16話 VSスキュラ
シリカと1日宿でイチャイチャし尽くした次の日、メインクエストが発生した。
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《メインクエスト:海の怪物襲来》
商業都市アルカに襲来した、海の怪物スキュラを撃退しよう
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どうやら昨日から海が荒れているのは、スキュラなる海の怪物が近付いている影響らしい。冒険者ギルドに行くと、中は騒々しくなっており、ここでもクエストが発生した。
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《ギルドクエスト:海の怪物の討伐》
商業都市アルカに襲来した、海の怪物スキュラを倒そう
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どちらのクエストもスキュラという魔物に関するものだ。違うのはメインクエストは撃退で、ギルドクエストは討伐であることだ。恐らくは倒しきれずに追い返すだけでも、メインストーリーは進ませることができるということなのだろう。倒すことでギルドクエストの報酬も得られる事ができるって感じかな。
「スキュラは数十年に1度、この港に現れる海の怪物なんです。水魔法を操り港にある船を全部沈めるまで、暴れまくる災害級の魔物です。“若き英雄”と噂されるツクモさんなら、スキュラを倒しこの街を救う事が出来るかもしれません!」
若き英雄?そんな感じで噂されてるの?ちょっと恥ずかしいんだけど。でも可愛い受付嬢に期待の眼差しで、ここまで言われてしまっては仕方がない。恐らく、一定時間攻撃に耐えればスキュラが去っていって、撃退クリアになる系のイベントだと思うんだが、仕方がない。スキュラ、倒しちゃいますか。
という事で、スキュラ討伐に向けて、準備を整える事にした。道具屋で回復ポーション、魔力ポーション等のアイテムを買い込んだ。武器屋では新しい武器を新調する、お金はマリナとの取引でたんまり儲けているので余裕だ。
武器屋には、アルカの水棲魔物から取れるドロップ品で、作られた武器が並んでいる。僕は一番高かった、“大海の杖”を購入した。青色の綺麗な装飾が付いた派手目な杖だ。大海の杖の性能としては、ヒノキの杖と比べると倍以上の攻撃力で、更に水魔法にバフがかかるようだ。
ここで言う杖の攻撃力だが、基本的に魔法の威力はINTの数値で決まる、ここに杖の性能がプラスされ魔法の威力が上昇する感じのようだ。イメージとしては、INT値+杖の攻撃力=魔法の威力、みたいな感じだと思う。だから杖の攻撃力はあくまでINT値の補正って感じ。僕の場合も武器補正無しが威力100だとしたら、武器補正有りで威力105とか110とかそんなもん。本当に微々たる差だけど、無いよりはあった方がいい。
これは魔法職以外でも同じで、戦士や騎士であればINT値のところがSTR値に代わるようだ。これが弓矢であったり魔導銃だと、攻撃の威力が完全に武器依存であり、あとは遠距離攻撃なのでDEX値が高くないと命中しない、そんな感じだ。
シリカも武器を新調しており、“鱗のグローブ”を買っていた。そして防具屋に行ったのだが、僕の初期装備の上位魔法職用のローブの性能が結構良くて、新調しなくても良さそうだった。シリカの防具はただのメイド服で防御性能は低いから、新調した方が良いのではないかと思ったのだが、シリカはメイド服に拘りがあるようでそのままだ。まぁ、防具も武器同様で、VIT値の微々たる補正みたいなもんだから、別に良いんだけどさぁ。でも、シリカは前衛だし少しでも防御力は高いほうが良いよな、メイド服が良いなら今度時間がある時にでも、特注でメイド服の防具でも作ってもらうか。
冒険者達と共に荒れる海にボートで出港する。今にもひっくり返りそうな、と言うか小さいボート達は既に転覆している。だが、こんなに船が揺れているのに船酔いが無い。もしかしたらMNDが高いと船酔いも大丈夫なのかも。
港から数百メートルのところ、海面が盛り上がり海の怪物が姿を表した。下半身はタコで、上半身は魚の肌をした女性の身体をしている。人間に似ている上半身の部分だけで数メートル、タコの足の部分を入れると30メートルはある巨大な化け物だ。
「あれが、スキュラ?」
「大きいですね。」
恐らくこれまでの魔物の中で一番の強敵だろうな。手始めに杖を構えて火魔法を発動する。簡単にMPを少々注いで1本の火の矢を作り、スキュラに向かって発射する。
スキュラが言葉ではない叫びを上げると、海面が盛り上がっていき水で出来た龍が現れる。火の矢は水の龍によって無効化されてしまう。その勢いのまま水の龍が、僕らに向かって突進してくる。
やばいと思ったが、となりでシリカが構えをとる。少し溜めてから拳を正面に貫くと、迫ってきていた水の龍が弾け飛んだ。おお、すげぇ!これが打撃者。
スキュラは相当強いし、手加減なんてしてられない、最初から全力でやるしか無い。魔力ポーションの準備は万端だ。早速MP全込めで魔法を発動する。巨大な火の鳥が出来上がり、スキュラに向かって飛んでいく。スキュラが水魔法で出した水の龍たちを、華麗に避けていって火の鳥は見事にスキュラの巨体に命中した。スキュラの身体を火魔法で燃やすことが出来たが、スキュラはまだまだ余裕そうだ。これまでほとんど魔法一発で倒せてこれたので、倒し概のありそうな敵だな。
シリカも上手に冒険者たちのボートを移動して、スキュラに近付いていく。その間に僕は魔力ポーションを飲んでMPを回復させた。そして土魔法で、中を空洞にさせた岩をたくさん作り、スキュラの近くに浮かべる。これでシリカが戦いやすい足場ができただろう。
僕の思惑通り、海に浮いた岩を足場に、シリカがスキュラに向かっていく。最後の岩を強く踏みしめて、高く飛び上がった。左手を前に出して、右手は脇に引き絞る。ぎりぎりと弓を引き絞るように、右手に力を溜め込むと、スキュラに向かって思いっきり貫いた。大きな岩石がぶつかったような衝撃がスキュラを襲った。スキュラが堪らずよろけると、そこに僕の火魔法が命中し身体を焦がした。
それでも海の怪物スキュラは、高く飛び上がったシリカにタコの足を、鞭のようにしならせて叩いた。シリカは上手く防御姿勢を取れたようだが、それなりにダメージは入っている。回復ポーションでHPを回復させなくてはならないだろう。
僕は魔力ポーションを飲み終えて、すぐさま魔法を発動させた。土魔法で作った角のように尖らせた岩を発射するが、上手くスキュラに躱されてしまった。やはり、土魔法は速度が遅く、命中しにくいな。でもシリカの回復する時間は稼げただろう。
その後も30分程スキュラとの攻防が続いたが、ポーション類を惜しげもなく使って、高ダメージを与えまくった結果ついに、スキュラが弱々しい姿を見せ始めた。止めの火魔法3連発でスキュラは光の粒子となって消えていったのだった。
荒れた波が落ち着いた海に、冒険者たちの勝利の雄叫びが響いた。港に戻るとスキュラとの戦いが遠目に見えていたらしい街の人々に、大歓声で迎えられるのだった。冒険者ギルドの受付嬢にも、ツクモさんならやってくれると思ってました、と感涙して褒め称えられた。みんなに褒められると気分がいいね。
苦戦した分スキュラの経験値は1200も貰え、ドロップ品もめちゃくちゃ高く売れた。そしてメインクエストとギルドクエストをクリアしたことで、“次の街へ移動せよ”のクエストウィンドウが出てきた。いよいよ、この街ともおさらばみたいだな。
次の日、この街を出る前に僕はマリナのところに顔を出した。マリナ達は半焼した加工場の復旧作業を行っていた。マリナに街を出ていくことを伝えた。すると少し悲しそうな顔をすると、マリナは僕に一歩近付いた。そして小さな震える声で言葉を紡いだ。
「ねぇ、ツクモ…。あたしが連れてって、て言ったら連れてってくれる?」
ガチャ以外で仲間になると多分、レベルの概念が付与されない。必ず今後戦闘には参加できなくなってくるだろう。それでもマリナなら連れて行きたいって、信頼できる旅の仲間になってくれるって、僕は自身を持って言えるな。…でも、マリナにはマリナにしか出来ない事があると思うんだよね。そう思い僕は、マリナの肩を力強く掴んだ。
「マリナにそう言って貰えて嬉しいよ。…でも、マリナには皆が居るだろ?ここに居る人達を導けるのは、君しか居ないんじゃないかな?」
小声で喋っている僕とマリナの会話は、加工場にいる他の人達には聞こえていないだろう。僕の言葉に、マリナは自分でも分かっていたのだろう。加工場が燃えた事で出てしまった弱さを振り払った。
「そうね!ツクモ、あたしは必ず大商会を作って見せるわ!」
弱さを振り払ったマリナは、いつもの気丈な姿に戻った。
「またいつか、お互いに夢を叶えて会いましょう!!」
こうしてマリナとまたいつか合う約束をして、僕とシリカは商業都市アルカを出立した。




