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僕と彼女の途惑い

この物語は前作puer‐Jamの続編です。

前作を読みたい方は、砂さらら か Puer‐Jamで検索してみてください。又は以下のURLからどうぞ。

http://nw.ume-labo.com/dynamic/novel/a/n0493a/index.php

杏と別れて部屋に帰りついた僕はしばらく呆然としていた。

魔法が解けたみたいに心が疲れていた。

そしてショックだった。

まさかエリスが綾女だなんて。しかもあんな身体で。

彼女の苦しみは僕に計り知ることの出来るような、そんなものではなかったのだ。

僕はとてもやるせない気持ちになった。

それと同時に僕の胸をざわめかせていたものが、ハッキリと形を現し始めていた。

それは霧のような、雲のような曖昧な存在から 今は鉄の塊のように重く僕の胸に沈み込んでいた。



あたしの心は風に吹かれたブランコのように、時に大きく時に小刻みに 前後にそして左右に揺れ動いていた。

あたしはエリスとして彼に友愛以上の想いを抱いていた。

でもあたしの心の中には徹がいる。今でも三年前のままの徹が。


あたしは音を失い言葉を失い、身体の自由を失った。

でもそんなことはどうでも良かった。

徹さえ生きていたなら、あたしの心は悲しみとも苦しみとも無縁だったに違い無い。

けれど徹を失って、あたしの心は壊れてしまった。

この腕の傷はあたしの徹への想い。

消すことの出来ない徹への想い。

そして後悔。


でもあたしの心は揺れている。出遭ってしまった彼の所為で。

彼は三年前にあたしを引き戻してしまった。

徹と全く同じ姿で。

徹以上の優しさで。

出遭うはずのない人だったのに。

在っては行けない偶然だったのに。

神様は意地悪だ。

なぜあの人と出遭わせたの?

あたしの心はもう過去へは戻れなくなってしまった。

神様あなたは、またあたしを苦しめようと言うの?


あたしは今、嵐の海に呑まれた小舟のように。

大きく、そして激しく揺り動かされている。





僕は冷凍庫に三分の一ほど残っていたウオッカのボトルを一気に飲み下し、そのままキッチンの椅子に座り宙を見つめつづけていたが、衝動を抑えきれなくなってエリスに つまり綾女にメールを送った。


今日、貴方に出遭わなければ 僕の人生は違ったものになるはずでした。

今までずっと隠してきたことがあります。

貴方に出遭わなければ、一生言うことの無い言葉だったはずです。

でも、もう戻れないことを僕は知ってしまった。

だから貴方に伝えたいと思います。

僕は貴方と言葉を交わすたび、今まで抱いたことの無い 胸のざわめきを感じ続けてきました。

そして今日貴方の姿を見て、そのざわめきは硬い石の彫刻のようにハッキリ僕の中に姿を現しました。

こんなことが言えるようなものは、何も無い男だと言うことは十分に自覚しています。

でも今夜言わなければ、僕はきっと後悔の深い淵から這い上がることが出来ないでしょう。

だから貴方の迷惑を承知で言うことにします。


もう一度貴方に会いたい。

会って生身の貴方を感じたい。

どうか僕の願いを聞き届けてください。




いつまで経っても返信は無かった。

僕はその夜眠ることができなかった。


僕は一日待ち。二日待ち、三日待った。

そして四日目の明け方彼女のメールは来た。




アナタに出遭しまったあたしはどうすればいいの?

ずっと思っていました。

何処か知らないところであたしを支えてくれる人だって。


なのに突然、アナタはあたしの前に現れた。

あの人と同じ笑顔で。


お願いだからあたしを惑わせないで下さい。

アナタはあの人じゃない。

なのにあの人と同じ姿であたしの前に現れて。

あの日は隠していたけれど、正直途惑いました。


アナタの優しさは身に沁みるほど分かっていました。

でも遠く何処かに居る人だから。

何処に居るのか分からない人だったから。

だから安心して頼れたのに。


あたしはアナタと出遭ってしまった。

もういままでのようには話せない。

戻れないのです。


お願い。

あたしの心を連れて行かないで下さい。

ごめんなさい。

アナタに会うことは出来ません。


そのメールを最後に、彼女からのメールも彼女のマガジンも、僕のところへ届くことはなくなった。

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