第四章⑬
プラネタリウムが始まると小田切は大広間から出て、水色の館の様々な場所を調べて回った。小田切がアンリエッタのパーティの誘いに乗ったのは真相を確かめるためだった。シノは小田切にグリフォンの数が減っている理由を話してくれなかった。話してくれない理由も話してくれない。「まだ早い」とシノは言うのだ。だから小田切はこの件に対して積極的になっていなかったが、機会が与えられたら、話は別だった。この水色の館に対して元から興味もあった。あのホウコ、というメイドの少女も、ずっと気になっていた。
そしてコータローという男。彼は今日、ギタリストだった。同じ服装の三人のバンドのメンバたちと演奏しながら、愛嬌のある顔で微笑んでいた。一体、どういうことなのか、小田切には推測が出来なかった。コータローはハンタではないのか? ギタリストはただのカモフラージュか? そして他の三人のメンバもハンタなのか?
小田切は魔法使いではない。しかし、特殊な工具を使って鍵の掛かっている部屋に簡単に侵入することが出来た。書斎や衣裳部屋、音響室、絵画や骨董品などが無造作に並んだコレクションルームなど見ていて飽きる部屋はなかった。客室のような部屋ですら壁に有名画家の絵画が飾ってあった。きっと本物だろう。小田切はその裏を見て、秘密のスイッチがないかを探す。小田切は『僕は何をしているんだろう?』と子供みたいに笑った。
小田切は大広間の東側の扉、つまり玄関ホールから見て右側の扉から出て、調査をしていた。廊下は真っ直ぐ続いていたが、途中で北に向かって緩やかにカーブしていた。途中、大きな両開きのドアが左手に見えた。おそらく大広間への扉だろう。カーブは東側の起点から丁度西側の真反対の廊下まで続いていた。そしてそこから廊下は真っ直ぐに東に向かって伸びている。その先は大広間の扉だ。ここに来るまでに二階への階段は見なかった。それはつまり、大広間の階段を登るしか、二階へ行く方法はない、ということだろうか。
さて、どうするか。
ともかく、小田切は一階の西側の部屋を全て調べることにした。興味深いのは変わらないが、いかんせんグリフォンに関するものは出て来なかった。もちろん、秘密のスイッチの存在もない。しかし、初めてだったものもあった。それは鍵が掛かっていない部屋の存在。今までの部屋はその部屋の種類に関わらず、全て鍵が掛かっていたのだ。小田切は特殊な工具を使わず、その扉のノブを回し、ゆっくりと押した。
隙間から中を覗く。誰もいないようだ。音もしない。
しかし扉を三分の一くらい押したところで、何かに引っかかった。
なんだろうと、視線を上へ、そして下に降ろした。
小田切は視界に入った情報を即座に解析した。
人が倒れている。小田切は強引に扉を押して部屋に入った。
黒いメイド服を着た少女。
その横に跪いて、少女を仰向けにした。
呼吸が非常に小さい。
顔に生気がない。
その少女が、ホウコだと気付くのに小田切は時間がかからなかった。