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そして僕は途方に暮れる

大した展開はないのですが、3度書き直して徹底的に文章を減らしましたので、読みやすくなってると思います。

もう少し書き進めてから投稿しようと思いましたが、最近アクセスが多いので、もし待ってくださっていたら申し訳ないと思いなおして投稿しました。次も可能な限り努力しますので宜しくお願いします。

困ったことになった。


と思ったのは、ずっと後になってのことだ。

「どうした? 人生に驚いたり慌てたりするようなことはなにもないぞ?」

と云うのは、僕の好きな小説の中の台詞だが、実を言えば僕はかなり気が動転していた。


(もっともその人物は台詞の後、大いに驚くのだが…これは余談だ)


ここ数年の僕は 鬱に陥って引きこもったり、眠剤や安定剤で呆としていたり酔っ払っていたり。

そんな生活が続いていたのだ。

思えば感動と云うか感情薄い人間だった。これほど活動的になったのも久しぶりだ。

だから僕は今、気が動転していることを喜ぶべきかもしれない。



それにしても。

何故突然に綾女が目覚めたのだろう。

アヤメはしばらくは目覚めないと言っていたし、僕も理由に気づいてからはそうに違いないと思った。


僕は病院に電話をして訊ねてみた。若いナースだ。

「意識は戻ったでしょうか?」

もしかしたら。

もうアヤメとひとつになって、以前の記憶も取り戻していないだろうか?出きればアヤメの記憶も一緒にであればいい。

僕は勝手な希望を抱いていた。

しかし間を置かず彼女は

「いいえ まだ…」

と答えた。

僕は

(そんなはずはない)

と、口を開きかけたが思いとどまった。

他人に話して解かる話ではない。

礼を言って僕は携帯を切った。

予想外だ。全くもって予想外だ。


綾女の意識が戻ったのでなければ何故?


電話の前と疑問が変わってしまった。


何故アヤメは消えたのだろう?




僕にそれが判るはずもなかった。

判ったことは事態が悪化したということだけだ。それも最悪の事態だ。


困ったことになった。


「君はきっと僕が助ける」

と言った。

「きっと助けるよ 死なせない」

とも言った。

だがこんな風に事態が変わるとは…

なんだってこんなに良くない方へばかり変わるんだ!


みっともない話だが、行き詰まると酒が欲しくなる。

逃げ癖と言われても仕方ないが、僕はそんなに出来が良くない。

酒ぐらい可愛いものだと許しもらいたい。

それに空腹でもあった。朝からなにも入れてない。

今日は色々あり過ぎた。

これからまだまだやることなすことがあるのだ。何をすれば良いかはまだ分からないが、戦士には休息も必要だ。

駅までもう少しのはずだったが、僕はちょうど目についた小さなレストランらしい店のドアを開けて 階段を降りた。

店に入るなり、その異様な空気にひるんでしまった。

壁一面に飾られた仮面。おびただしい数だ。

そのどれもがこの世のものではない顔をしている。

外観からは想像の難しい異世界だった。

席に案内されメニューを開くと、覚えのあるものがあった。

どうやらここはバリ料理の店らしい。

「ARAKとナシゴレンを」

と注文した。

アラックは有名なバリの酒だ。

ウイスキー並みの強さのある蒸留酒で、癖が強いが嫌いな味ではなかったと覚えている。

ナシゴレンは確か焼き飯だったと思う。

ほどなく見覚えのあるグリーンのボトルが運ばれてきた。

さっそく煽るようにロックで飲み始める。

(綾女 必ずなんとかするからまだ死ぬなよ)

飲みながらも胸の中には、そんな思いがくすぶっている。

久しぶりのアルコールに5分と待たず酔いが回ってきた。

スピーカーから流れているのは、ケチャ(またはケチャック)と言われる祭事音楽だ。

なにか香を焚いているらしく馴染みのない香りが漂っている。

チャクチャクチャクチャクと数十人分の声が、太鼓にあわせて叫ぶように甲高く唱和されている。

ガムランが不思議な音階をたどり、手拍子がやはり数十人でリズムをきざんでいく。

まだ2杯も空けてないはずだと思ったがARAKがトランキライザーとなり、僕はケチャのリズムに呑み込まれる。

それが何らかの作用をし始め、視界がゆらりゆらりと陽炎のように揺れ 光はにじみだす。

やがて揺れは渦のように、トンネルのように歪む。

カレイドスコープ。水万華鏡のようだ。

音楽はどんどん速くなり、そして音は大きくなって ついに世界を包み込んでしまった。

もう世界には、ワヤンの祭りとケチャしかないのだと言うくらい 音が大きく響きその瞬間 一斉に止んだ。


お読みいただきありがとうございました。

なにかご意見ご指摘がございましたら、コメント欄へ書きこみいただければ幸いです。

次話も宜しくお願いします。

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