24話 タンクとは
街に戻ってきて、何故かパルムは不安げな顔をしている。
「やはり、オレはパーティーメンバーに相応しくないのか?」
「何を言っている、既にパルムは僕たちの仲間だ。良いからついて来いって。」
僕らがやって来たのは街の武器屋だ。物語が進んできたからか、武器屋にある武器のレパートリーも豊富だ。最初の街なんて、数種類の木製武器が置いてあった程度だ。それに比べれば雲泥の差だ。
武器屋の中でも端っこに追いやられている武器。いやこれは武器とはいえない。それは盾、それも両手で持つ大盾だ。両手で大盾を持つということは、武器を持てないということ。全く需要のない装備だな。
そんな大盾を手に取り、パルムに渡す。渡されたパルムは素っ頓狂な表情で呆けている。うん、ドワーフの小さい身体には、大盾が不釣り合いにデカいな。だが、パルムのステータス的に盾のみの純タンクが良いだろう。
「今日からパルムの得物はコレだ。」
要領を得ないようであるパルムを無視して大盾を購入し、僕らはバトルオックスの居る草原に戻る。戻りながら僕はパルムに説明を始める。
まずは役割という考え方からだ。この世界の冒険者たちのパーティーは、チームとしてではなく、個々人で独立した戦力が寄り集まっただけの存在だ。全員がタンク寄り物理アタッカーみたいな立ち回りをしている、これではパーティーを組む意味がない。パーティーは個々人が役割を持ち、パーティーとして高効率で高戦力となるようにしなければならない。この話にはシリカも興味深そうに聞いている。
「…よって、攻撃役や防御役、回復役と役割を持ってパーティーを組むべきなんだ。」
「なるほど、それぞれの得意分野で活躍することで、パーティーとして強くなれるんですね!」
シリカは僕の説明を聞いてすぐに納得する。だがパルムは頭を傾げている。元侍女だったシリカとは違い、冒険者だったパルムには冒険者界の常識がある。その常識から考えて僕の意見は特異なものなのだろう。
「言いたいことは分かった。でもそれは運命共同体となる理想の戦闘集団であって、冒険者のパーティーとしては無理がある。パーティーは冒険者同士で利害が一致しただけの一時的なものだぞ。」
なるほど、冒険者の中ではそういう考えか。確かに得意分野だけ伸ばしていて、いざパーティーが解散になったりでもしたら、ソロでは活動できなくなる。だが、僕のパーティーではロール方式でないといけない。ラスボスは魔王?なんだ、そこら辺に居る雑魚魔物を倒すのとは相手が違うのだ。
「パルム、最初に言っただろ“仲間になってくれ”って。冒険者の一時的なパーティーじゃなくてさ、運命共同体となって互いを支え合い補い合える仲間になって、最高で最強のチームを作ろうよ。」
パルムは驚いた顔を見せ、うっすらと目に涙を浮かべた。
「オ、オレさ、DEXが低くて、攻撃が当たらないんだ。」
思わず手をパルムの頭に持っていく、年上だけどドワーフで小柄だから頭上に手を持っていきやすい。シリカにするような優しく愛でる頭撫で撫でではない、ガシガシと力強く真の仲間にするスキンシップだ。
「出来ないことは出来るやつがやれば良い、それが仲間だ。攻撃は僕とシリカに任せてくれ。」
「オレは何をすれば良い?」
「パルムは僕らを守ってくれよ。僕は魔法使いだからな、パルムみたいにVITが無い。パルムが守ってくれないとすぐに死んじゃうぞ。」
「分かった。オレ、皆を守るよ。最強のタンクになる。」
なんか、いい雰囲気だ。この流れで勇者もカミングアウトしちゃお。パルムにステータスウィンドウを表示させ、パルムをレベルアップさせる。既にレベル6なので、経験値180と245を使ってシリカと同じレベル8にする。この前魔族を倒してガッポリ経験値が手に入っているので余裕だな。
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パルム Lv.8
種族:山小人 クラス:重戦士
HP :116 MP :34
STR:103 VIT:144
DEX:20 AGI:47
INT:61 MND:75
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急に上昇した自身のステータスを見て、パルムが驚愕している。
「実は僕、勇者なんだ。その証拠に、こうやって仲間をレベルアップさせて強くする能力?みたいなのがあるんだ。」
「ええ!!!!?」
この際だ、魔族を倒して手に入れた経験値も使っちゃうか。どうせ僕のステータスは200超えちゃって、英雄域とやらに入っちゃてるみたいだし、それにいつの間にか付いていた勇者の称号も受付嬢に見られちゃってるし。経験値2928を消費しシリカをレベル12に、経験値3395を消費しパルムをレベル13に、レベルアップさせた。
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シリカ Lv.12
種族:人間 クラス:打撃者
HP :176 MP :71
STR:222 VIT:200
DEX:157 AGI:136
INT:71 MND:136
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パルム Lv.13
種族:山小人 クラス:重戦士
HP :196 MP :54
STR:173 VIT:244
DEX:30 AGI:77
INT:101 MND:125
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よし、これで2人も僕のステータスに追いついてきたな。パルムはなんか自分のステータスを見て、泡吹いてるけど、まぁいいか。さて、バトルオックスをボコってどれくらい強くなったか確かめましょ。
草原に着くと先程同様にバトルオックスが、鼻息荒く突進してくる。その突進はパルムの大盾により一瞬で停止させられてしまう。ステータスも上昇し、更に戦斧の柄よりも防御に適している盾である、パルムの防御態勢をバトルオックスの攻撃では崩せない。そこにシリカの攻撃が入り、バトルオックスは一撃で光となって消えた。
その後も、バトルオックスの攻撃をパルムが受けて、僕やシリカが攻撃し倒していく。僕やシリカとしても、相手の攻撃をパルムが惹きつけてくれるので、非常に戦いやすいし楽だ。
「どうだ、タンクは?」
「楽しい、かも?」
「そうか、それは良かった。」
パルムは徐にウィンドウを開き、アイテムボックスから1つのアイテムを取り出し渡してくる。渡されたのは小槌だ。特に武器になりそうな大きさでもないし、なんだろうか。
「これ、ドワーフに伝わる“うちでのこづち”って言うアイテムなんだ。オレが持ってても意味ないから、ツクモにあげる。」
「いいのか?」
「めちゃくちゃ貴重な物だけど、良いんだ。オレたち…仲間だからな。」
パルムは照れくさそうにそう言った。貰った“うちでのこづち”というアイテムを見てみると、どうやら魔物を倒した時のレアドロップを落とす確率を10倍にするアイテムらしい。ドロップ品はラストアタックをした人のアイテムボックスに入る。つまりこのアイテムを持った人がラストアタックをしないと効果がないって事かな。それなら確かに、純タンクになったパルムが持つより僕が持っている方が良いか。
今思うとラストアタック者がドロップ品を貰えるというこの世界のシステムも、冒険者全員がタンク寄り物理アタッカーになる要因なのかもな。そりゃ皆ドロップ品欲しいだろうし。全く盲点だったな、これからはタンクのパルムのためにも、ドロップ品の売上は山分けにしよう。
“うちでのこづち”の効果はすぐに出た。バトルオックスの通常ドロップ“ロース肉”の他に、Rというマークの付いた“フィレ肉”がアイテムボックスに入っている。これまでたまにRというマークの入ったドロップ品があったが、レアドロップのRだったんだな。ヒントが見れるっぽいので見るとドロップ品のレアリティについてウィンドウが出てきた。
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《ヒント:ドロップレアリティ》
N - ノーマル :通常ドロップ
R - レア :1%ドロップ
SR - スーパーレア :0.1%ドロップ
HR - ハイパーレア :0.01%ドロップ
UR - ウルトラレア :0.001%ドロップ
LR - レジェンドレア:0.0001%ドロップ
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ドロップ品のレアリティも幾つか有るらしい。LRの確率とか0.0001%、宝くじレベルだな。普通はこのレアリティが出る訳もないのだが、“うちでのこづち”というレアドロップの確率を上げるアイテムがあるってことは、他にもそういう系統のアイテムがある。そしてそれらを手に入れることで、最終的にはLRのドロップ品の出現率も常識的なところまで上昇させられると思う。うん、楽しみだ。




