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「何って…………」
私の素朴な疑問に彼女はさっきまでの怒りが一気に引いたのかポカンと口を開けている。
そんなに変なこと聞いたわけじゃないんだけど……。
「そんなことも知らないの?」
驚く彼女に私は首を傾げる。
なんの話をしているのかさっぱり分からない。もしかして、この街で今晩お祭りがあるとか?
「殿下が街に来るのよ。馬に乗って、この街を一周するのよ。それを一目みようと、国中の女がここに集まっているの」
殿下……。王子のこと?
あ! だから、今夜は一段と人が多いのか!
私の家族もこの街にいるし……。王子を見る為だったんだ。
「貴女にそんな情報を与えても、何一つチャンスはないと思うけれど」
私を鼻で笑うジュリー嬢に「貴女も無理でしょ」と言いたくなったが堪えた。
王子の結婚相手は貴族に決まっている。いくら富を持っていたとしても、平民という時点で除外されているのだ。
「ジュリーー!!」
最悪のタイミングだ。
大きな声を上げて、私の姉がジュリーの後ろから抱きついた。頭の上についている大きなピンク色のリボンが揺れる。
朝も思っていたけど、顔よりデカいリボンを頭に乗せていて重たくないのかな……。
「マリー!」
彼女は姉の声に気付き、嬉しそうに振り返る。
このコンビは最悪だ。私に容赦なく罵詈雑言を発する。悪口の二乗どころじゃない。悪口無限ループの世界に引き込まれていく。
流石の私も滅入ってしまうよ☆
いくら鋼鉄のマインドを持っていても、ドラゴンの火二つは流石に溶けてしまう。
「あれ? なんでリエルが?」
私に気付いた姉は一瞬で顔を顰める。
そんなに眉間に皺を寄せると、折角の厚化粧が崩れるよ。
「たまたま会ったのよ」
「ジュリー、こんな汚いものと話してはダメよ」
「ただでさえ汚らわしいのに、口を開いたら生意気だし……。この瞳、絶対に悪魔のものよ」
神秘的で美しいのに~、と自分を守るために、そう心の中で呟く。
他者に否定され続ける分、私ぐらいは自分で自分のことを肯定しておかないと正気を保てない。
「悪魔なら、処刑しないといけないわね」
マリーが笑う。その笑みの方がよっぽど悪魔的だ。
彼女の後ろから、両親と兄妹たちがやってくるのが見えた。
ああ、ますますメンバーが勢揃いになってしまう。
「首をちょん切ってもらいましょう。人間は悪魔に勝ったのですって広場に暫く飾ってもらうのはいかが?」
姉の言葉に乗って、ジュリーも言う。
言ってることがあまりにも非人道的で私も思わず笑ってしまう。マリーは「いいね! それ!」と楽しそうに頷く。
本当に姉と血が繋がっているのかと疑いたくなってしまう。
「どうしてお前がここに」
怪訝な表情で私を見つめる父に私は「あなたに置いていかれたので」と口角を上げる。
ここで「あ、ごめんなさい」なんて言って怯むことができたら、私はもう少し可愛げがあったのかもしれない。
が! 人生戦わずして良いものが手に入るわけがない!
私はいつまでもこの家族と戦って、必ず人生に満足してみせる!
憎い人生を生きてて良かったと思えるものにしたい。……ああ、こんないい子に育って。全く、親の顔が見てみたいよ。
目の前に立っている両親は物凄い形相で私を睨んでいる。
もちろん、兄や妹も私のことを毛嫌いしている。
親の顔はまるで鬼だ。これが悪魔だよ。私がお祓いしてあげたい。
……てか、私が本当に悪魔なら、あんたたちの命はないだろ!
この圧迫された空気の中、心の中でそう叫んでいた。