01話 ゲーム拾いました
九十九弘世、少し変わった苗字を持つ高校2年生男子こそが僕だ。両親が共に長期出張で海外に居て、現在は祖父母の家から通学している。
祖父母の家がそれなりの田舎の為、高校からは電車で30分、バスで20分移動したあと、徒歩20分で帰宅できる。因みに電車からバスへの乗り換えに、30分から1時間程待つ必要がある。そんな事情のため入部必須な高校ながら特例で帰宅部を認められている。
クラスメイト達は同じ部活同士で仲良くする為、唯一帰宅部の僕は若干浮きがちではある。と言っても入部しても幽霊部員になることで、ほぼ帰宅部となる人もいるのでそういった人達と喋っていたりする。そうボッチではないのだ。入学当初はボッチになるかとヒヤヒヤとしていたが、案外なんとかなるもんだ。
幽霊部員と言っても、不良というわけではなく、単純に部活内の雰囲気が合わないとか、別に興味があることができたとかで、普通に良い奴らだ。ゲームや漫画の話も合うし、喋っててもなかなか楽しい。
今日も学校での会話を思い出し、一人ニヤニヤしながら、長い長い帰路についていた。
バスを降りアスファルトで舗装された道から、土と草で剥き出しの道へと進んでいく。綺麗な川と長閑な田園が何処までも続いている。偶にすれ違う村のご老人に挨拶をして、絡まれては世間話をしてまた歩き始める。
こうして祖父母の家まであと少しとなったところで、道の土手に変な物を見つける。この形は見たことがある。僕が毎夜プレイしているVRゲームのゲームソフトのパッケージだ。拾い上げると見たことも無い文字で、タイトルやゲームの説明が綴られている。その他、レーティングマークやハードウェアの名前などは普通についている。VRゲームをやり込んでいる僕が知らないのだ、相当マイナーなゲームだろう。丁度、現在プレイしているゲームに飽きてきた所だ、プレイしてやろう。そう思い拾ったゲームソフトを片手に足早に家へと帰った。
VRゲームなど絶対知らないであろう年齢の村人しかいないこんな田舎に、なぜ最新VRゲームのマイナーゲームソフトが落ちているのかという疑問は、新しいゲームをプレイするワクワクでかき消えていた。
家に着くと祖父母への帰宅の挨拶し、早めの夕食を済ませる。入浴も最低限の時間で行うと、自室へと籠もった。
VRゲームの電源を入れて、入っていたゲームソフトを取り出し、拾ったゲームソフトを入れる。上手く動作し、壊れていない事にホッとすると、早速VRゴーグルを装着しベットへ横になる。
すぐに没入感が始まり、ゲームがスタートする。パッケージにもあった、見たことない文字のタイトルが出現すると、テキストが表示される。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
キャラクタービルドを行います
10の試練の達成度によって、プレイヤーの強さが確定します
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
表示された見たことも無い文字はすぐに日本語に翻訳され、テキストを読むことができた。早速次へ進み10の試練とやらを受けることにする。
出された試練は学校で習うようなものから、ナゾナゾ、反応速度を確かめるもの、リズムゲームなどミニゲーム的な10個の問題を行った。成果は10個中6個クリアであった。再挑戦できるらしいが、早くゲームをプレイしたい僕は構わず次に進む。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
名前、種族、クラスを決定してください
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
次に、名前と種族とクラスを決めるらしい。名前は僕がよく使うハンドルネーム“ツクモ”にした。苗字そのままなのだが、珍しい苗字のためハンドルネームぽくなっていて気に入っている。
種族選択に進むと数十の種族名が並ぶ。その中には人間の他に森人や山小人があることから、ファンタジー系ゲームであることが分かる。ファンタジーRPGゲームは王道中の王道だが、僕はそういうのが好きだ。変にオリジナル性や難解なゲーム性を出すゲームが増えているので、僕の中でのこのゲームへと期待度が上がる。
さて、種族か。どうするか、ひとまず人間を選択してみる。すると、目の前に水面のような鏡が現れ自身の姿を映し出す。どうやったのか分からないがリアルの自分に酷似したキャラがそこにはいた。へぇー、マイナーゲームにしてはなかなか手の込んだゲームなんだな。さらに期待が上がる。
人間を辞めて、森人を選択してみる。先程のリアルの自分に瓜二つのキャラから、少し背が伸び痩せ型へと変わる。髪は金髪で長めに、耳も先端が尖り伸びている。海外モデルのような見た目なのだが、顔自体は純日本人である元の僕ベースなので、かなりの違和感がある。というか違和感あり過ぎて気持ち悪い。
次は山小人にしてみる。背が小学校高学年程になり、体型は太ってガッチリとしたものへ変わる。髪はが伸び、髭も生えている。小柄小太りおじさんになってしまった。これもチョット無理だな。やっぱりカッコイイ方がいい。ダンディではあるかもだが、高校生の僕には合わない。
その後、幾つもの種族を試してみた結果、闇人に落ち着いた。見た目は元の顔ベースにイケメン補正が入り、背が少し伸びている。肌がやや焼けて小麦色の肌になっている。髪や目は黒のままだ。うん、カッコいいね。これにしよう。
因みに、他に試した中で最悪だったのが、邪人だ。背が少し縮み、痩せ型の体型に、ブサイク補正の入った顔。言い方は悪いが、犯罪者に見えてしまう。元の僕をベースにコレになったと思うと、落ち込んでしまう。
さて、次はクラス選択だ。種族の数倍の量がリストで表示される。この量を全部見るのは面倒くさい。パッと見は所謂RPGゲームもしくはファンタジー系に出てくる職業のようだ。ここは方向性を絞って、折角ファンタジーゲーム恐らくRPGだろうから、魔法職系が良いよな。やっぱりゲームでも魔法を使えのは楽しい。魔法職系を見てみる。魔法戦士や賢者など、戦士職や僧侶職と合体したマルチなクラスもある。しかし、こういうRPGゲームは役割分担させるのが鉄則、魔法アタッカーの方向性でビルドしたいから、純魔法職が良い。純魔法職を見ていくと、どうやらいきなりゲーム内で上級職に分類されるクラスを選択できるらしい。ということで純魔法職の上位職魔導士を選択する。
魔導士を選択すると村人っぽかった服が光に包まれ、黒いフード付きのローブへと変わる。黒のローブには、赤と紫の線が入っており、ちょっと中二病っぽいがカッコイイ。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
キャラクターの潜在力を決めてください
潜在力に応じて、レベルアップ時のステータス値上昇量が変化します
残りポイント:31
HP :1 MP :2
STR:1 VIT:1
DEX:2 AGI:1
INT:3 MND:2
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
ステータスが出てきた。本格的にRPGゲームっぽい、楽しみだ。ステータスだが、なぜか既にいくつかのポイントが振られている。既に振られているポイントからは下げられないみたいだ。よくあるステータスだし、各々大体は予想できるが念のため詳しく知りたいな。なんて思っていたら、ヒントが見られるらしい。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
《ヒント:ステータス》
HP … 体力、ダメージを受け数値が0になると瀕死になる
MP … 魔力、スキルや魔法を行使するときに消費する
STR … 筋力、物理攻撃力に影響
VIT … 耐久、防御力に影響
DEX … 器用、命中力に影響
AGI … 敏捷、回避力に影響
INT … 知力、魔法攻撃力に影響
MND … 精神、回復魔法や抵抗力に影響
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
ヒントを見たが凡そ予想通りといったところだな。とりあえず魔法職に必要であろうMPとINTに極ぶりしてみるか。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
残りポイント:16
HP :1 MP :10
STR:1 VIT:1
DEX:2 AGI:1
INT:10 MND:2
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
極ぶりしようとしたが、MAXが10らしい。残りは16ポイントか。魔法職でも命中力はいるだろうし、DEXは上げたほうがいいな。紙装甲で敏捷極ぶりもロマンがあるが、VITとAGIはそれなりに振りたい、HPもそこそこ上げたい。STRやMNDは必要なさそうだし、このままでいいか。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
残りポイント:0
HP :6 MP :10
STR:1 VIT:3
DEX:8 AGI:4
INT:10 MND:2
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
よし、振り終わったぞ。ステ振りで悩んでても仕方無いし、こういうのは勘で行くのがいい。まぁ、これまでの感じから王道ファンタジーRPGっぽいし、このステ振りで大きく失敗することはないだろう。このステ振りで決定すると、最後の確認画面が出てくる。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
以下のキャラクターで冒険を始めますか?
ツクモ (☆6/男/17歳)
種族:闇人 クラス:魔導士
--潜在力--
HP :6 MP :10
STR:1 VIT:3
DEX:8 AGI:4
INT:10 MND:2
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
なんか知らぬ間に年齢とか入力されてる。リアルの見た目を認識してたのも変だし、少しの引っ掛かりを覚えつつ、冒険を始めることにする。
すると突如としてVRの没入感が深くなる。飲み込まれるようなあまりの深さに、VR酔いを引き起こす。脳みそがぐちゃぐちゃに掻き回されているようで、頭痛と吐き気が僕を襲う。そしてそのまま刈り取られるようにして意識が遠くへと持っていかれた。