彼女の部屋。返信。
この物語は前作puer‐Jamの続編です。
前作を読みたい方は、砂さらら か Puer‐Jamで検索してみてください。又は以下のURLからどうぞ。
http://nw.ume-labo.com/dynamic/novel/a/n0493a/index.php
こざっぱりとした部屋。フローリングにアイボリーの壁紙。
木目の扉のついたクローゼット。
奥行き40センチほどの折りたたみデスク。
その前の壁にはにオードリー・ヘップバーンのセピア色のポストカードが数枚ランダムに貼りつけてある。
デスクにはノート型PCが一台。ポツンと言った感じで寂しそうに佇んでいる。
広さは6畳ほどだろうか。
ベッドでは寝息を立てている女性が一人。
傍には車椅子がある。
ベッドの宮には、何種類もの錠剤のシートとエビアンのPETボトル。
メンソールの煙草と灰皿。
そしてティッシュBOXとカッターナイフが無造作に置いてある。
ベッドの傍らにもう一人女性が立っている。
その視線は眠っている女性に注がれている。
奇妙なことに二人の顔は全く同じ。うりふたつだ。
やがて立っていた女性はドアの方へ歩き始め、部屋を出ていった。
終始無言で。いやその部屋は無音に包まれていた。
静寂を超えた無音。
歩く足音も寝息も音の実態を失って居り、誰の耳にも響かない。
ドアがやはり無音で閉まった。
僕は目を覚ました。
「綾女?」
僕の声は狭いアパートの部屋のなかで響きもせず、隙間風が抜けるように消えて行った。
また夢だ。
エリスの、恐らくは彼女の事故の夢を見て以来。2度目の夢だ。
今夜、夢の中に吉村綾女が二人いた。
一人は寝息を立てて居り。一人はそれを無感動に見つめている。
まるで何かの象徴みたいだった。
綾女が電話をすると言った期日はもうとっくに過ぎていた。
何日待っても音沙汰は無かった。
僕はもしやと思い携帯電話をとる。着信は無かった。
が、メールが入っていた。
エリスのマガジンだった。
今日、病院に薬だけ取りに行きました。
眠剤が変わった。
けど眠れません。
暇な方。
返信下さい。
byエリス
返信だって?そんなこと出来るのか?
僕は今まで全くそのことに気づかなかった。
やれやれ。
もっと早く知っていれば、僕は彼女と接することが出来たのだ。
もっとも通常のメールマガジン発行システムに返信機能は無い。
このシステムの特徴らしい。
僕が気づかないのも当然と言えば当然なのだ。
時間は深夜2時を過ぎていたが、僕は試しに返信してみる事にした。
こんばんはダニエルといいます。
貴方のマガジンに触発されて、貴方の詩などを紹介するマガジンを発行してしまいました。
ご迷惑だったかもしれません。
ともかく貴方の言葉に何か魅かれてしまったのです。
一度お話してみたかったのです。
まさか、メール返信できるなんて知らずにいました。
ずっと貴方と話をしたいと思っていました。
貴方の手首の傷をひとつでも減らせるのならと思っていました。
良かったら返信下さいね。待ってます。
byダニエル。
僕は送信ボタンを押すと煙草に火をつけた。
窓に目をやると曇っていて、今夜は月が見えなかった。
http://plaza.rakuten.co.jp/24jihatu0jityaku/
24時着0時発……
管理人MISS.Mさんの協力により執筆しました。本章より企画協力していただきました。