第四章⑫
パーティの挨拶を終えた綾織はホウコの待つ部屋に戻った。
「あれ、忘れ物?」ホウコはさっきとほとんど同じ姿勢でベッドに腰掛けていた。
「いいよ、」綾織はホウコの隣に腰かけ、純白のメイド服を手にする。「着替えて」
「あ、もう時間が経ったんだ」ホウコは立ち上がって、背中のファスナに手を伸ばして、そして、綾織を見て動きを止めた。
「どうしたの?」
「向こう向いて」
「ああ、うん、ごめん、でも、手伝うよ」
「服を着替えるだけよ」ホウコは微笑んだ。
「……そうだね、でも、早くだよ、」綾織は壁に視線をやる。そして息を吐きながら目を閉じた。ファスナが降りる音。生地が擦れる音。ファスナが上がる音。それを聞きながら、心臓が暴れ出して、どうにかなりそうだった。「……ホウコ、大丈夫」
「うん」
元気な返事が帰って来た。振り向く。純白のメイド服を纏ったホウコは灰色のメイド服を膝の上で几帳面に畳んでいた。
「……本当に、なんともない?」
「うん、平気、むしろ、とっても気分がいい」
「着替えたから?」
「ありがとう、ユイ」
「いいのよ、」綾織はホウコを抱き締めた。ホウコも目を閉じて綾織を抱き締める。そしてキスした。唇をそっと離して、綾織は灰色のメイド服を手にし立ち上がった。「……じゃあ、洗濯してもらってくるね」
「長いキスだった」ホウコは微笑んだ。
「ばか」綾織は照れ笑いを浮かべ部屋を出ていく。
しばらくしてホウコは立ち上がって、壁に立てかけられた鏡の前で白いメイド服を着た自分の姿を見て一回転した。
しかし、一回転すると。白いメイド服は、灰色になっていた。
ホウコは鏡の中の自分の姿を凝視する。
何も感じていないような、空っぽの表情で。
そして、段々と鏡の中のメイド服は、その色を濃くしていく。
それをじっと見つめながら。
ホウコは時間の速さに飲み込まれるように、鏡の前で倒れた。