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この物語は前作puer‐Jamの続編です。
前作を読みたい方は、砂さらら か Puer‐Jamで検索してみてください。又は以下のURLからどうぞ。
http://nw.ume-labo.com/dynamic/novel/a/n0493a/index.php
まったく彼ときたら嘘ばっかり。
あたしは「好き」ってちゃんと言ったのに。
「僕は君の恋人にはなれない」なんて言っちゃって逃げて。
ホントはあたしのことが好きなくせに。
そのくらい判るんだから。
あのエリスって娘がいけないの。
彼はあの娘に同情しているのかしら?
でも、それだけでも無い気もするんだよね。
彼は鬱病だし、彼女はあんな身体で手首を切ってるし。
おまけに自殺未遂なんて。
ずるい。
彼の弱いところに付け込むようなことばっかりじゃない。
彼はあたしが、手首を切ったら愛してくれるのかしら?
あたしのほうが彼を幸せに出来るのに。
それも圧倒的に。
どうしてあの娘がいいの?。
全く判らない。男って。
だけどあたし、彼のどこが好きなんだろう?
多分いつも悲しげで、そして他人に優しくなろうとする。
彼は自分が優しくないことを知っているから。
そんなところが好きなのかもしれない。
彼のホントの気持ちが知りたい。
僕は決心はした。
綾女を少しでも救いたい。その想いに嘘は無い。
それにしても杏だ。
彼女のことをどうする?
僕は彼女の誘惑に負けて恋心を起こしてしまった。
今彼女を失うのは正直とても辛い。
愛してやれないことが更に辛い。
だが綾女への想いは、もはや愛に変わりつつある。
たとえ彼女が僕を「僕」だと思っていなくても。
じゃあ杏への気持ちはどうなのだ。
正直に考える。
彼女に対しては、青春時代の恋と同じ想いを抱いている。
出来ることなら彼女と恋人同士になりたい。
ただそれはあくまで恋なのだ。
もしそうなれば僕は杏から色々なものを奪うだろう。
杏が自由に出来る色々なものを。
人間関係の再構築もさせることになる。
そして束縛をするだろう。
恋特有の現象だ。
それに引き換え、僕には杏にあたえてやれるものが何一つ無い。
僕の時間は仕事に8割がたとられているし、この街に居る以上それを変えることは難しい。
時間が無いと言うことは、会って彼女のために尽くすことも出来ないということだ。
もっとも僕がそれほど優しい人間なら、「愛」のことだってもっとちゃんとしてやれたはずだった。
だから…
僕は怖いのだ。
彼女は「愛」の友人だったし、僕にとってもかけがえのない友人だった。
この間、唇を重ねるまでは。
その関係を失ってしまうのが怖い。
それと同時に、杏のような素敵な女の娘を手に入れたいという想いも確かにある。
自分に嘘はつけない。
綾女を愛しながら、杏を愛することが出来たなら…
僕がずるい男の本性を現せば、それは可能なことだろう。
愛とは一人限りに向かって発せられる感情ではないからだ。
杏に対する拒絶の言葉は、本当は全部嘘なのだ。
僕の心に少しだけ残っていた良心が、そうさせているのだ。
いったい僕はどうしたいのだろう?
身勝手な奴が、いい人ぶっているからこんな思いをするのだ。
まるで自らの足で13階段を登っているようだった。
僕の二人に対する想いは、迷宮をいつまでも彷徨って居た。
出口の無い迷宮を。
杏の帰り道をほの紅く照らすのは、十三夜の月だった。
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