8月の頃(2)
この物語は前作puer‐Jamの続編です。
前作を読みたい方は、砂さらら か Puer‐Jamで検索してみてください。又は以下のURLからどうぞ。
http://nw.ume-labo.com/dynamic/novel/a/n0493a/index.php
それからと言うもの。杏は2日置きに僕の部屋へ来るようになっていた。
いつも食材を抱えて。夕方6時になるとやって来た。
僕の胃を思い図って。中華粥。白粥。たまご粥。などが食卓に並んだそして決まって野菜スープ。
杏の料理の腕はなかなかのもので、外食慣れした僕をうならせた。
食欲などほとんど無いのに、杏の料理はするすると僕の身体に入っていった。
「実に美味い」
僕はそう言わざるを得なかった。
それにしても、こうも甲斐甲斐しい女の娘の世話になるのは嬉しくも有り。
そして途惑うものだ。
僕は杏を大切に思っている。死んでしまった恋人の同級であり一度は終わりかけた僕らを最後まで導いてくれた。結果は彼女の死という悲しい結末であったけれど。
それは杏に責任のないことだった。
前にも言ったが僕達は大切な友人だ。
しかしこの所。杏に対する僕の気持ちが揺れているのはとても問題だ。
僕は彼女に恋をしないと決めていた。けれども彼女の僕に対する好意は抗うには些か難しいモノがあって僕は困惑していた。
杏は僕が食事を済ますと。洗い物を済ませ、お茶を入れ10分ばかり僕に同席するのが常だった。
或る日彼女はダージリンのミルクティーを淹れてくれた。
僕の好物だった。
二人で静かに飲み終えると。
次の瞬間。
杏は僕にキスをした。それも唇に。
僕は拒むことが出来なかった。
ほんの5秒ほどであったが、僕には永遠に近い時間だった。
唇を離した彼女に僕は、言うべき言葉を失っていた。
呆然とする僕を置いて杏は出口は向かい。
「お休みなさい。お大事に」
そう言って部屋を出た。
後には甘美な空気と、やり場の無いうつろな僕の想いが徘徊していた。
僕の心の城砦はあっとゆう間に陥落してしまった。
僕は杏に恋心を抱いてしまったのだ。
そして、綾女にも深い情愛の想いを抱いているのだ。
僕はラッキーストライクの100mソフトパッケージを取りだし火をつける。
この10年煙草はこれに決めている。同じラッキーでもBOXタイプとは味が雲泥の差だ。
そして煙を深く吸い込み吐き出すと、誰にとも無く一人っきりの部屋で
「やれやれ」と言った。
僕は一体何処へ行こうとしているのか、皆目見当もつかなくなっていた。