25話 技名を叫ぶ
「《スレットフル》!」
…ん?
「《カウンター》!」
先程から戦闘中にパルムが何か叫んでいる。なんだろうと思い聞いてみる。
「オレの技名だよ。さっきツクモにレベルアップさせて貰った時に、技が頭に思い浮かんだんだ。技は開発者が名前を付けて良いんだぞ、知らないのか?」
という事らしい。そう言えば、これまで共闘した冒険者もここぞと言う時に、なにやら変なワードを叫びながら攻撃していたな。僕はこの世界に来たばかりだし、シリカは元侍女だったから、そんなの知らなかった。パルムによると、魔法も技名を付けて良いらしいので、カッコイイのを付けたいな。シリカも早速なにかブツブツ言いながら技名を考えているようだ。
うーん、技名かぁ。元の世界だったら技名なんか叫んでたら、一発で中二病認定されていただろう。だがこの世界ではそれが当たり前。そうなればとことん中二病チックな、超絶カッコイイ技名を考えなくてはな。
「《ファイヤーボール》!」
僕が叫ぶと火の玉がバトルオックスにヒットし、光の粒子となって消えていく。
うーん、ファイヤーボールは在り来りすぎるな。もっと凝った感じが良いな。
「《燃え盛る牙》!」
僕が叫ぶと炎で出来た虎が駆けていき、バトルオックスに噛みついた。バトルオックスは光の粒子となって消えていく。
ルビを振ってみたが、口で「バーニングファング」と叫んでいるだけだから、あまり意味ないな。カッコよさは上がったが、なんかもっと僕だけのオリジナル感というか、特別感みたいな雰囲気を技名から出せないかなぁ。うーん、カッコイイ技名を閃くには、もう少し時間が必要だな。要検討と言ったところだ。
「《イミテイト・ランス》!」
シリカが叫びながら拳を突き出せば、バトルオックスは巨大な槍に突かれたように腹がえぐれて、吹き飛んでいき光の粒子となって消えた。どうやら、シリカは技名が決まったようだ。なかなかセンスがあるね。
日が傾いてきたので、僕らは街に戻った。依頼報告やドロップ品売却を終わらせ、ご飯屋さんで晩飯にする。
「1日でこんなに儲かるなんて初めてだ!」
パルムは今日で手に入った金額を思い出しながら、肉料理に食らいつく。あまり噛まずにそれを飲み込むと、樽みたいな大きなジョッキに入ったワインを、ゴクゴクと勢いよく喉に流し込んでいく。どうやらドワーフのイメージ通りの例に漏れずパルムも飯や酒が好きらしい。
「ツクモ、飲め!」
パルムは僕の小さなジョッキに、ワイン瓶を傾けワインを注ぐ。注ぎ終えると、そのまま自身の大きなジョッキにも注いでいく。満杯になる当たりで丁度、ワイン瓶が空になった。パルムはすぐに定員に声をかけ、同じものを注文している。
「なにしてるんだ、オレたちが仲間になっためでたい日だろ?グッと飲め!」
パルムに言われて、僕はワインの入った自身のジョッキを手に取った。ちょっと前まで元の世界で高校生をやっていたんだ、勿論お酒など飲んだこと無い。こっちの世界では、ある程度身体が大きくなれば皆お酒を飲むようなのだが、ちょっとビビってまだ飲んでいない。
僕は覚悟を決めて、パルムを見習い勢いよくジョッキを傾け、ワインを喉に流し込む。
消毒液の変な感じが口や鼻を強烈に刺激し、喉をマグマの如く焦がした。そして、盛大にむせた。ナニコレ?!こんなもん飲めるか!!
吹き出した僕に、シリカが慌ててハンカチを取り出し口元を拭いてくれる。酒を進めた当のパルムはゲラゲラと笑っている。
「なんだツクモは酒が飲めないのか!軟弱だな!ハハハ!!」
そう言ってパルムは大きなジョッキでワインを飲んでいく。こんなもんをよくスポドリみたいに飲めるな、全く信じられん。
「シリカはお酒を飲めるのか?」
「ワインはそんなにですが、ビールでしたら。」
どうやらシリカも飲めるらしい、ちょっと男として悔しい。僕はワインを諦め、ビールを一杯注文する。程なくしてビールと、先程パルムが注文したワイン瓶が届いた。
僕はビールの入ったジョッキを受け取り、ゴクリと唾を飲み込んだ。先程のワインのインパクトが口元に残っている。ワインの時の反省を活かして、今度は慎重にビールを喉に流し込む。
シュワシュワとした炭酸で、ワインの時のような喉を焦がす刺激はない。ビールが喉を流れていき、口には強烈な苦味が残った。うげぇえ、苦い…。飲んでる時は何も感じないのに、飲み終わった後に口の中が苦くて仕方ない。飲めなくはないけど、確実に美味しくない。
ジョッキをシリカに渡せば、美味しそうにビールを飲み始めた。マジで信じられん、味覚どうなってんだ。
その後も、パルムはその小さい体の何処に入っていくのか不思議なほどに、料理を口に運んでいく。そして、今日の稼ぎを使い果たす勢いで酒も注文していく。1時間程してようやくその勢いが止まるのだった。机には大量の皿と空き瓶が所狭しと並んでいる。
食事を終え解散となったのだが、なんと僕らの泊まっている宿にパルムも泊まっているらしく、そのまま宿まで一緒に向かった。
宿ので鍵を受け取るのだが、僕らが受け取る鍵が1つである事にパルムが気付く。
「なんだ、2人は同じ部屋に泊まってるのか?」
「ま、まぁな。」
「そうだ!ならオレも同じ部屋に泊まるっ!仲間だからな!!」
パルムは僕の持つ鍵を掻っ攫うと、自身の鍵と合わせて受付に返した。そして3人部屋の部屋にチェンジしてもらう。僕らの泊まる宿は所謂高級宿で、基本的に満室になっている事は少ないらしく、要望はすんなりと受理された。
部屋に入るとパルムは速攻でベッドに潜って寝息を立て始めた。あんだけ酒を飲んでいたし、仕方がないか。僕は汚れた身体で布団に入りたくない派なので、部屋にあるシャワーで汚れを落として寝間着に着替えて、ベッドに寝転んだ。シリカも同じようにシャワーを浴びて、ベッドに入る。
「ツクモさん、仲間にするのに条件があったりするんですか?」
唐突にシリカから質問が投げつけられる。僕からしたらガチャで当たったから仲間にするのが当然なのだが、確かにシリカにしたら初対面のドワーフをすんなり仲間にしているのは、不思議に思われても仕方がない。
ガチャなんて言ってもこの世界にない概念だし、バカ正直に言っても訳わからんよな。僕はいい感じに話をまとめてシリカに回答する。
「実は、勇者はギルドの募集掲示板の前で、お告げみたいなのを聞いて仲間となる人物と出会う事が出来るんだ。」
「そうなんですね。では、私の時も…」
「シリカの時もそうだよ、シリカもパルムも僕の仲間だ。」
そう答えると、シリカは自身のベッドから起き上がり、僕のベッドに潜り込んでくる。
「ちょっと、シリカ…」
「大丈夫ですよ、パルムさんは寝ていますから。それに私も声…我慢しますよ。」
ベッドに潜り込んで来たシリカはそう僕の耳元で囁く。そんな事を言われると流されてしまう。まぁ、パルムはあんだけ酒飲んでたんだし、ちょっとそっと煩くしたって起きないか。
僕は抵抗するのを諦めて、シリカに口づけをした。
「仕方ないな…実は僕もしたかったんだ。」
「ふふ、そうなんですね。私と一緒。」
その夜は、パルムが隣りに居たことでいつもみたいな激しいのは出来なかった。だが、パルムを起こさぬように息を潜めながらというのは、バレるかもというドキドキでいつもより興奮した。いつもと違うって凄い刺激的だ。
翌朝、スッキリと目覚めた。パルムは2日酔いなのか、眠そう?だったが大丈夫だろうか。
冒険者ギルドに行くとギルドクエストが発生していた。なにやら近くで強い魔物が現れたとか何とかだったが、英雄級に達している僕ら3人に掛かれば余裕。午前中に討伐して帰ってきてやった。そしたらBランクにランクアップした。ようやくBランクだ、やった。
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《メインクエスト:次の街へ移動せよ》
ラルニア大国王都の冒険者ギルドへ行こう
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グルドクエストをクリアして“次の街へ移動せよ”のメインクエストが出た。次の街は、王都らしい。これは今までで1番大きな街になりそうだな。さぁ、早速王都目指して出発だ。




