第四章⑧
ナルミとレノア、水上女子環境保全団体の二人は屋上のカラフルガーデンの手入れを終え、ペントハウスの庇の影で身を寄せて、たわいのない会話をしていた。ナルミは楽しそうに笑っているが、一方、レノアはどこか上の空で、何かを虎視眈々と狙っている感じがしていた。
告白、とか。
きっと、そういうワードが、この状況にピッタリと当てはまる。
レノアは胸に手を当てて、一度、大きな深呼吸をした。
そして、口を開いた。
そのときだ。
「あっ、ああああああああっ!?」ナルミが、急に叫んで立ち上がった。
レノアは驚いて背中から倒れそうだった。「な、ナルミ? いきなり、なぁに?」
「ほら、見てよ、レノア、」ナルミの指は上空を差していた。「ステラだよ」
レノアも空を見上げた。ナルミの言うとおり、ステラが箒に跨って飛んでいた。物凄い速度だ。きっとスーパ・ソニックの魔法を編んでいるのだろう。「……本当だね」
「行くよ、レノア」ナルミはペントハウスの扉を開いた。
「ええっ!?」レノアは珍しく大きな声を出して反論した。告白が上手くいかなかった複雑な感情が声と一緒にこぼれているのかもしれない。「ステラを追うの? 外は雨だよ、それに今から追ったって、どこに向かってるかなんて、分からないよ」
ナルミは振り返って携帯の画面を開いた。画面には水上市の地図。そして点灯して動く赤い点。「ステラのピアスに発信機を、」
ナルミが皆まで言う前に、レノアはそれを遮って言った。「好きなの?」
「え?」
「ナルミはステラのことが好きなの?」
「え、ちょっと、レノア、何言ってんのさ?」
「異常だよ、ステラのことになると、ナルミってば、頭に血が上ったみたいに夢中になってさ、本当はステラのことが好きなんじゃないの? 幼馴染だし、絶対にそうだ、ナルミはステラが好きなんだ!」
「れ、レノア?」ナルミは困惑の表情を浮かべている。どうしたらいいか、全く分かりかねている表情。
「もう勝手にして!」レノアはそう叫んで、階段を駆け下りて行った。
「……なんなんだよ、いきなり、訳分かんないってば」ナルミはぶつぶつ呟きながらも携帯の画面を開いて、しっかりステラの位置を確認していた。