クフッ……ヒヒヒヒヒ……ヒヒヒヒハハハハハハハ……」


 その笑い声は、落胆して床に倒れ伏したバシロのものでした。

次回、バシロが遂に発狂!?(そんなわけねーよ)

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