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第5話 奇跡

 配信を終えて、初めて応援が百を超えたことに嬉しくなり、少し浮かれた気持ちで病院にやってきた。


 個人用病室は鍵が掛けられていて、看護師さんか俺しか鍵を持っていない。こういうセキュリティが高い部屋を借りているので、少し値段が高くなっているが、妹の身に何があるか分からないので、24h監視があるこの部屋を選んだ。


「ただいま~奈々」


 返事は返ってこない。が、いつも妹の気持ちが少し伝わってくる。


 あれ? なんか怒ってる?


「ど、どうしたんだ? 怒ってる気がするんだけど……何か…………っ!?」


 その時、俺はとんでもないミスを犯していると気づいた。


「奈々! ご、ごめん! 昨日は初めてURを引いてしまって……来れなくてごめん!」


 必死に謝って妹の機嫌を取る。妹が病気になって入院してから、俺が初めて探索者になった日はあまりの疲れで来れなかった日以来だ。


「ほ、ほら! この子は初めてのURでな? ブラックスライムって言うんだぞ」


 すぐに頭の上に乗っていたブラックスライムを妹の顔の隣に置く。


「ご主人しゃま……?」


「おう、すまんな。俺の妹の奈々だ。昨日病院に寄れなくてな。こうして謝っているところなんだ」


「…………妹さん……寝てる……」


「そうだな。ダンジョンができてから寝込んでしまってな。でもちゃんと起きていて、感情も伝わってくるんだ」


 手を伸ばして妹の頭を撫でてあげると、気持ちよさそうな感情が伝わってくる。


「もう少し待ってな。今回URを引けたってことは、俺のガチャからURが出るのは間違いない。奈々の病気を治してくれる薬を必ず引くから、もうちょっとだけ待ってくれな?」


 奈々をもう少し撫でてあげて、一度トイレに行くために部屋を出る。


 トイレが終わって病室に向かう間に、いつも受付で心配してくださる看護師さんが優しい笑顔を浮かべて手を振ってくれた。


(りく)くん。どこかケガはしてない?」


「えっ? いえ。昨日はちょっとイレギュラーがありまして来れませんでした」


「そっか……妹さんにもちゃんと顔を出してあげてね?」


「もちろんです。ちゃんと謝って来ました」


 悪い気は全くしないけど、この看護師さんはいつも俺を心配してくれる。たしか名を綾瀬さんというはずだ。


「妹さんのことは私達に任せて頑張ってね! 応援しているから!」


「ありがとうございます。皆さんのおかげで俺も頑張れます」


 軽く会釈して病室に向かう。


 両親が亡くなって妹が病気になって、俺達を助けてくれる人は誰一人いなくてこうして病院に入院することになったけど、看護師さんたちの優しさのおかげで助かっている。


 できればこのまま平穏に過ごして欲しいものだ。俺がURで薬を引くその日まで。


「ただいま~」


 病室に入ると、妹の下に置いていったブラックスライムが手のように触手を一本伸ばして妹のおでこに触れていた。


「ん? ブラックスライム? 何をしているんだ?」


「…………おかえりぃ」


「?」


 ブラックスライムがおでこに触れたまま、僕を見つめた。
















「おかえり……お兄ちゃん…………」
















「っ!? 奈々!? ど、どういうことだ!」


「リンちゃんが……声……届けてくれるって…………ごめんね……リンちゃん……」


「!? リンちゃん?」


「この子の……名前…………私が勝手に……ごめんね……お兄ちゃん……」


 声はブラックスライムの気怠そうな声のままだ。でも雰囲気(・・・)がまるで違う。


 何かあるとすぐに謝る癖も奈々そっくりだ。


 ああ……やっぱり……そこにいるんだな。


「お兄ちゃん……久しぶりに……話せたね…………」


「ああ……っ…………」


「泣かないで……ごめんね……いつも……私のために…………」


 手を伸ばして奈々のおでこを優しく(・・・)突く。


「バカだな奈々は……俺が……そんなことで……迷惑でもなんでもねぇ……俺は奈々が生きてくれりゃ……それで十分だ。もうちょっとだけ待ってろ。絶対にURで薬引いて助けてやるからな」


「うん……ごめんね……」


「バカ。奈々に謝らせるために頑張ってるんじゃねぇ」


「ごめ………………ありがとう。お兄ちゃん」


「おう。俺は兄さんだからな。この子に名前付けてくれたんだな? ありがとうな。これからリンがいれば会話できるし、この子ものすごく強いから俺をちゃんと守ってくれるんだ。だから心配しないで待ってて」


「うん……リンちゃん……お兄ちゃんを…… お願いね………………あぃ…………」


 もう片方の手を伸ばしてブラックスライム――――いや、リンを撫でてあげた。


 眠そうにしているリンから温かい気持ちが伝わってきた。


 この日、俺は数年ぶりに妹と会話を交わすことができて、より一層、ガチャを回そうと決意を固めた。

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