決心
この物語は前作puer‐Jamの続編です。
前作を読みたい方は、砂さらら か Puer‐Jamで検索してみてください。又は以下のURLからどうぞ。
http://nw.ume-labo.com/dynamic/novel/a/n0493a/index.php
僕はすっかり泣き尽くしてしまうと、ある思いが胸に浮かんだ。
僕は綾女を守らなくてはならない。
この街へ来よう。そして彼女の傍に居よう。
それが僕に出来る唯一のことだった。
「高瀬さん。僕、この街に来ます。そして彼女の傍にいます。近いうちに引っ越してきます」
「そんな無理をなさらんでもええです。この子は私達が面倒みますけぇ」
「いえ、僕には責任が有るし、彼女は僕の存在を求めています。徹君の代わりに」
「きっと、そのことで役に立ちます。僕に責任をとらせてください」
「はあ…」
婦人は困惑していた。恐らく赤の他人に押しかけてこられても迷惑なのだろう。
でも、僕も譲るわけに行かないのだ。これ以上綾女を苦しめたくない。
綾女が僕を徹と思っている以上、回復の可能性は有るはずだ。
トラウマの浄化に役に立つかもしれないからだ。
結局その件は一度帰ってから、再度お願いすることにした。
次の日の夕方。僕は再び機上の人となった。
そしていつもの街に帰ってきた。
夕方の7時にアパートに着いた。
ドアの前にはひとりの女性が立っていた。
杏だった。
しまった。留守にすることを伝えていなかった。
僕は何気ない風を装って
「よう、こんばんわ。まあ、入れよ」
そう言ってドアの鍵を開けた。
部屋に入るなり杏は
「何処に行ってたの?]
まるで詰問だ。
「うん、ちょっと急に友達のところに行く用が出来てね」
「嘘よ、エリスさんに会って来たでしょう」
まったくどうして余計な勘が鋭いのだろう、女って奴は。
「違うよ」
「嘘」
「じゃあ、そうだ。綾女のところへ行って来た。これでいいかい?」
「会って嬉しかった?」
「あのな、彼女は自殺未遂したんだ。その見舞いに行っただけだ。何かいけないことがあるか?」
「自殺未遂?」
「そうだ、しかも原因は僕だ。行かないわけに行かないだろう?」
「アナタが原因?」
「僕も行ってみて判ったことだ」
「どういうこと?」
「説明が難しい。できれば話したくない」
杏は黙った。そして険しい顔をして僕の部屋を出ていった。
やれやれ助かった。このまま問い詰められたら気が滅入ってしまう。
杏のことは今までどおりの関係で居たい。
彼女は僕を愛すると言ったが、僕にはそれに答えることはやはり出来ない。辛いけれど。
そして僕はこの街を離れる決心をしたのだから。