そ、それ言っちゃう?!
昨今の流行り病でおなじみとなった、額にかざすタイプの体温計。
我が家でも大活躍。
なにせ学校前は必ず検温しないといけない。
忙しい朝は、そんなことに一分もかけていられない。毎日使うため、壊れては大変だからと異なる種類の物を二台も完備。
おでこにかざしてボタンを押すだけで、ピッと音を立てて体温を表示してくれる。
だいたい、三十六度五分前後を表示。
低いと三十五度そこそこもあるけど、まぁまぁ毎日そんな感じ。
そんなある日、ちょっと体調が崩れがちだった私は、衝撃の体験をした。
寒中水泳でもしたかのような猛烈な寒気、身動きできないほどの倦怠感、人生で一度もフルマラソンをしたことが無い人が、練習も無しに走り切った三日後のような全身の関節痛。
加えて、丑の刻参りの恨み節でも叩きつけられているかのような、割れるような頭痛まであった。
インフルもコロナも経験しているが、これはもう、どっちかの可能性しかないと思うほどの重い症状。
ついでに持って行けとばかりに、鼻と咳症状も加わった。
とにかくこの寒気は、よほどの高熱に違いないと、熱を測ってみた。
おでこにかざす体温計で、ぴっ。
『36.5』
嘘。
この症状で、これはないでしょうと、もう一度おでこにかざす。ぴっ。
『36.9』
お、ちょっと上がった?
いやいや、絶対これは、三十六度台なわけがない。二台目を使うも、結果は大差なし。
納得はいかなかったが、もう力尽きた私はそのまま三日間寝込んだ。
その間も、私はおでこに体温計をかざして、何度もぴっとやってみたが、常に平熱だった。
四日目、やっと思い出した。
三年前はこんな『ぴっ』な体温計は使っていなかったことを。
私は脇で測る体温計をなんとか引き出しの奥底から発掘し、まだ電池が残っていることを祈りながら使ってみた。
ちょっと使い方を忘れていてとまどったけれど、一分弱かかり、懐かしい音が鳴った。
『ピピピッピピピッピピピッ』
表示されていた体温は三十七度五分。
その日、やっと歩けるようになり病院に行った私は、薬を処方してもらったが、熱を聞かれた時には微妙な答え方しか出来なかった。
「ものすごい高熱だったと思います」
寒気と関節の痛さから、絶対に三十九度近くあったと私は確信しているが、それを裏付ける証拠がない。
最初から脇に挟む体温計を使えば良かった。
とはいえ、あの額にかざすピッを否定してしまえば、あれの表示を頼りに、仕事や学校に行っている日常が音を立てて崩れてしまいそうな気がする。
だからといってやはり、あれの性能を信じ、三十六度台でしたとも言えない。だって死ぬほどつらかったのだから!
そんな翌日、学校の支度をする息子の様子がおかしいことに気が付いた。
鼻風邪は二日前からひいていたが、見るからに顔が赤く、ふらついているし、体調も悪そうだ。
彼もまた、毎朝学校に行く前に検温をする。
いつものように、額にかざす体温計を持ってきて、ピッとやった。
『36.5』
私は思わず叫んだ。
「違う!こっちの体温計じゃない!脇で挟む方使って!」
三年ですっかりレトロ感の増した脇用体温計を使う。
『ピピピッピピピッピピピッ』
表示されていた体温は、まさかまさかの三十九度。
なんとなく、ガッツポーズを心に決めてしまう私。
ほらね、三十九度はあると思っていたよ。
忙しく学校の身支度をしていた娘が、朝の検温にやってきた。
「そっちの体温計使えないの?」
息子が答えた。
「毎回、ランダムで平熱を表示してくれる体温計使う?」
そ、それ言っちゃう?!
薄々気づいてはいたが、頑なに信じてきたそのピッの性能を、完全否定。
いや、コロナの時に三十八度二分ぐらいは表示してくれたことはある。
ただ、低く表示されがちなだけだ。
とはいえ、三十九度を三十六度と表示されてしまう点はもう弁解の余地もないが……。
とりあえず、私に続き、息子も病院に旅立った。
さて息子、完全にインフルやコロナを疑われ、痛い鼻検査をかなり念入りに両穴やられたそうだ。
ところが、両方陰性。
先生も首を傾けるほどの、『三十九度の高熱が出る、ただのひどい風邪』だった。
私も同じ結果だったのだから、当たり前だ。
こうして今日もまた私達は、多少の熱でも、「大丈夫、行ってこい!」と背中を押してくれる、安心で手軽な『毎回、ランダムで平熱を表示してくれる体温計』を使って一日を始める。
でも、体調が悪い時は、レトロな接触型の体温計を使った方が良いのかもしれない……。
*注)あくまで個人の感想です。我が家のピッだけの問題だと思います……。
お手軽タイプをもう一台買うことを検討中……。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。