23歳
この物語は前作puer‐Jamの続編です。
前作を読みたい方は、砂さらら か Puer‐Jamで検索してみてください。又は以下のURLからどうぞ。
http://nw.ume-labo.com/dynamic/novel/a/n0493a/index.php
「徹、(とおる)アイスクリーム食べたい」
湖を後にした二人は一路清里へ。
しょうがねぇなあと思いつつ徹は車を止める。
清里名物の大学寮のアイスクリームショップの前で。。
「アイスなんて何処もそんなに違わないだろぅ?第一寒いじゃねーか」
「そんなこと無いよ。ここのは美味しいんだから。ガイドブックにも載ってるし評判良いよ。寒くっても車の中で食べればいいでしょ。」
「そうかぁ?まあ綾女が言うならそうなんだろうな?」
そう言って徹はしぶしぶソフトクリームを買って来た。。
徹は一口舐めて。
「ああ、美味いわこれ」
「でしょ。でしょ。」
綾女は無邪気に笑う。
「ああ、さてお次は何処へ参りますか?姫様」
「中心街に戻って写真撮ろうよ。ウエディングドレスとタキシードで」
「お前さぁそんなので嬉しいのか?偽物だぜ」
「いいのぉ。徹はさ、あたし達の夢を疑似体験するの嫌なの」
「照れくせーよ」
「予行演習よ」
相変わらず、徹はしょうがねーなーと言う顔をしている。
「まいいか」
「行こうよ早く」
「OKお姫様。なんなりと」
徹と綾女は一泊で清里めぐりの最中。徹はほとんど綾女に引きずられていた。
だがまんざらでもない様子だ。
「しかし混んでるな。」
「しょうがないよ週末だもん。それとも海のほうが良かった?」
「いや、そっちも同じだろ。混んでるのは」
「大体俺は江ノ島界隈の茶色い海は嫌いだ」
「じゃあさ漬物や寄ってよ」
「はあ?漬物?勘弁してよ。まじで」
「お父さんの、お土産にするの」
「家族思いだな。はいはい行きましょう何処でも」
徹と綾女は今年で交際3年。徹26歳。綾女23歳。青春真っ只中。
「徹さ。聞きにくいんだけどあたしのことまだ好き?」
「はぁ?じゃ何か?俺は好きでもない女と、バイト代叩いてこんな人ごみの中 3時間も車飛ばして こんな山奥へ来るような寛大な男なわけ?」
「なんかさ、最近さ、突慳貪だし。もしかして飽きてないかなって…」
「何鬱になってんだよ。あ〜混んでる。写真撮ったらホテル行こう」
「お土産はホテルで買おうぜ。もう我慢出来ねい」
「うんいいよ。そうしよう」
二人は写真館によってぎこちなく結婚式風の写真を撮る。徹の姿が可愛い。
「やっぱ俺カッコ悪りい」
「だいじょうぶよ。あたし気に入った。幸せ」
「まあ綾女がいいならかまわないけどよ」
そしてホテルに戻る。
「ふう。一日200キロラリーは疲れるな」
「ごめんね徹」
徹は濃いサングラスを掛け直し、綾女の肩に手を回す。
「綾女は俺と一緒に湖が見たかった」
「それでいい」
「それだけで十分だ」
山の夕暮れは早い。未だ6時だと言うのに当たりはネオンで、どちらかと言えば毒々しい雰囲気をかもし出していた。しかしそんなことは二人には関係の無いことだった。
二人は二人だけの愛を確かめられればそれで良かった。
それから3ヶ月後のゴールデン・ウイーク。。
二人は筑波の犬の動物園にやって来た。
数々の種類の犬が居る犬専門の動物園だ。
ダルメシアン
キャバリアキングチャールズスパニエル
トイプードル
ビアデットコリー
ビーグル ラブラドールレトリバー
ローシェン
ロットワイラー
ワイマラナー
ワイヤーフォックステリア
そんな犬たちがたくさんいて。中にはショーをやっている犬たちもいた。
綾女はもう、すっかりご機嫌だった。
徹はと言えば犬に近寄るたびに逃げられてふて腐れている。
「犬にモテないね」
綾女が言うと。
「俺はホモ・サピエンスの雌にモテればそれで良い。犬ッコロの雌に興味はねーよ」
と悪びれる。
綾女は一日中犬たちと遊んで、すっかりご満悦だ。
閉館時間の17:00まで犬たちとじゃれ合っていた。
「おーい犬のお姫様。そろそろ行かねーか?泊まる場所探さねーと」
「そうね」
そして綾女は。
「帰りはあたしが運転するよ」
「そうか?それは助かる」
走り出して2時間どこも満室だ。
「ないね、泊まるところ」
「しかたねえな。どっか山のほうのモーテルでも探せば有るんじゃないか?」
そして見知らぬ山道を走るが、なかなかそれらしき建物も無い。
時刻は21:00を回っている。なおも山道は登って行く。
幾つものカーブを抜け少しきつい左カーブに差し掛かる。
対向車のヘッドライトが正面に飛び出す。
綾女が気がついたのは病院のベッドの上だった。
いつのまにか父親が来ていた。
「徹は?」
綾女はそう言ったが声になったのは「あーあー」と言う音だけだった。
父が近づいて何か言っている。
綾女には聞こえない。
そう言えば静か過ぎる。医療機械の音も看護士や家族の声も何も聞こえない。
すべては静寂の中だった。
数週間の入院中。レスキュー隊の隊員が見舞いに来た。そして徹の最期を伝えた。
事故は大型トラックとの正面衝突。
軽自動車の徹の車は、メチャメチャ潰されていたと言う。
助手席に居た彼は咄嗟に綾女をかばったのだろう。
救助活動の時、彼はハンドルと運転席の綾女の膝に挟まる格好でしばらくは息が有ったと言う。
かすかな声で何かを呟いていたそうだ。
その隊員が救急車で搬送するときにはっきり聞いた言葉は
「ありがとう。あや」
という言葉だった。
それを伝えに来たのだった。
隊員の胸には藤本亮というネームプレートが読めた。
「だからアナタはしっかり生きてください」
そう言って彼は病室を後にした。
これらは全て筆談で行われた。
綾女は既に聴覚を失っていたのだった。
半年後退院した綾女の姿は車椅子に乗っていた。
更に悪いことに左腕の麻痺。そして言語障害だった。
綾女の半年間は過酷だった。怪我の治療もそうだったが。
精神的にも恋人の前途を失ったことに苛まれ、おもい通りに動かぬ手足でいながら。
時々大いに暴れた。綾女は自分を責めていた。これ以上ないくらいに。
事故自体は大型トラックの飲酒運転が原因と言うことで綾女の過失は無かった。
だからと言って徹が帰って来るわけでは無い。
道端に手向けられた花束がそれを痛いくらいに物語っていた。
そこには深い秋の気配が重く垂れ込めていたのだった。
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24時着0時発……
管理人MISS.Mさんの企画協力。作詩提供により執筆しました