色々あった元団長と現団長のある日の話
薔薇です。
そう見えないのなら、それは此方の実力不足です。
今日は久しぶりの休日。営業混じりの進展報告の手紙を貰っていたので、ソイツの所に行こう……と、思っていたのだが。
寮を出ようとした時に”丁度良く”出会った寮母のイゼルダ殿に頼み事をされてしまった。
内容は、ある人宛の手紙を届けに行く事。時間に余裕は過分にあるので、謀られた頼み事を聞くことにした。
「シ、ヴィ……んん”っ。⸺アルノルト、今いるか?」
扉をノックする。数秒の静寂の後、扉が開き中から筋肉の塊が出てくる。相変わらず、鬱陶しいくらいの筋肉だ。
「んぉー……なんだお前か。どした、団長業のアドバイスでも欲しいのか?」
出てきた筋肉は、以前よりも酒と葉巻きの臭いが染みついている。堕ちたものだ、と何処か遠い目で彼を見る。
「違う。イゼルダ殿から届け物の頼み事でな。手紙を預かって来た」
「あぁ………まだ宛先を間違えてる野郎がいンのかよ。まぁ、あんがとよ」
筋肉は私から手紙を受け取り、中へと戻る……かと思って
いたが、突然振り返り私に声をかけてきた。
「そうだお前、今暇か?」
何やら、誘いを受けてしまった。
*
「たまには二人飲みもオツってな〜」
筋肉……いい加減面倒だな。名前、というより愛称でいいか……シヴィがその大きな身体を揺らしながら調理台で作業をしている。
周りを見渡すと、意外にも清潔に保たれているようだ。酔っ払いの葉巻依存者でも、掃除をするという頭は残っているという学びを得たな。
「ホレ出来た。炒りナッツだけどな」
「お前のその、取り敢えず炒める思考はいつまで何だろうな。シヴィ」
私用であろうワイングラスと炒めたナッツが入った木のボウルをソファ前のテーブルに置き、ソファに座る私の横に平然と座る。
何故いつもさり気なく私の横を座るのだろう、鬱陶しいし暑苦しいのだが。
「死ぬまで、だな。コレはもう一生治らんよ、カティス」
「”カーティス”、な? 私も愛称で呼んでるから良いが、その略称しているのか分からん呼び方はお前以外しない。そもそもこの名前自体を呼ぶ者が少ないだけだろうがな」
私の言葉を聞き、大笑いをしながらグラスにワインを注いだ後、瓶から直にワインを飲む。既にコルクが抜かれていた事を考慮すると……人様に口付けたものを出すなよ。マナー以前の問題だろうが。
「そうか、オレ以外にカティスと呼ぶ奴はいないのか! そりゃあいいな!」
駄目だこの酔っ払い、話が通じない。肩に腕を回しながら頭を撫でる、私よりも逞しい腕に仕方なく体重を預けながら、注いでもらったワインに口をつけるのだった。
***
「じゃーなー!」
満面の笑みで手を振って私を送り出す筋肉を見ないふりしながら、大通りを進む。大分飲まされてしまったが、まだ酔う程では無い。相変わらずの酒豪だ、この身体は。
街は茜に染まり、先程入った街区は仕事の準備を始めている。丁度いい時間帯か。
⸺大幅に時間を食ったが、本来の目的地には辿り着けた。中に入るとまだ開店前の様だが、先に入ってもいいと言われているので、遠慮無く入る。中はギラついており、私には相応しくない場所だ。今も、昔も。
開店前でバタついている中でも、準備が終わっていそうなキャストを捕まえ、オーナーを呼んでもらいたいと頼み数分待つ。
「あら、騎士団長サマじゃない。うふふ、早速アタシの誘いを受けたのね?」
「退職した元部下が治安悪化に貢献してないか、確認しに来ただけだ」
この店のオーナーであり、数か月前まで王国騎士団の特攻隊隊長でもあった男、マコト・カナメ。その人物の予想以上の容姿の変貌に驚きながらも、此方に来た表向きの目的を告げる。
「相変わらず冷たいこと。ちょっと皆! アタシはシヴェスター団長とVIPルームに入ってるから、何かあったら教えてね♡」
「「はーい、ママ♪」」
本当に、同一人物なのか疑いたくなるな。
*
「はい、甘いお酒よ。度数は低いからね。それと、この部屋は防音だから」
「そうか」
小さなグラスに注がれた黄金色の酒を揺らしながら、隣に座る男を見る。元々、戦闘時と非戦闘時のON/OFFが激しい男ではあったが、女性願望も持ち合わせていたとは。退職前に聞いたが、未だに信じられないな。
「それで、カーティス。今日来たのは例の禁術絡みかしら?」
「……あぁ」
筋肉に無駄に度数の高い酒を飲まされたが、奴の家で全て吐いておいた。まだまだ飲めるな。
「……残念だけど、貴方達側の進展は無いわね」
「という事は、空間の方には進展があったのか」
「えぇ。と言っても、古い遺跡にアタシの世界の文明の道具に似た物が発見された程度なのだけど」
この世界には、度々異界の人間が生まれる。その彼らのコミュニティは世界各国に身分問わず広がっており、主な目的は禁術の解明。禁術が禁術たる所以は、殆どが死の恐れがあるから。だが、異界生まれもしくは異界の記憶を持った人間なら、死の確率が極端に減るそうだ。
私は異界の人間では無いが、ある出来事から禁術に関わっている。
「なるほどな。……はぁ、どうしてこうなったんだか」
そもそもとして。どうして私が禁術なんぞに関わるようになってしまったのか。その原因を今一度思い出すべく、少しばかり思考の海で泳ぎ始めた。
▼△▼△▼
俺はリ・フェン王国の下町で生まれた。
親はいなかったが、兄弟と祖母には恵まれた。血の繋がりは無くとも、俺達は確かに兄弟だった。とは言っても、小さな孤児院。大人になれば巣立たなければならない。
そんな生活の中で、騎士に憧れた。
騎士団は学院を卒業しないと入れなかったが、祖母である院長の口添えもあり、才能ある平民を学院に入学させる制度を使うことが出来、無事騎士団に入団する事が出来た。
騎士団にはバディ制度があり、俺のバディは五歳上の華奢な貴族の男。俺よりの細いくせに、俺よりも強かった。剣は言わずもがな、酒やボードゲームなんかも勝てた事が無かった。
戦闘スタイルは頭脳派かと思えば、以外に脳筋。だが頭が無い訳ではない。俺からすれば、初めて会ったタイプの人間だった。
『私にもっと力があれば、カティスの様に戦えるんだがな』
アイツの口癖だった。俺よりも技術を持った上で、更にパワーを求めるなんて、貪欲な奴。俺はいつもそう思っていた。俺を見るその視線に、違和感を覚えながら。
*
ある時、俺とアイツで任務をする事になった。内容は何度も行った事のある危険度Ⅲ地域の巡回任務……⸺だった筈なのに。
本来ならいない筈の魔物が、魔獣を従えていた。報告に走ろうにも、真正面から遭遇し戦闘を余儀なくされた。
苦闘の末魔物に痛手を与えたが、俺達も瀕死になった。
緊急支援の魔術煙は飛ばしたが、いつ死んでもおかしくない。そんな状況で、アイツは囁いたんだ。
『なぁ、カティス。どうせ死ぬなら、禁術………使って、みないか?』
前々から、危なっかしい所があるとは思っていたが、こんな場で禁術を使おうだなんて、馬鹿な提案だ。そう笑えば良かったのに。
その時の俺は、頭が回らなかった。多分、血が足りてなかったのだ。そうに違いない。
『いいぜ………何、使うんだ。空間か? 時間か?』
俺の返答をお気に召したのか、アイツは血を吐きながら笑ってこう言った。
『いいや。⸺魂だ』
*
次に目が覚めた時。死んでなかった、という事よりも先に、身体の違和感に気づいた。
手を上げると、俺の腕よりも筋肉が無く細かった。
困惑の声を上げると、声も変わっていた。
布団を退かすと、包帯だらけだが俺では無い、覚えのある華奢な身体だった。
隣のカーテンを捲ると、覚えのある筋肉。その時、ようやくアイツへの違和感の正体に気付いた。アイツ、シヴェスター・オーディルは、ずっと狙っていたのだ。俺の身体を。
自分の理想の戦い方をする為に。
▲▽▲▽▲
「ちょっとカーティス? それ以上は明日に響くんじゃ無いかしら」
「……あー。そう、だな」
昔を思い出している内に、随分飲んでしまった様だ。頭が重い。
「⸺それで、ここに来る前にシヴェスターと会ったのよね。彼、どうだった?」
「団長業で稼いだ金で酒と葉巻に溺れてる……私の身体だぞ、もっと労れよ…」
「あらら…」
酒の代わりに水を飲む。まだ少し、ふわりとした感覚が残っている。寮に戻るのはもう暫らく後にしよう。そう考えながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
▼△▼△▼
シヴィが俺の身体になってから”カーティス”は頭角を表し、大きな戦争で大手柄を取り24歳にして王国騎士団長となった。それと、アルノルトの姓と騎士爵を貰っていた。
俺の家族を俺以上に気に掛け、俺と変わらないやり取りを出来ていた。
それに比べてシヴィの身体になった俺は、シヴィの家族関係や過去の交友関係など。様々な積み重ねと、何より体格の差異により、”シヴェスター・オーディル”は弱く惨めな時期があった。
命を断とうとして、勇気が無くて手が止まる。
それに気付いたシヴィが「私」を”肯定”してくれる。
その繰り返しが数年続いたある日、マコトに禁術の事を気付かれた。禁術の事を指摘され、シヴィを引きずり全ての事情を話した。
マコトは真剣に聞いてくれて、私達の状態を元に戻す方法があるかもしれないと言ってくれた。それ以来、マコトとは秘密の共有者となった。
だから、気付いた。
シヴィは、私の身体を返す気は無いのだと。
でもそれは、追々なんとかすればいい。
そう、思っていたが。戦争が起こった。
酷い……本当に酷い戦争だった。3年経った今も、戦争の傷跡は各地で残ったままで……シヴィも、怪我をした。それもよりにもよって魔力器官を大きく傷つける大怪我を。
命は無事だった。でも、魔法は内に巡るだけで使えない。身体強化ですら、使えなくなっていた。だから、団長を引退した。
だけどシヴィは、笑っていた。好きに生きられるだけの金は稼いだからと言って、東街区の外れの空き家に住むようになった。
私は、シヴィに”肯定”されるようになってから、次第に自身に合った戦い方を身に着け、戦争でも手柄と呼べるモノを上げた。だから団長になった。でも、私に団長なんて荷が重い。
私は……⸺愚かな人間なのだから。
▲▽▲▽▲
「……っ、?」
誰かの肩に腕を預け、街を歩いている。誰かの肩は、憎いほどガッシリとしている。
「し、ゔぃ……?」
「アルノルト、だろう。シヴェスター団長?」
「ある、のると……何故?」
私がこのような事をされる覚えは無い。
「マコトに説教された。堕とした分、責任持てってな」
「せっ、きょう? おと、した……?」
「……いいんだよ、その事は。俺の家で寝かせてやるから、大人しく歩きな」
今のシヴィは、初めて見る。
ずっと。ずっと、ずっと、ずっと。
私の上にいた。私が団長になっても、皆はシヴィの方が良かったと陰口を言い合っている。私なんかが、シヴィと同等。ましてや上だなんて、有り得ない。有り得る筈が無い。
私を”肯定”するシヴィは。私を”肯定”してくれるシヴィだけは、私と同じ場所に来てくれる。私が対等なのは、”肯定”している時のシヴィだけだ。
だけど今のシヴィは、私よりも下に見える。
駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ。あぁ、駄目だ。
シヴィは私よりも上でなきゃいけないのだ。私なんかと同じになるのは、”肯定”している時だけで良い。その時だけが、私がシヴィの隣に居ていいと実感出来る時なんだから。
「なぁ」
「んぉー…どした?」
「”肯定”、して。……私、を。”肯定”、しろ」
そう言ったら、シヴィはいつも私を”肯定”するシヴィに戻って、笑ってくれた。
「いいぜ。俺が、一番の理解者だからな」
やっぱりシヴィは、私の上が一番輝いている。
【人物紹介】
シヴェスター・オーディル(カティス) 34歳
主人公。孤児院育ちの健康的な脳筋だったが、禁術による入れ替わりの代償として精神を大きく削られ、シヴェスター・オーディルとして生きる苦しみの最中、シヴィの肯定を”受け”、シヴィに依存するようになった。シヴィの酒依存に葉巻依存よりも酷い。
カーティス・アルノルト(シヴィ) 29歳
所謂ヒーロー。ただし、主人公を堕とした元凶。カティスがカーティスだった頃から好意を持っていたが、中々言えず禁術を使って依存するようにした。カティスが言ってた身体の意味は合ってはいるが間違ってもいる。
カティスよりも強者となり、唯一の理解者として独り占めするつもりだった。マコトが間に入ったので一番になったので少々不満。
しかし、カティスが壊れている事には気付いていない。多分、気付いたときにはシヴィも今よりカティスに依存している。
マコト・カナメ 32歳
転移者。幼い頃から女装をし、女性に憧れていた。幼馴染の影響で腐ってもいる。割とグチャドロとしたモノが好みだったので、シヴィカティには萌えるし、間男になる気は一切無い。
実は魂の禁術について掴んでいるのだが、シヴィにしか伝えていない。裏の黒幕かな?
初めは入れ替わりTSモノかBLモノかを曖昧にしようかと思っていたのですが、年齢差とシヴィの貴族設定で男の方で確定させました。
”肯定”って何やろなぁ……。




