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下弦の月

この物語は前作puer‐Jamの続編です。

前作を読みたい方は、砂さらら か Puer‐Jamで検索してみてください。又は以下のURLからどうぞ。

http://nw.ume-labo.com/dynamic/novel/a/n0493a/index.php

静かな山間の道を車が走っている。深夜1時過ぎ。ドライバーは女性だ。

幾つものカーブを丁寧に抜けて山道を上って行く。もう40分上っただろうか?

見とおしの悪い左カーブ。不意に目の前が眩しくなる。大きな光の縄がその車の前に飛び出す。

サイレンの音が響いている。やけに大きく。まるで耳元で鳴っているみたいだ。

僕は突然目を覚ました。

サイレンはまだ鳴り止まない。そこが自分のベッドの上であることを確認し、僕は今の情景が夢であったことを知る。

サイレンは窓の外で鳴っていた。ブラインドを上げると救急車が近づいて来るのが見えた。

そして通り過ぎて行った。

やれやれ、サイレンのせいであんな夢を見たらしい。

それにしても見たことも無い女性だった。僕が今まで知り合った誰でもなく、そして誰にも似ていなかった。一体誰だ?

まあ夢の中のことだ。誰と知れない人物が出てきてもおかしくはない。

枕もとの携帯電話を取る。3:17。

メールが入っていた。


彼女のマガジンだった。




アタシハ ヒトゴロシ。


あたしは彼を殺した。

あたしはヒトゴロシなんです。


あの夜。

3年前のあの夜。

あたしは彼を殺したんです。







彼のところへ行って

早く行って謝らなくちゃ。





こんなものじゃ足りない。

こんなものじゃ足りない。






足りない足りない。

足りない足りない。

足りない足りない。

足りない足りない。





左手から流れる血の量。



こんなんじゃ行けない。

彼のところに行けない。



もっと海のように流れなきゃ



あたしは何で生きているんだろう。


もういいよ

もういいのに



アタシ マダ イキテル。

マダ イキテル ツモリナノ?





アナタはありがとうって言ったんだってね

アタシの上に覆い被さって



ハンドルと膝の間に挟まって。

ずっと呟いていたんだよね。



アリガトウ








それがアナタの










サイゴノ コトバ


byエリス



僕はタバコに火をつけた。

窓を空け唇から亜麻色の月に向かって、紫色の煙を吹き掛けた。

それからもう一度携帯のスクリーンに目を向け彼女のマガジンを読み返した。

もう眠気はさっさと僕を見捨てて出て行ってしまった。

今更、眠剤を飲んだところで眠れはしない。僕はタバコを咥えたまま車に向かった。


ロング・グッドバイ。

いつもの店の前に車を止めエレベーターで7Fにあがり樫の気の重い扉を押す。

カランカラン とドアについたカウベルがなりいつものようにネコが愛想良く振り向く。

「また眠れないんすか?」

「今まで寝ていたよ」

「起きてきたの?わざわざ?」

「目が覚めただけさ」

「もうダニエルないよ、どうします?」

「ラスティーネール」

「少々お待ちくださいませ」

そういってロック・グラスに球形の氷を落とし、フェーマス・グラウスとドランブイを注ぎステアする。50秒ほどでグラスは僕の前に置かれた。

「夢見でも悪かったんすか?」

「いつになく鋭いね」

「ま〜たそういうこと言う」

「俺はプロですからね。お客様の顔色くらい読めなくてどうするんですかぁ」

「悪かったよ」

そう言って僕はグラスを取り窓際のいつもの席に座る。

下弦の月がくっきりと団地の屋上すれすれに引っかかっている。


どういうことだ?あんな夢を見た後に今度はこんな内容のメール。

僕は決して勘の良いほうではない。それにここ何年か夢も見たことが無かった。

まるで彼女が見せた夢のようだった。僕は彼女の言葉とあの夢とを、交互に思い出しながら月が夜明けに飲み込まれその色を失うまで一人で空を眺め。3杯のグラスを空にした。

店を出ると春風が並木道の若葉を静かにそよがせ始めていた。

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