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エロも育成も冒険も!拾ったゲームで異世界転生!  作者: えび天コロモ
第3章 商業都市と貧民街の女王
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閑話 とあるツインテ令嬢ガンナー


 あたしはマリナ。あたしの両親は商人をしていて、結構大きな事業も行っていた。でもある日その大きな事業が失敗して、両親は全てを手放すことになってしまった。住んでいた大きな屋敷も、おしゃれな家具も、そして自分自身も。恐らくあたしの両親は奴隷の身分になってしまったのだろう。本来ならばあたしも奴隷の身分になっていたのだろうけれど、両親がなんとか守ってくれたようだった。


 こうしてあたしは貧民街で暮らす孤児となった。貧民街にはあたしのような孤児が意外と多く居た。どう生活して良いのか分からなくて、貧民街の先輩孤児たちを観察してみた。ゴミを漁る者も居れば、市内に雑用仕事をしに行って、食事を恵んでもらう者も居た。でもあたしはすぐに分かった、そんな事をしていてもずっと貧民街の孤児のままであると。


 あたしは小さい頃から商人の後継者として、商いについて両親から手厚く教育されていた。そしてあたし自身も興味津々で学んでいた。商いにおいて他の人と同じことをしていても、全く意味がない。利潤とは早いもの勝ちであり、そのテーブルの席数は極めて少ないのだ。


 まずあたしはゴミを漁っている子に声を掛けた、それもたくさん。ゴミを漁る子どもたちは、食べれるものにしか興味がない。だが私は価値のありそうなものがどんなものか徹底的に教え、それをゴミの中から持ち帰らせた。そしてそれをあたしが適切な場所に売りに行く。ゴミとして捨てられたものだ、端金にしかならないが、富を生み出したという事が大切なのだ。その金で食料を買って帰るとみんな驚いたようだった。


 次に雑用仕事をする子に声を掛けた。そして支払いを食料ではなく、お金で受け取るように指導した。そして細かく料金表を設定し、労働が効率よくお金になるようにした。本当に小さな事かもしれないが、この小さな差異が結果的に生み出す富を大きく変動させるのだ。


 そんな事をしていると、上手く儲けられない人達が向こうから声を掛けてくるようになった。あたしは経営を行うように、貧民街の人々を上手に動かし、最大限の富を生み出すようになった。その頃には、みんながあたしを“お嬢”と呼び、信頼してくれるようになっていた。大きいお金もあたしのウィンドウで管理するようになった。


 そしてあたしはついに商人ギルドに商人登録した。初めて登録した日はドキドキして、次の日まで興奮が収まらなかった。商人になってからは、貧民街の人々と協力して得た富を使って、更に大きな富を得られないか、試行錯誤した。1年ぐらい色々なものを試してみて、たどり着いたのは、ドロップ品を簡単にでも加工して、違う街に売りに行くことだった。原材料が同じでも加工方法によって、売れる値段が変わるのが面白かった。日用品は売値は安いがたくさん売れる、逆に贅沢品は売値は高いがたくさんは売れない。


 商売をドロップ品の加工販売に移行してから1年が経った。商人ランクも上がり、貧民街の仲間で矢面に立つ何人かにも、商人登録をしてもらった。事業を少しづつ大きくさせて、貧民街の人々も取り込んでいった。加工場なんかも作り、加工道具も揃えていった。次第にドロップ品に出来る加工も、簡単なものだけでなく複雑な加工も可能になっていった。複雑な加工品になると、値段も上がる。加工場には子どもや老人も居るので、簡単な加工も継続して行った。


 そして事業も大きくなり、これに携わるギルド登録済み商人も増えていった。ついにあたしは商会を組むことができた。あたしは商会の会長、冒険者で言うところのパーティーリーダーのようなものだ。この頃になってくると、あたしには夢が出来ていた。それはあたしの商会を、大きくして大商会と呼ばれるようにする事だ。


 だが、小さい頃は気にも留めなかった上位の商人たちに、大きくなったことで目を付けられるようになった。勿論、商人ギルドは公正な競争を重んじており、表立って潰される事はない。それでも小さな嫌がらせは、ボディーブローのようにじわじわダメージが入ってくるものである。


 そんな商人の嫌がらせも諸共せず更に事業を拡大させた結果、ついに大商会の商人に目を付けられる。というか、ようやっと動き出したと言うべきか。後から知ったのだが、あたしはその大商会の商人の利潤を、横から掠め取っていたらしい。


 向こうもかなり焦っていたのか、大商会の商人が動き出すとあっという間だった。今までドロップ品を調達していた仕入先が、色々と理由を付けて売ってくれなくなっていった。恐らく大商会の商人がなにかしたのだろう。


 加工を担当していた人を、街の雑用仕事に行かせるなど対応をして、なんとか利益が減らないようにと奮闘した。毎日、街に赴いて仕入先を探す日々が始まった。日々焦りと不安で押しつぶされるような感覚に苛まれた。あたし1人であれば、なんてことなかっただろう。だがここに来て、あたしが今抱えこんでいるものの大きさに気付いてしまった。あたしの始めた事業には3桁の数の貧民街の人々が関わっている。事業が失敗するという事は、3桁の数の人々の首を締めるという事だ。今だけは皆の全幅の信頼が恨めしくてしょうがなかった。


 そんなある日、露店市で見かけぬ商人がドロップ品を並べて売っていた。店主の若い男は、隣に侍女を侍らせ、なにやらいやらしいちょっかいを掛けているところだった。侍女が居るってことは、どこかの金持ちのお坊ちゃんが、商人ランクを上げるために露店をやっているのかも。たまに商人の跡継ぎが、商人ランクを上げるために、やる気なく露店をやっている事がある。そのパターンかもしれない。


 だが、あたしは店主の男の格好に疑問を持った。侍女を侍らせていながら、魔法使いのようなローブを身に纏っている。魔法使いはとても珍しい職業なのだ。商人は常にあらゆるものに関心を持って置かなければならない、父親の言葉を思い出しあたしは声を掛けた。


「ねえ、あなた。その格好、魔法使いなの?」


 聞くと魔法使いらしい。本当に魔法使いかどうか確かめる為に、魔弾に魔法を籠める仕事を依頼してみる。すると本当に魔法使いらしい、それも3属性も使えると来た。魔法使い自体とても珍しい、居たとしても冒険者の魔法使いなんて1属性が関の山のはず。それが3属性も使えるなんて、魔法使いの学校に通っていたエリート?あたしは一旦思考を整理するため、その場を離れようとするが、呼び止められる。どうやら魔導銃の店に案内して欲しいらしい。


 その男はツクモという名で、侍女の方はシリカという名らしい。話しぶりからどうやら2人は主従の関係では無さそう。という事は友人同士か、婚約者か。先程声をかける前にイチャついて居たのを見るに、婚約者の線が濃厚か。婚約者なのだとしたら、このツクモと言う男の趣味で、婚約者にメイド服を着せているのか…。少し引いてしまった。


 だが、話した感じ悪いやつでは無さそうだった。あたしは自身の感を信じて、取引を持ちかけた。ツクモはすぐに承諾し、その場でドロップ品を渡してきた。それもこれまであたしが仕入れていた分に相当する量だった。加工場は久しぶりにフル稼働になった。あたしは押しつぶされそうだった心が、少し開放された気分だった。


 次の日、遅れてきたツクモはシリカを連れていなかった。どうやら別れたらしい。そらそうよ、無理やりメイド服を着させられて、街を歩かされたんだもの、当然の結果よ。あたしを待たせて心配させた罰が下ったのよ。


 なんて考えていると、ツクモはクラーケンのドロップ品を大量に渡してきた。確かクラーケンってBランク相当よね。なんか街で、大量発生したクラーケンを火魔法で全滅させた天才魔法使いが居るって噂が聞こえたけど、もしかして…。


 歳を聞くと17歳、大人っぽい顔して意外と若いのね。17歳でBランク相当の実力者かぁ。思わず、結婚を申し込んでいた。有能なものはどんな事をしても手に入れる、これも父親の言葉。婚約者に振られたなら丁度いいじゃない。あたし13歳だしね、男の人って年下の女性が良いんでしょ?もう一度真剣に言ってみるが、振られてしまった。それに加えて驚愕の事実、1週間もしない間にこの街から居なくなるらしい。


 あたしに再びドロップ品調達の問題が浮上したのだった。またあの焦りと不安に苛まれるのかと思うと、苦しくなって逃げ出したくなった。


 そして事件が起こった。深夜飛び起きると、貧民街の至る所で火事が起きていて、あたしの加工場も燃えていた。あたしと何人かの男たちで、なんとか加工場の被害を抑えられないかと、燃える加工場の前に集まった。


 そこに待ち構えていたように黒い戦闘服の集団が現れた。集団は有無を言わさずこちらを襲ってきた。あたしは父親の形見である魔導拳銃を取り出し発砲する。だが、男たちはそれなりのステータスのようで、魔導拳銃の攻撃では虚仮威しにしかならなかった。為す術もなく、あたしの仲間が斬られた。そしてあたしももうすぐ斬られるだろう。その時、大商会の商人の事を思い出した。


 なんで、ここまでするの?加工場も燃やされて、仲間も斬られて、あたしも斬られる。なんで?!孤児に落ちてから、やっとここまで来たのに!夢だって出来たのに!!あたしには幸せな未来なんて無いの?!どんなに頑張っても報われないの?!!


 そんな悲痛の心の叫びが届いたのか、あたしに剣が振り下ろされる事はなかった。ツクモが助けに来てくれたのだ。正に白馬の王子様、あっと言う間に戦闘服の集団を倒してしまった。あたしの心は限界だった、誰かに縋りたくてしょうがなかった。気付いたらあたしはツクモに抱きついていた。


 ツクモの胸に縋り付いて、ツクモの腕の中にいると、大木に寄りかかっているような安心感があった。なんて温かくて、気持ちがいいの。ツクモはあたしが自発的に離れるまで、決して離さずに安らぎで包み込んでくれていた。



 後日、ツクモが挨拶に来た。どうやら、この街を出るらしい。ツクモの隣にはメイド姿のシリカが居た。よりを戻したのかな?あたしは思わず、ツクモに縋り付いてしまう。あたしが今抱えているもの全て捨てて、ただの女として1人の男のものになりたかった。そうすれば、これからの焦りや不安から開放されて、火事の夜ツクモに抱きついた時のような、安心感で満たされる事が出来る。


 そう思ったが、ツクモは許してくれなかった。あたしがただの女であることを許さなかった。全てを背負い、立派で強い女であることを望んだ。だからあたしは、今にも抱きついてしまいそうなツクモとの距離から一歩離れ、いつもの気丈なあたしに戻るのだった。


 こうしてあたしの初恋の人は街を去っていった。…あ、そう言えば最後のドロップ品の分前を渡しそびれた。ふふ、なら次会った時、大商会の会長になって100倍にして返してあげる!その時はあたしを受け入れてくれるよね?



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