05話 僕、勇者。いえ、賢者になりました。
僕はシリカさんを連れて森を抜けて、平原を歩いていた。なんて平和なんだ、と平原に居るスライムを蹴り飛ばしながら一息ついていた。
「いやー、さっきのゴブリンソルジャーは危なかったね。あんなのが居るならゴブリン討伐なんて行かなかったのに。」
「ゴブリンソルジャーはゴブリンキングの側近の魔物ですからね。本来はゴブリンソルジャーはあの森に出ませんよ。」
へー、そうなんだ。でも、さっき出たよね?所謂、異常事態ってやつかな。冒険者ギルドに報告しておくか。
「それよりも、先程の魔法凄かったですね!力を隠してらっしゃったんですか?」
「あー、実は緊急事態だったから、レベルアップしたんだよね。」
一瞬誤魔化すか迷ったが、これから仲間としてシリカにも経験値を使ってレベルアップさせるので、ここは正直に話す。
「れべるあっぷ?」
「そうだ、さっきのゴブリンソルジャーの経験値があるし、レベルアップしてみるか。シリカさん、ステータス出してみて?」
言われた通りにシリカさんは自身のステータスウィンドウを表示させた。
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シリカ Lv.1
種族:人間 クラス:格闘家
HP :38 MP :18
STR:46 VIT:42
DEX:34 AGI:30
INT:18 MND:30
所持金:320G
称号:Fランク冒険者
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表示させたステータスウィンドウを見ながら、僕は自身のプレイヤー専用のウィンドウを開き、経験値を使用する。ん?なんか経験値消費量多くね。まぁいいか、シリカさんを経験値8を消費してレベルアップと。
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シリカ Lv.2
種族:人間 クラス:格闘家
HP :47 MP :21
STR:57 VIT:52
DEX:42 AGI:37
INT:21 MND:37
所持金:320G
称号:Fランク冒険者
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「全てのステータスが!あり得ない程上昇してる!?」
めちゃくちゃ驚いてらっしゃる。確かにシリカさんの話では、この世界の人はステータスの数値を1上げるのに、それはそれは涙ぐましい努力をされているらしいので。こんなに簡単に上がってはおどろ木ももの木さんしょの木でしょうな。
「ここを見て?」
僕はステータスの名前横にあるLv.2を指さした。
「ここが1から2になってるでしょ。この数値を僕はレベルアップで上昇させることが出来て、この数値が上昇するとその人の才能に合わせて、各ステータスも上昇するだ。」
僕がそう言うとしばらく口をぽかーんと開けていたが、難しい顔になり考え込みだす。
「レベルアップなんて神の奇跡、聞いたこと無い。ツクモさんて、何者?」
真顔でそんな風に聞かれるもんだから、誤魔化せないよな。僕が何者か…、九十九弘世で、日本人で、異世界転生者で、この世界のプレイヤー、だとわからないだろうし、ゲーム的に言うと主人公即ち勇者?になるよな。でも僕魔法職だし聖剣持って戦わないし、賢者の方が良いのかな。でも、この世界には賢者のクラスがあるし、賢者だとややこしいか。ここは勇者でいきますか。
「勇者…かな?」
「ッ!?勇者様!?」
おう、なんかもの凄い驚愕してらっしゃる。なんか思った反応と違う。
「いや、やっぱ今の無しで。」
「…な、なるほど、わかりました。絶対にこの秘密は守ります!ツクモ様!」
なんか、敬称が変わったような…。さっきの勇者の話は忘れてくれ、そして頼むからそんなキラキラした目で見んでくれ。
なんとかツクモ様呼びをツクモさん呼びに戻させる交渉をしている間に、街に着いてしまった。ゴブリン討伐の報告を冒険者ギルドで行う。魔導晶石に手をかざせば、特定の魔物、今回はゴブリンの今日の討伐数を確認できるらしい。便利だね。ゴブリン討伐数に応じた依頼の報酬を貰う際に、ゴブリンソルジャーの話をしたらびっくりされた。そしてもう一度、魔導晶石に手をかざして、ゴブリンソルジャーの討伐数を確認することになってしまった。
ゴブリンソルジャーの話が本当だとわかると、冒険者ギルドは大騒ぎになっていた。ちょっと煩かったのでそそくさと冒険者ギルドを出る。その後、今日獲得したドロップアイテムたちを、道具屋や武器屋、防具屋へと売りに行った。今日の収入は余裕で宿代である1万ゴールド超えていた。寧ろその何倍もの収益である。これなら、クーラー、シャワー付きに毎日泊まれそうだ。
さて、そろそろ解散かな?と思っているとシリカさんがモジモジしだしている。
「あのぉ、ツクモさん。私実はお金なくて、宿も取ってないんです。良かったらツクモさんの宿にお邪魔できませんか?」
あれ?お金、おかしいな。確かに先程までお金が無かったのは事実であろう。だがしかし、最も高く売れたゴブリンソルジャーの片手剣は僕のドロップ品だったとは言え、依頼の報酬は山分けだし、ゴブリンのドロップ品に関しては8割はシリカさんである。僕より少なかったとしても、宿に泊まれないなんてことはないはず。つまるところ、これは…。
童貞の僕でも分かります、人生の先輩方、これが据え膳ってやつですね?異世界来た初夜ですが、初夜になっても良いのですかこれは。食うしか無いでしょ、ここが男の見せ所、勇者九十九弘世推して参る。僕は静かに親指を立てるのだった。
クーラーとシャワーの付いた10,000Gの部屋。宿屋さんにはシリカさんを連れて2人で入ったのだが、「宿屋は部屋を貸してるだけだ、2人部屋を1人で使おうが、1人部屋を2人で使おうが、部屋の値段は変わらねぇ」ってことで追加料金いらずでした。
僕はベットに腰掛け今にも暴発しそうな息子を鎮めるべく、瞑想していた。既に僕はシャワーを済ませ、今はシリカさんがシャワーを使っている。シャワー室から漏れ出る音が、僕の瞑想を激しく邪魔していた。
目を閉じてそこに映るのは、ゴブリンと戦うときのシリカさんの姿。勿論カッコイイのだが、僕の視線はシリカさんの胸に装着されたとてつもなく大きな双山にズームインしていた。戦闘中もあんなに激しく揺れて大丈夫なんだろうかと、チラチラと双山を見ては心のシャッターを押してしまうのが、童貞と言うものだよ。何故にあそこまで大きいのだ。会ったときから必死に視線を外し考えないようにしていたが、武道家には邪魔すぎるだろう。戦う時の揺れる双山には叶わなかったよ。
ガチャリと扉が開く音がして、目を開けるとシャワー室から、一糸まとわぬシリカさんが。童貞には目に毒すぎる。余りの光景に目を逸してしまう。そのスキに間合いを詰めたシリカさんは、ベットに腰掛けていた僕を優しく押し倒した。
「!シリカさん…。」
「あの時みたいに、呼び捨てで呼んでください。」
「…シリカ。」
「…はい。」
なんだこれ。少し照れて顔を赤らめるシリカさん、いやシリカが可愛すぎる。もう無理だ、僕はシリカを抱き寄せた。
朝日が差し込み、それを自身の瞳が受け止める。意識が掘り起こされていく。眩しげに目を開ければ、ベットの上、シリカと2人抱き合って寝ていたらしい。どうやら夢ではなかったらしい。まだ数時間前の事だからか、初体験だったからなのか、昨晩の事は鮮明に思い出せる。
どうやら僕は勇者から賢者にクラスチャンジしたらしい。隣で眠るシリカの髪をそっとかき分ける。カワイイ顔が見える。少し視線を下げれば、双山がある。興味本位に揉んでみると、シリカが声を漏らす。
「おーい、朝だぞー。シリカ、おきろー。」
お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃん、それに友達の山本に佐々木、佐藤、…僕、この世界これて良かったわ。