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アヤメ

この物語は前作puer‐Jamの続編です。

前作を読みたい方は、砂さらら か Puer‐Jamで検索してみてください。又は以下のURLからどうぞ。

http://nw.ume-labo.com/dynamic/novel/a/n0493a/index.php

「ちょっと待って下さい」

彼女は立ち去ろうとする僕を呼び止めた。

「何故私がその人。エリスって人じゃないと分かるんですか?」

「彼女の腕は多分貴方みたいに奇麗じゃないはずですから」

「エリスさんは腕に傷を負ってるはずなんです。多分たくさんの傷跡を」

僕は続けた。

「やはり貴方はエリスさんをご存知なんですね? こんなメールを書いている人なんです」

そう言ってから僕は携帯電話をポケットから取り出し、エリスのメールマガジンを見せた。

彼女は一読して頷くと。

「知ってます。このメールを書いた人」

自分から声を掛けておきながら、今度は僕の方が些か驚いてしまった。

「そうですか」

「僕は彼女を探しているんです」

「何のために?」

彼女はさっきより表情を幾分和らげて訊ねた。

「はい。言ってみれば好奇心なんです。変な意味じゃなくて、彼女と話をしてみたいと思って」

僕は自分の言葉が嘘ではないだろうかと思いながら、そう答えた。

「彼女と話したい」

そう言うと彼女(つまりは僕が声を掛けた彼女のことだ)は僕をまじまじと眺めた。

まるでスーパマーケットで特売のレタスの品定めをするみたいに。

「悪い人ではなさそうね」

僕の何処を見て彼女がそう思ったのか不思議だった。

伸ばしっぱなしの髪の毛を無理やりオールバックにし、不精髭を生やし ヨレヨレの色の褪せかけた紺白のボーダーのトレーナーシャツに、これもヨレヨレのチノパンツ。

おまけに踵をつぶしたテニスシューズ。

好印象を与える材料は僕自信ですら思いつかなかった。

それでも彼女は僕を悪人ではないと判断した。有り難いことだった。

もっともマトモな人間とも思わなかっただろうけれど。

「失礼ですが彼女のお友達ですか?」

僕は訊いてみた。

「どうしてそう思うの?」

「他に思いつかないからです。知っているとおっしゃったもので」

「そう。それならアナタは私に何か頼みたいのじゃないかしら?」

「もしそう出来るのでしたら」

「まあいいわ。ただ今は時間が無いの。私から連絡するから電話番号教えてもらえる?」

そう言うと彼女はトートバックから手帳を取り出した。

僕は名前と携帯の番号を伝えた。そして

「失礼ですがお名前を伺っても良いでしょうか?」

と言った。

「綾女。吉村綾女」

良く見ると彼女はとても美しい女性だった。スラリとした手足。女性らしい体の線。

黒地にさりげないブランドネームの入ったTシャツ。

太腿にピッタリとして裾の少し広がったブルージーンズ。

素足にはミュールといった服装と 長い髪を後ろで束ねアップにした髪も良く似合っていた。

白いうなじが眩しい。

彼女の名前をそのまま体現したような、そんな女性だった。

「綾女さんですね。良い名前だ」

「ありがとう。そう言うべきよね。あなたの名前も良い名前よ」

少しの間だけ彼女が微笑むと、そこにはとても親密な空気が流れた。

「2〜3日中に電話するからそれでいい?」

「ええ、有り難い」

「それじゃあ行くわね」

「突然引き止めて申し訳無かった。気をつけて」

そして僕らは別れた。

すっかり初夏といった感じの風が彼女の後姿を追い越して、街路樹の葉を大きく揺らしながら吹いて行った。


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