プロローグ 青山聖人 25歳
20代といえば平日の夜に同期や先輩に誘われて飲みに行ったり、休日は友人や恋人と一緒に過ごし、都会の中でおしゃれなご飯を食べたり映画を見たり、固まった連休が取れればどこかへ旅行したりもする、と勝手に想像していた。実際にテレビでは友人と思われる女性2人がSNSで流行りのカフェで映える写真を撮りながら笑顔で談笑する姿や、僕の周りにも会社の先輩の中で3連休彼氏と福岡旅行へ行ってきたとお土産を配る人もいた。とにかく、僕の頭の20代という誰かと楽しく過ごす時間を羨ましく感じており、それを美化して頭の中で思い描く節がある。
かという僕は今日、人知れないカフェでパウンドケーキとアイスレモンティーを飲みながらゆっくりしている。一人で。カフェという点においてはテレビに映る女性たちと変わらない。しかもここはSNSでまとめられていたカフェ特集の中の一つだった。けれど辺りをみれば60代のおばさま方数名と、30代前半とみられるカップル一組だけの空間だった。頭に描く25歳のイメージとはかけ離れている。理想との間にある溝がとても深く感じる。
それでも良かった。今の自分にはこれが幸せな時間だった。幸い今の時代おひとりさまという風潮も広がっているし、僕自身なにも怖くはないし視線も気にしない、まあ時々やっぱり誰かと一緒になにかをしてみたいという寂しい感情に襲われることもあるが。
店内はとてもゆったりとしたBGMが流れており、時間の流れをとてもスローに感じさせる。とはいえ気づけば先ほどいたおばさま方の楽しい会話が聞こえなくなり、閉店20分前、カップルと僕だけの広い空間だった。この場を今通りすがる人たちがパッと見たら何を思うだろう。僕はどう映るのだろう。
ようやく外に出る。程よい5月の季節はどこからか吹く、背中を押してくれる風が心地よく感じる。過ぎ行く人たちは必ず誰かと一緒だった。
強くなったものだ。僕は次の目的地へと足を進めた。