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病院

この物語は前作puer‐Jamの続編です。

前作を読みたい方は、砂さらら か Puer‐Jamで検索してみてください。又は以下のURLからどうぞ。

http://nw.ume-labo.com/dynamic/novel/a/n0493a/index.php


アヤメは乗った時と同じように、スルリと車を降りた。僕は料金を支払いアヤメに続いた。

「君はどうする?まさか病室には行けないだろう?」

「ロビーに居るわ」

そう言うとスタスタとベンチに向かった。僕は一人で受付に行き、救急車で運ばれた吉村綾女の部屋はどちらかと訊ねた。

しばらくして「1224」という部屋番号を伝えられた。僕は礼を言って病室へ向かった。

ドアは開いていた。中に居た高瀬氏は綾女の手を握ってうなだれていた。

「失礼します」

彼は顔だけをこちらに向け

「ああ、来てくれよったですか。もう急なことで私らも驚いとったです」

「どんな具合なんですか?」

「命には関わるほどではないちゅうて聞いてホッとしたとこです」

「よかった」

「意識は戻るんですか?」

「今んところはお医者にも判らんらしいでねぇ」

「そうですか。それで原因は何か有ったのですか?」

「はあ なんでも発作みたいなもんだとお医者が言うて、ただ体力がかなり落ちとるて言いよったです」

「そうですか」

「僕に何か出来ることはありませんか?」

「はあ ありがたいこってすが、私らも何もしてやれんありさまで...」

彼は不安げに綾女を見つめ、そこで言葉は途切れた。

シンとした空気が流れた。綾女の腕には点滴がポツリ、ポツリと流れていた。

1分ほど経っただろうか。僕は彼に

「分かりました。僕にお手伝い出来ることが有ったら、いつでも電話を下さい。

まだしばらく鹿児島に居ますので。よろしくお願いします」

「お世話をかけてすまんこってす。分かりゃした。そうさせてもらいますでぇ」

「では今日はこれで失礼します」

そう挨拶して部屋を出た僕は振り返ってドアに手をかける。と。

部屋番号が目に入った。

「1224」

カチリと音がしてドアが閉まった。


僕はロビーに戻るとアヤメを探した。

場違いとも言える服装のおかげで一目で彼女を発見できた。

アヤメはベンチの側にある水槽を見ていた。

中ではネオンテトラが青く光りながら泳いでいた。

透明で背中がうっすらと青いメダカくらいの魚だ。

透き通った体は体内の骨や、わずかな内臓をも覗かせていた。

まるで病院に居る人々の生命を象徴するかのように、淡く脆くそしてはかなげだった。

ただ、光るその体は 命を燃やしているように僕には見えていた。


「ただいま」

と声をかけるとアヤメはいきなり

「じゃあ行きましょう」

と言うと来た時と同じようにスタスタとロビーを横切り自動ドアを出ていってしまった。

あわてて後を追う。

小走りに追い着くと

「行くってどこへ?僕は君と話したいことが幾つもあるんだよ、まだ」

アヤメはそれには答えず。

「タクシー呼んでくれない?」

「ああ、そうだね」

僕はロビーの公衆電話に行き、その前に貼ってあるタクシー会社に電話し車を呼んだ。

タクシーを待つ間彼女は終始無言だった。僕の声を一切無視して枯葉舞うアスファルトの空間を意味ありげに、いや、もしかしたらまるで見てさえいなかったのかも知れない。

それに、僕のことも一切見なかった。

ただ無言で寒空の中に微動だにせず、軍兵のように直立不動だ。

タクシーは中々来なかった。もう30分。身体はすっかり冷え切ってしまった。僕は缶コーヒーを買い彼女に差し出した。

「寒いだろう。持っときなよ」

「あら、ありがとう」

「女の壷を心得てるね」

「そんなんじゃないさ。ただ僕も寒かっただけだよ」


「ところで、君達を救うにはあの映画を信じる限り、鏡と聖水。そして一番の難問は、君と綾女をどうやって同じ場所に肩をそろえさせるかってことなんだけど、もし綾女が意識を取り戻せば君は消える。一体どうやって君達を並んで鏡に映す?それが大問題いだ」

「考えて、きっと方法はあるはずよ。あなたならきっと出来るわ」

「そう買かぶられても困るな。でも、やるしかない事は解かっている。先ずは聖水を手に入れなくちゃな」

「そうね」

「先ずは教会を探してみるよ」

「そう」

「何処かにNETカフェはないかなぁ」

「天文館に行けばあるんじゃない?」

「市内か?」

「そう」

「なんでそんなことを知ってる?」

「さあ、なぜかしら」

「きっと女の勘かしらね。うんん。誰だって思いつくことよね、繁華街には何でもそろってるって。そうじゃない?」

「なるほど」

「じゃあ僕は教会と聖水について調べてくるよ」

「あたしはどうすればいいの?」

「予定があるんだろう?さっき行きましょうって言ったじゃないか」



「ねえ、あたしを抱きたい?」

「…えっ!!」


もし読んでいただけたなら批評、批判、感想、採点などお寄せ下さい。必ず読みますのでお願いしますm(__)m

この物語は前作puer‐Jamの続編です。

前作を読みたい方は、砂さらら か Puer‐Jamで検索してみてください。又は以下のURLからどうぞ。

http://nw.ume-labo.com/dynamic/novel/a/n0493a/index.php


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