02話 転生してる?
貧血から目覚めたような記憶の混濁から意識が覚醒する。視界に入ってくるのは中世の街並みと、そこに相応しい格好の街人たち。まさにRPGに出てくるような場所に僕は立っていた。どこだろうここは、と思っていると目の前に、光の板が出現する。
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あなたは異世界に転生しました
おめでとうございます
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VRゲームではこのように、VR空間内にこうした表示ウィンドウが出る。そこで僕は拾ったVRゲームソフトを、プレイしようとしていた事を思い出した。ここが拾ったゲームの中?いや、ここは明らかに現実だ。服から露出した肌を、撫でるように吹く穏やかな風が、自身の体には無数の神経が通っているのを教えてくれている。目にはCGでは再現不可能なRPG風な景色と人々が映り、耳には街の活気から駅のホームに居るような複雑な環境音が入ってくる。
ここはリアルな世界、だがゲームの世界でもある。まさしく、異世界?ここでよくある異世界転生のラノベを思い出す。もしかしてこれ異世界転生してるのではないか。いやむしろその可能性が一番高い。物語だけの話しだと思っていたのに、まさかこの僕が異世界転生するとはな。
その場で立ち尽くし考える。やり残したことも元の世界への未練も、多少はある。仕事ばかりで余り会えなかった両親にも、クラスで程よく仲良かった友達にも、ひたすら甘やかしてくれた祖父母にも、まだまだ会いたいし話したい。
だが、僕は決意する。お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、それに友達の山本に佐々木、佐藤、僕この世界で生きるわ。異世界転生、不安もあるし元の世界への未練もあるけど、それ以上にこの世界へのワクワクが止まらない。このワクワクを無視して、元の世界に戻れたとしても、絶対に後悔する。おじいちゃんは2人の時に言ってくれた。
「人生には進まなければいけない時もあるけど、立ち止まっていい時もある。」
おじいちゃん、今がその進まなければいけない時なんでしょ?僕はこの世界を、満喫して後悔ないようにするぞ。
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《メインクエスト:冒険者ギルドへ行こう》
街にある冒険者ギルドへ行って、冒険者登録をしよう
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新たなウィンドウが表示される。メインクエスト?異世界と言ってもかなりゲーム要素もありそうだ。因みにウィンドウには、ギルドの場所と現在地の表示された街のマップが表示されている。マップ上で見る限り街のサイズはそんなに大きくない。ゲーム的に言うと“はじまりの街”って感じかな。
メインクエストってあるけど、他にもサブクエストとかあったりするのかな。これもヒントが見れるらしい。
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《ヒント:クエスト》
メインクエスト
・プレイヤーの進捗によって与えられるクエスト
・クリアすることでストーリーが進む
ギルドクエスト
・所属するギルドで発生するクエスト
・クリアすることでギルド名声が得られる
キャラクエスト
・仲間になったキャラ固有のクエスト
・クリアすることでキャラが強化される
クエストクリア時には、報酬として経験値、アイテム、装備、お金が貰える
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ふむふむ、3種類のクエストがあると。キャラクエストがあるってことは、仲間が増えていくって事だろう、どんな仲間加入するのか楽しみだ。ド○クエ5みたいな感じでヒロインが仲間になって、ラブコメ展開とかあったら良いな。元の世界では彼女とか居たこと無いし、この世界を満喫するためにはヒロインの存在は超重要だぞ。逆に7みたいな暗い展開は要らないからな。
ウィンドウにあるマップを見ながら、冒険者ギルドを目指す。目的地につくと大きな建物に、2つの剣がクロスした看板がある。見たこと無い文字が書かれているが、スマホカメラでグー○ル翻訳したときのように、すぐに見たことのない文字の上に“冒険者ギルド”と浮き上がった。どうやら、言語関連も上手く調整してくれてそうで一安心だ。この調子なら会話も問題ないだろう。
冒険者ギルドの中に入ると正面に受付がある。普通ならあそこで登録ができるはずだ。受付の受付嬢に、思い切って話しかけてみる。
「すみません、冒険者登録を行いたいんですけど。」
「はい、分かりました。」
おー、異世界人と会話できた。なんか感動。海外にも言ったこと無い僕には異世界なんて、不安すぎたからな。会話も通じて一安心だ。
「では、ステータスウィンドウの表示をお願いします。」
「わ、わかりました。」
ステータスウィンドウだと?この世界では、VRゲーム特有のこの光るウィンドウ画面が当たり前の世界なのか。とりあえずステータス出てこいと念じる。
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ツクモ (☆6/男/17歳)
種族:闇人 クラス:魔導士
HP :6 MP :10
STR:1 VIT:3
DEX:8 AGI:4
INT:10 MND:2
進捗:第1章
仲間:0
経験値:0
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お、出てきた。
「あの、これで良いですか?」
「え、まだ出てないですけど…。」
あれ?ウィンドウが出ているはずなのに、受付嬢は怪訝そうに顔をしかめるだけだ。やばい、怪しまれている。慌てて、別のステータスウィンドウ出ろと念じると別のウィンドウが表示される。
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ツクモ Lv.1
種族:闇人 クラス:魔導士
HP :30 MP :46
STR:10 VIT:18
DEX:38 AGI:22
INT:46 MND:14
所持金:50,000G
称号:なし
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「あ、出ましたね。表示ありがとうございます。」
そう言いながら受付嬢は、僕のステータスを見ながら髪にメモを取っていく。
「珍しい名前ですね。ツクモ…える、ぶい?いちさん。」
「名前はツクモだけで、その後ろのはレベルです。」
「れ、れべる?なんですかそれ?」
またしても受付嬢に怪訝な顔をされた。もしかしたらこの世界にはレベルの概念はないのかも。プレイヤーである僕だけが、レベルの概念があるのかな。
「え!闇人!?私、人間以外の種族の人初めて見ました!…確か闇人って、魔法のエリート種族だって聞いたことがあります。噂通りでクラスも上位職の魔導士なんですね!MPもINTも高いし流石です!」
受付嬢が興奮した様子で、なんか言っている。そういえば、僕人間じゃなくなってるんだった。これからは余り目立たないようにしたほうが良いかな。
「では、こちらの魔導晶石に手をかざしてください。あ、因みに登録料として1万ゴールド頂きますので。」
受付嬢に言われて、魔導晶石と呼ばれる真っ黒い水晶に手をかざす。魔導晶石は淡く光ると、僕のステータスに変化する。
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ツクモ Lv.1(0/6)
種族:闇人 クラス:魔導士
HP :30 MP :46
STR:10 VIT:18
DEX:38 AGI:22
INT:46 MND:14
所持金:40,000G
称号:Fランク冒険者
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称号がFランク冒険者になっている。そして所持金が1万ゴールド減っている。どうやらこのステータスウィンドウはデビットカードのように使えるようだ。便利そうで何よりだ。
「既にツクモさんのアイテムボックスに“冒険者憲章”を送信してありますので、また確認しておいてください。」
アイテムボックス、そんなものがあるらしい。アイテムボックス出てこいと念じると、なにやらリストウィンドウが出てきた。そのリストの中に“冒険者憲章”なるものがあった。選択してみると、僕の手に光の粒子となって現れた。冒険者憲章は1枚の紙で、数十個の項目のルールのようなものが書かれていた。
「あぁ、それです、それ。冒険者の方々は力こそ正義みたいな感じで、律儀に守る方は珍しいですけど、一応目を通しておいてくださいね。」
「わかりました。ありがとうございました。」
僕はお礼を言って、受付から離れた。するとウィンドウが表示される。
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《メインクエスト:冒険者ギルドへ行こう》
クエストが達成されました、以下の報酬が支払われます
ゴールド:1,000G
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どうやらクエストをクリアできたようだ。ステータスで所持金を確認すると1000ゴールド増えていた。続いて、いくつかのメインクエストが表示される。どれも街の散策系だ。よし、早速クリアしに行くか。