表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/47

エピローグ①

雨季明けのパーティからすでに一週間が経って、天気予報では梅雨明けが近いことを発信し始めていた。

 パーティが終わってから、僕はステラバンドのギタリストのコータローに会って直接、話を聞いた。どうしてハンタでもないのに綾織に協力したのか。そうコータローの鋭い目付きと大きな手はギタリストのもので、決してハンタのものではなかったのだ。つまり僕は完全に誤った判断をしていたのだ。

 コータローは語った。「なんつうかね、早く楽にしてあげたかったんだよ、結ちゃんもホウコちゃんもさ、結ちゃんは十五年、ただ一つの目的のために頑張ってた、その頑張りっていうのが尋常じゃない、話を聞いただけだけど、頼まれて、断れなかったんだよ、最後までいかせてあげたいって思うじゃん、僕がちょっと手伝えば辿り着けるんだよ、結果が何であれさ、ホウコちゃんも死んじゃったけど、結ちゃんも分かってたんだと思うんだけどさ、もう終わりにしたかったんだと思うよ、だから、僕は小田切がホウコちゃんを抱えて出てきて叫んだときも、よかったな、とは思わなかったけど、安心したんだよ、ホウコちゃんも安心したんじゃない? ……いや、僕が勝手に思うだけだけどさ、うん、ホウコちゃんの最後の微笑みは素敵だったね、……とにかくさ、ただ、僕はグリフォンの死体を拾ってきただけ、それ以上のこともそれ以下のこともしてないの」

 そうコータローはただ死体を拾って来ただけ。「死骸なら、コテージの下に地下室にある、羽根だけ頂いて、後は殺菌消毒して冷凍してあるよ」

「納得いかない、死体を拾って来ただけなら、その、数が合わない、グリフォンの死は、そんなに早くない」

「コテージには六十五頭いるよ、数が合わない?」

「いや、合ってる、六十五頭だ、死骸が見つかってないのは、うん、でも、信じられない、自然死というなら、多すぎる」

「そう?」

「なんだろう?」

「温暖化のせいだよ」

「そうかな」僕はコータローから視線を逸らす。

「そうだよ」コータローは頷いた。

 僕は黙ってシガレロに火を点けた。

 居心地の、決して悪くない沈黙だ。

 コータローは、そういう空気の持ち主だ。

 僕は考えていた。

その可能性を。考えられる材料を、このとき僕はすでに目にしていたからだ。データはリンクしていたのだ。偶然を、必然と言い換えることが可能なほどに。「そうかもしれない、グリフォンは気候の変化に、とても敏感で」

僕は煙を吐いてそのことについて考えるのを止めた。コータローの目は僕の反応になんの興味も示さなかったからだ。保留。

問題が解決される未来があることを願い。

そして、次の疑問を提示した。

 どうして僕たちよりも早く、コータローの方がグリフォンの死体を見つけられたのか。

「今度、飲みに行こうよ、いいパブがあるんだよ」コータローは愛嬌のある笑みで質問をはぐらかし、それに対しては何も語らなかった。

 僕はその誘いに前向きな返事をして、コータローとのコネクションを作った。長い付き合いになりそうだと、僕は予感した。

 そういう未来を期待したのだ。

 そして今、僕は冲方白庭研究室の小屋で、綾織が編んだというグリフォンのメイド服をテーブルに広げて、その最上級の質感を確かめながら考えていた。

 ウォッシング・マシン・ガールズが洗濯してくれたおかげで、このグリフォンのメイド服は完璧な白さを取り戻していた。

 しかし、どうしてこのグリフォンのメイド服は黒く染まったのだろうか?

 グリフォンの羽根で編まれた服は時間を止める。僕はそんなこと一度も聞いたことがなかった。他の動物の毛皮の類となんら変わることがないはずなのだ。生物学会の常識ではそうなのである。魔女が魔法を編み込んだと考えるのが自然だ。

 だとすると、と僕は考える。

綾織ユイ。

彼女は魔女ではない。

しかし、少しだけ、魔女になったのかもしれない。

編み込んだのかもしれない。

あくまで。

推測でしかないのだけれど。

 白いメイド服が瞬く間に黒く染まってしまった。

その反応の理由。

少しだけ魔女になった彼女に求められるのではないのだろうか?

 彼女はすでに新しい道を歩き始めている。

 ホウコの分まで、彼女は未来に前進しようとしている。

 ありきたりな表現だが。

 きっと、多くの人間は大切な人の死に触れて。

 自分の未来を大切に生きようとするものだ。

 綾織ユイの意志によって。

 ブルーチェーンズは解体された。

 その代わりに、水上市にはステラ・ベルという企業が再び出来た。彼女はそこの副社長に就任し、ジェットスキィの事業はそのままに、新たにロケッタ・ブースタの開発に取り組んでいくという方針を打ち出した。もちろん社長に据えられたのは、アンリエッタの恋人(少なくとも僕はそう認識している)である、ミステリアスな彼女。

「小田切君、」シノが外から小屋の扉を開けて顔を出した。「長谷部君から連絡あった?」

「いいえまだ、」返事をしたところで長谷部からメールが来た。「あ、準備出来たそうです、行きましょう」

 僕とシノはワゴンに乗り込んだ。

 そして五分くらい走って辿り着く。

 丁度、白庭の中心部。

 そこには背の高い櫓が組まれていた。六十五頭のグリフォンの死骸が、櫓の周囲を取り囲んでいる。

 周囲に高い木々などなく、一面、白い花々が咲き乱れている。

 それと対比されるのは、雨上がりの青い空。

 その場所へ近づくと、櫓の周囲に十数人、白いジャンパを来たメンバの姿が見える。

 シノと僕はそのメンバに加わって櫓を見上げた。

 この晴れた空の下で、今からグリフォンの死骸を火葬し、供養をするのだ。

 この様子を、きっとグリフォンたちはどこかで見ている。

 きっと来年には。

 このホワイトラグーンに六十五の新しい命が産まれるのだろう。

 それはとても、素敵なことだ。

 ホウコがシノに教えてくれたのだ。

 グリフォンたちの死生観。

 それはきっと。

 産業革命以前の、僕たちに似ている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ