第四章⑨
「もう時間もない、ヘティ、私は信じてるから」
グロテスクな太陽の時計がある控室のソファに深く座ったスイコは口の前で五指を組んでアンリエッタを睨んでいた。それはつまり、失敗したら許さない、ということだろう。
「う、うん、」アンリエッタは頷いて、目を閉じて、乾燥機の魔法をイメージする。「き、きっと、大丈夫、だと、思う、……でも、ほら、僕、不器用だから」
アンリエッタはスイコに向かって、微笑もうとしたが、
「私は信じてるから」というスイコのよく響くアニメ声によって、アヒル口は閉ざされた。
「……はい、」アンリエッタは粛々と頷き、アヒル口を尖らせる。「ごめんなさい」
でも、魔導書は、一体、どこにいってしまったんだろう?
今朝、カバンに入れて、それから……。
……いや、今は、とても複雑な魔法を失敗しないように、イメージトレーニングを繰り返そう。
「別に攻めてないからっ」イメージトレーニングを邪魔するスイコのアニメ声。
カチンと音がした。「ちょ、そーいう言い方ってないんじゃないの?」
「あー、なんで、大事な魔導書を忘れてくるのかなぁ、」スイコは苛立っている。「洗濯して、それで終わりじゃないんだよ、乾燥しなきゃ意味ないんだよ」
「僕だって忘れたくて忘れたわけじゃ」アンリエッタも頭に血が上る。
「ヘティ、少し、黙っててくれない?」スイコは額に手を当てて目を瞑った。「あー、吐きそう」
「……僕、今のスイコとシーソしたくない」アンリエッタはボソッと呟いた。
「え、何か、言った?」スイコは噛みついてくる。
「ちょっと、二人とも、こんなときに喧嘩しないの、」イスミは無理に微笑んで優しい声を出していた。「アンリ、こっち向いて、スイコも私を見て」
アンリエッタとスイコは、ぶすっとした表情で同時にイスミを見た。
イスミは胸に両手を当てて、声を変えて言う。「私たちはウォッシング・マシン・ガールズ、人種も国籍も思想も関係なく、ただ世の中を洗濯するために集まった仲間だけど、でも、いつだって私たちは悲しみも喜びも憎しみもいやらしさも一緒に経験して、一緒に涙を流した、一緒なんだよ、私たちは、それってとても素敵なことじゃない?」
イスミがあまりにも真剣に冗談みたいなことを言うからアンリエッタは怒れるポーズを解除して、笑ってしまった。「なぁに、それ? 変なの」
「エリコだ、」スイコも少しリラックスしたようだ。表情が緩んで可愛い顔が可愛い。「でも、私たちは人種も国籍も一緒だし、思想だって、そんなに違ってないんじゃない?」
「そうね、」イスミは優雅に微笑む。「三人とも、可愛い女の子に目がないっていうところは共通しているよね」
「ヘティ、」スイコはイスミを無視して言った。「終わったらシーソしに行こうか」
「え、それって、どういう意味?」アンリエッタは聞く。
その折、部屋の扉がノックされた。
「はーい」と返事をすると、扉が開いて、トモコが顔を覗かせた。
「パーティの準備が出来ました」