正しい『リセットボタン』の使い方
誰もが一度は考えたことがあると思う人生のやり直し。
僕、園能真輔はそのやり直しが出来る人間なんだ。
といってもよく言われてる死んだら二周目とかではなく
この『リセットボタン』を押せばやり直しすることが出来るんだ。
何故、『リセットボタン』を持ってるのかは不明なんだけど
気づいたら持ってたんだ。
『リセットボタン』でやり直しが出来るから結構なチートだろうって言われそうだけど
そんな都合よくおいそれと使えるわけではない。
それは『リセットボタン』を使用した場合は如何なる場合でも赤ちゃんの時まで戻ってしまう。何十年も生きたあとにまた赤ちゃんに戻ってやり直すというのは僕にとっては苦痛なのもある。
押す前の記憶は維持するし、何かしらの大目標があるのならやり直しは有効だと思うのだけど僕の性に合わないのだ。
なので、『リセットボタン』を使うときは緊急だったり、生死に関わる時以外は使わないようにしているんだ。
なぜ、今そんな話をするのか?っていうと……
「ねぇ、あの色目使ってた桃華っていう女は消えたわ。真輔さんが嫌がってたのがわからなかった罰だわ。良かったわね。真輔さん」
彼女は悪魔のような笑みで僕に微笑んでいる。
そんな彼女は僕の彼女で明神さつき。
僕らは高校2年で彼女は学年一の美女で成績優秀、運動神経抜群、社交的で誰とも隔てなく接してくれる女神とも呼ばれてる。
そんなさつきが初対面だった僕に告白してくれたんだ。
「真輔さん。ずっとずっとずっと大好きだったわ。今でも変わらないの、私と付き合ってください」
僕は驚愕したのを覚えている。
女神とも呼ばれてるさつきから告白されるとは夢にも思ってなかったからであった。
けど、それからのさつきは豹変してしまった。
「真輔さんは優しいから誰にでも頼られるのはわかりますけど、悪い害虫まで優しくしなくていいのに」
さつきは嫉妬心、独占欲をみせるようになっていた。
そして僕は少しずつだが恐怖心が芽生え始めた。
そんな時に、あるクラスメイトの1人の桃華さんが僕に話しかけてきたんだ。
「園能くんって勉強出来る方かな?」
「うーん。それなりかな。もしかして赤点取りそうなの?」
「当たり♪ だから少し教えて欲しいの」
そんな桃華さんに僕は教えることにした。
さつきにその事を説明してあげると
「真輔さんはなんて素晴らしいのです。みすぼらしい女の為に勉強を教えるなんて」
みすぼらしいとは桃華さんの事だろうか……。
桃華さんは男女共に人気があり、さつきと双璧を成してると言っても過言ではない。気品さのさつき、愛嬌の桃華さんという風に言われてるまであった。
「ふむふむ。やっぱり園能くんって教えるの上手だね」
「そんな事ないよ。要は効率的に覚えようとしてるだけ」
「そんな謙遜しちゃってー♪ ねぇ……連絡先交換しよ?」
「うん、いいよ。質問とかあれば気軽に聞いてきてよ」
「ありがと♪ また教えてもらおうかな」
「おっけ」
僕は桃華さんと連絡先を交換した。
会えない時の為にいつでも勉強を教えるためにと些細な事と思ってやった事だったのだが
「えー、大河内桃華さんは急遽、転校することになりました」
桃華さんから連絡が来ることはなくなった。
担任の一言により僕は驚愕し、さつきを睨み付けていた。
もうさつきに対しては愛とか好き等の感情はなく恐怖と疑念しか残ってなかった。
「私は真輔さんの事を思ってやっただけよ? 薄汚い色目を使う女なんて側にいるだけで真輔さんの価値を下げるだけ」
豹変してしまっていたさつきに僕の脳裏に『リセットボタン』がちらついてくる。
「さつき……。もう無理だ!! 別れてくれ!!」
「無理ですわよ? 真輔さんは私しか愛せなくなっていますもの」
「……は?」
「周りを見てください。 真輔さんの周りには誰がおりますか? 私しかいないんですよ?」
おかしい……。
桃華さんの件で頭がいっぱいになってたから気づいてなかったけど
僕の周りの親しい人の数が減っている。
「真輔さんの親友であった悠里さんはいませんよ? 趣味が合ってた夏希さんはいませんよ? 後輩だった恵さんはいませんからね」
__やめろ
「真輔さんにまとわりついてた害虫は排除済みです。即ち私が真輔さんと最後まで添い遂げる事になるのです」
__やめ
「真輔さんは優しくて素晴らしい方です。そんな真輔さんに私は愛してしまったのです。真輔さんは愛してると言う私を捨てるの?」
__や
「私達は運命共同体ですよ? どんな事をしようにも離れられません」
__っ!
「ねぇ……真輔さんはこんな私の事……スキ?」
さつきの口角が三日月のようにつり上がった瞬間、僕は『リセットボタン』で人生に幕を閉じた。
ただ気になった事がひとつ……
閉じる瞬間、さつきが「また会おうね」って言っていた事
『リセットボタン』でやり直しをした僕は忌まわしいさつきのトラウマから癒えてきたが
それでもさつきの濁りきった瞳やつり上がった口角を思い出す度に震えが止まらなくなる。
そんな時に小学生の僕の頃に隣人が引っ越して来るということになったのだ。
それを聞いたお母さんが嬉しそうに
「真ちゃん。お隣の家族に真ちゃんと同じくらいの子がいるらしいのよ。楽しみだね」
「そーなの? 楽しみ」
幼馴染というやつになるだろうと思っていた。
さつきというトラウマから少しでも目をそらせる事が出来るなら何でも良い。
僕は同年代の隣人の子に期待を膨らませいた。
そして引っ越してきた隣人は挨拶に来てくれた。
そこに連れ添ってきた女の子はあどけない可愛らしい子だった。
「ぼく、えんのしんすけ」
「わたしは……みょうじんさつき」
い……ま……何て言った……?
「わたしは、しんすけさんをあいしてるの。しんすけさんは、わたしのことスキ?」
僕は腰を抜かしてしまってその場で尻餅をついていた。
……なんで……ここに?
「わたしたちは、はなれられないよ?」
さつきの口角がニヤッとつり上がった瞬間
__うわぁぁああぁぁ!!
僕の脳はフラッシュバックを起こし全ての震えが止まらなくなっていた。
「おびえないで、わたしはあなたといっしょになりたいだけ」
そんなさつきが抱きつきながら僕の耳元で呟いた。
「ずっといっしょ。にげちゃダメ」
__ひっ!
僕はすぐに『リセットボタン』で人生に幕を閉じた。
僕の頭の中にさつきが付きまとって離れない状態が続いた。
彩色が無くなった瞳
三日月のように伸びた口角
戯れ言ように聞こえる甘い言葉
「ひっ!」
思い出す度に僕は引きこもってしまう。
それでも僕はこのままではダメだと思い両親にわがままを言って引っ越しを提案しても両親は頑なに拒んだ。
いつか来るだろう、さつきに怯えながら過ごす毎日は恐怖しかなく
このままの状態ではまた出会うと思った僕はやらなかった事をやり始めた。
だが、そんな両親に初めて亀裂が入った。
今までにない事に不謹慎ながら僕はもしかしたらと思ってしまう。
「離婚しましょう」
「あぁ……」
こうして両親は離婚した。
そして父さんの連れ子という形になって僕の未来が変わる事にまたあの平穏が戻る事に期待をしていたが
「真輔。父さんは再婚することになった」
「え?」
離婚してからすぐに再婚という言葉に僕の心は恐怖を感じてしまった。
もしかしたら……もしかしたら……
感じる恐怖の中
僕は出会ってしまった。
「お母様の連れ子のさつきです。どうぞよろしくお願いします」
「……ぁ……ぁ」
「真輔さんとずっと一緒になれて嬉しいです。私は真輔さんを愛してます。真輔さんは私の事……スキ?」
さつきはニッと口角をつり上げた瞬間に何かが壊れたような気がして
それからの僕は逃げられなかった。
◇◇◇
私は園能真輔さんが好き。
地味で目立たない私に真輔さんとは釣り合わないと思ってた。
誰にでも優しくて表情は豊かで一緒にいて楽しそう。
そんな姿を見て一目惚れしてしまい
ずっとずっと真輔さんを見つめていた。
そんなある日
「さつきさん。手伝ってあげるよ」
「え? いいの?」
「もちろんだよ。こういう時は頼ってよ」
担任から任されたプリント整理に苦戦していると真輔さんに声を掛けられ手伝ってもらった事で
私の心は真輔さん一色になってしまった。
ふと小指を見たら赤い糸が見えたような気がして心が踊ってしまっていた。
それからの私は真輔さんを調べあげた。
好きなもの
趣味
好きなタイプetc
真輔さんのストーキングまでするようになり私の心は充実していた。
けど告白は出来なかった。
もし振られたらどうしよう……
地味だった私にそんな勇気はなく
今の関係のままでいいと思い始めた時に
『リセットボタン』を手に入れた。
私は笑みが止まらなかった。
これさえあれば真輔さんは私しか愛せなくなると思ってしまったからである。
それから何度も『リセットボタン』を使い真輔さんの全てを知ろうとして真輔さんが『リセットボタン』を所持してることに気づいた私は涙が出るほど嬉しくなった。
もしかしたら……真輔さんが『リセットボタン』を使用した時にリセットしたら同じ時間軸にいることが出来るかもしれないと
もし、出来ないならそれでもいいと……
もし、出来たら一度きりの数十年の恋は何百年、何千年と無限に真輔さんと出会い育む事が出来るという事になるのだから
こうして私は真輔さんに釣り合うよう努力し始めた。
そして成績優秀、運動神経抜群、社交的で誰でも隔てなく接してくれる女神へと
そのおかげで真輔さんと一緒になれることになり私の笑みは止まることはなかった。
だが、真輔さんは優しくてカッコいい為か周りには害虫が付きまとうようになっていた。
「あー勉強教えたもらってるだけだよ。さつきちゃんの彼氏だもん、手出しなんてしないよ」
「……そうですか」
「ほらー、心配しなくていいから。あたしは応援してるからね。二人のこと」
「あ……ありがとうございます」
「でも、園能くんって優しくてカッコいいよね。羨ましいよ」
害虫の一言に羨ましいから奪っていい?なんて言われたような気がした私は害虫なんていなくなればいいと思った。
そして害虫が無断で真輔さんに近づく事を知った私は駆除することに決めた。
害虫を精神的に壊し
害虫を肉体的に壊し
害虫の全てを壊した
残ったのは大河内桃華だったという存在だけに
「もう真輔さんに近づかないようにお願いしますね」
「………………ぃ」
瞳の輝きが消えた大河内桃華だったものが持ってた携帯を踏み潰して私は駆除を終えた。
ただ一人消えただけでまだ害虫はたくさんいるので全てを終わらす事にしよう。
「えー、大河内桃華さんは急遽、転校することになりました」
担任からの話から真輔さんは私を睨むようになったが
ただ私には見つめられてるような感覚で身体中の震えが止まらなかった。
「さつき……。もう無理だ!! 別れてくれ!!」
別れて欲しい? 無理に決まってるじゃない。
私は簡単には手放しませんよ。
それに見てください。真輔さんの周りには誰もいませんよ。
真輔さんは私を愛するしかないのです。
もし、『リセットボタン』で逃げるなら地の果てまで追いかけますわ。
「ねぇ……真輔さんはこんな私の事……スキ?」
ねぇ好きって言って?
真輔は『リセットボタン』を使用したのを確認して、私もリセットボタンを押した。
ふふっ……照れ屋さんなんだから……また会おうね
次の人生も真輔さんと一緒になるために
物心がついた私は真輔さんを見つけていた。
真輔さんは『リセットボタン』を持ってることに気づいた私の口角はつり上がる。
決定的だった。私と真輔さんは永遠を手に入れたのだ。
それからの私の行動力は凄かったと思う。
両親に我儘を言い、引っ越しを提案したら数十年良い娘にするという拘束で私の我儘は通る事になった。
私の心はまた真輔さんに満たされる事になった。
たった数十年の拘束と永遠では対価の桁が違ってくる。ほんの数十年なんて無に等しいのだから
真輔さん……またお会いできますね
そして無事に対面すると真輔さんは強ばらせた顔をしていた。
ふふ……、そういう表情も出来るのですね
私の身体はゾクゾクして恍惚な表情をしたに違いない。
まだ我慢しなくては
まだ十何年
まだほんの少し時間が経っただけ
そう思った私は一つの退路を断つ事にした。
「ずっといっしょ。にげちゃダメ」
真輔さんの瞳が闇に染まるのを見た私の口角は無意識に上がってしまう。
……あぁ……また十何年……真輔さんの事を想える……
今回の真輔さんも『リセットボタン』を持っている。
前回は幼馴染……。
なら今回はというと真輔さんのプライベートも私と共にして欲しいという思いから家族を壊そうと思った。
別に真輔さんと添い遂げるなら家族がどうなろうと構わないと思ってるし
もし、罪悪感が生まれ持ったら『リセットボタン』を使えば良い
そして思惑通り
私の両親の絆は壊れた
真輔さんの両親の絆は壊れた
双方はお互い惹かれ合うようになった。
私に罪悪感は生まれなかった。
むしろ、もう目の前に真輔さんが待っているという事実に私の胸は躍りに躍っていた。
そして真輔さんの瞳の輝きは消えた。
「真輔さんとずっと一緒になれて嬉しいです。私は真輔さんを愛してます。真輔さんは私の事……スキ?」
「……あ……いして……る」
あぁやばい……口角が元に戻らない……
また私と真輔さんは結ばれた。
これからの真輔さんとの生活はもう予習済み。
甘い甘い生活になることは決定事項。
そして数十年経った頃に私達はまた出会うように『リセットボタン』を押すことになるのでしょう。
あなたと愛したい為に
あなたと欲したい為に
全てを捨ててでもあなたと一緒にいたい為に
私とあなたは今日で百度目の『リセットボタン』を押す。
私とあなたは永遠に添い遂げる事になるでしょう。
それが私達の正しい『リセットボタン』の使い方。
ヤンデレにやり直しさせたら怖いので皆様も気をつけて下さい。
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