13話 貧民街の女王
「遅い!」
商人ギルドヘ行くと不機嫌なマリナがいた。マリナの言う通り、集合時間からは若干遅れている。だってギルドクエストにキャラクエストと、イベントが大量発生したんだ仕方ないだろう。昼飯も食わずに急いで来たんだ、許してくれ。
「あれ?メイドはどうしたの?」
「あー、ちょっとな。」
「なに?もしかして逃げられたの、アハハ。」
シリカがいないことに気付き、マリナが聞いてくるが、説明するのが面倒で曖昧に答える。すると勘違いしたのか楽しそうに笑う。確かにシリカとはずっと一緒に居たからな、別れたばかりだというのに右側が寂しい感じがする。
「今日は大量発生したクラーケンを狩ったから、クラーケンのドロップ品が大漁だぞ。質はこれで問題ないか?」
早速、クラーケンのドロップ品を渡す。するとマリナは少し考え込んだ。
「あんた、ツクモだっけ。結構若いわよね、何歳なの?」
「17歳だよ。」
「17歳でクラーケンを倒す実力者…」
再びなにやら考え込みだすマリナ。しばらくして再び口を開いた。
「ねぇ、あたしと結婚しない?あのメイドに逃げられたんでしょ?あたし13歳で小柄だけどもう大人よ。それにあのメイドに負けないくらい、結構美人だと思うの。どう?」
「どう、と言われても…。それにシリカには逃げられたわけじゃないし。」
「あら、そうなの?でも結婚は真剣に考えてみてね。」
急に何を言い出すのかと吃驚してしまった。確かに美人だけど、13歳はまだまだ子供だろう。お互いもうちょっと歳をとったら、全然ありだと思う。でも、僕にはシリカが居るからね。ごめんよ。
マリナに案内されてやって来たのは市壁の外である。吹けば飛ぶような屋台の如き建物が並んでいた。所謂、貧民街ってやつだな。大都市アルカには市壁がある、そして市壁の中では市民税が発生する。それなりの稼ぎがなければ住めないのだ。こういった市壁の外の貧民街には、市壁からあぶれた人達が住んでいるのだろう。
「あたしここに住んでるの。驚いた?」
マリナはこの貧民街に住んでいるようだ。マリナは品があるし、確かに驚きはある。
「昔は中に住んでたんだけどね。親が商人だったんだけど、蒸発しちゃったんだ。」
マリナは少し昔を懐かしむようにそう言った。だがその目は希望を捨てていないような感じがした。貧民街を進むと、とある建物の前でマリナが立ち止まった。それは複数の家を無理やりくっつけたような大きな建物だった。マリナが遠慮なくそこに入っていったので、その後に僕も続く。中は広い作業スペースになっていて、小さい子供から老人まで幅広い年齢層が20人程作業をしていた。
「お嬢!」
「加工はどう?順調?」
「はい、夜までには終わりますよ。」
近くに居たおじさんとマリナがそう会話をする。マリナはここではお嬢と呼ばれているらしい。作業をしているおじさんの手元には真珠のネックレスがあった。
「あなたから受け取ったドロップ品の真珠に、穴を開けて紐を通して、ネックレスにしているのよ。他のドロップ品もここで加工しているわ。明日まとめて近くの街に売りに行くつもりよ。あなたへの払いは明日の夕方になるかしら。」
へぇー、なるほど。こうやって加工しているのか。話を聞けば加工場はあと2つもあるらしい。加工する人以外にも売りに行く人や素材を調達する人など、全部合わせて100人程居るらしい。
「へへっ、凄いだろうちのお嬢は。仕事の無い貧民街の能無し共をまとめ上げて、こうして仕事を振ってくれるんだ。まさに貧民街を支配する女王だな、ハハ。」
おじさんが自慢げにそう話す。どうやらここの人達にとってマリナは、救世主であり無くてはならない大切な存在であるらしい。
「あたし夢があるの。今はここで力を蓄えて、いつか大商会になるんだ!」
大商会。冒険者ギルドで冒険者同士がパーティーを組むように、商人ギルドの商人も商人同士でパーティーを組む、それが商会だ。大商会は沢山の商人が所属し、大きな富を動かすような有名な商会のことだ。この国の多くの大商会の拠点は、この商業都市アルカにあるそうだ。
「そのためにも。さっきの話、真剣に考えてよね。」
さっきの話?結婚の話だろうか。マリナは僕と結婚して実力のある冒険者を、手駒として手に入れたいと言うことだろうか。元の世界の僕だったら、まだ幼いけどこんな美人さんと結婚できるなんて、速攻で承諾していただろう。だが、この世界で僕はプレイヤーだ。今後も世界を旅して、強い魔物と戦って、レベルアップし更に強くなっていく。1人の女性や1つの街に縛られることは出来ない。なにより、僕自身がこのファンタジーRPGの世界で、プレイヤーとして謳歌してみたいという想い、マリナで言うところの夢があるのだ。マリナの夢は応援したいけど、巻き込まれることは出来ない。
「マリナ、君の夢を応援したい。…だけど、君の話に乗ることはできない。僕にも夢があって、世界を旅しなければならないからね。この街も1週間もしないうちに出立することになる。」
マリナが真剣に考えている以上、僕も真剣に答えなければならない。僕の答えにマリナは少し悲しげな表情で納得した。
次の日、クラーケンのような良い獲物は居ないが、Cランクの討伐依頼をたくさん受けた。ボートを漕ぐのが面倒で、水魔法を使ってみたらスイスイとボートが進むので、かなり移動が楽になった。煩わしい移動にも時間を取られることなく、効率よく海の魔物を1日かけて狩り尽くした。ドロップ品も大漁だ。
夕方ごろ、冒険者ギルドで依頼達成の報告を済ませ、貧民街の加工場へ大量のドロップ品を持っていく。すると、この量は多すぎて1日では捌ききれない明日は持ってこなくていい、と言われてしまった。という訳で、明日は休みになった。
あと、1回目のドロップ品が売れたようで、その分けまえのお金を貰えた。商人ギルドのギルドクエスト達成まであと少しといった所だ。クラーケンのドロップ品の商品は、高く売れるそうで、次の分け前分で恐らくギルドクエスト達成するだろうな。
宿に帰ってくると、シリカと僕の2人部屋なのだが、キャラクエストのためシリカは居ない。シリカとはほぼ毎晩のようにイチャイチャしていた。その弊害か、僕のアソコは今日の朝からずっと戦闘態勢だ。流石は男子高校生の性欲である。久しぶりに右手で慰めてやるかと思ったが、シリカの身体が忘れられん。あと数日だ、我慢して我慢してシリカとイチャラブするほうが、さぞ気持ちよかろう。
そう思い僕は、高ぶる気持ちを抑えに抑え、僕は静かに眠りについた。翌朝、夢精はしなかったようで安心したが、どうやら一晩中戦闘態勢だったらしい、我が息子。あと少ししたら思う存分戦わせてやるからな、と息子を宥めつつ、身支度を整える。
さて、加工場に今日はドロップ品を納めなくて良いと言われているし、どうしたもんか。シリカが居れば休日デートなんてものに洒落込めたんだがな。そう言えばシリカとは、ずっと一緒に居て夜も毎晩ヤッているが、デートというデートはしていないな。今度シリカが帰ってきたら、デートなんてものをしてみるか。
とか考えつつ、来たのは冒険者ギルドであった。この世界は娯楽が少ないし、休みであってもギルドに顔を出してしまうのが、冒険者の悲しい性というものだ。午前中は冒険者ギルドで掲示板を眺めて過ごすかな。そう言えばこの街に来て、勧誘ガチャの勧誘セレクト見ていないな。勧誘ガチャ自体は、勧誘チケット5枚貯まるまで引く気はないが、面白い種族でも無いか見てみるか。
そう思いながら冒険者ギルドの中に入る。すると煽情的な露出の多い衣服を身にまとい、ボンキュッボンのわがままボディをした、それはそれはドエロいお姉さま4人に囲まれてしまった。
「あのぉ、もしかして魔法使いのツクモ様ですかぁ?」
「はい、そうですけど…。」
「ぁあ!やっぱりぃ!!」
エロお姉さまの質問を肯定すると、嬉しそうにお姉さま達は僕の両腕を押さえるように、くっついてくる。それは物凄い密着具合で、露出したお姉さま4人のわがままボディが、僕の両腕にギュウギュウと押し付けられている。
やばすぎる。今朝鎮めた息子が、一瞬で全力全開の戦闘態勢になってしまう。こんなドエロお姉さまに囲まれたら、脱童貞したての男子高校生の防御力など、紙装甲も良いところ。少しでも息子を触られようものなら、数日溜めていたものを一気に放出してしまう自信がある。こんな事なら昨晩、我慢などせずに右手を使っておけばよかった。すまんシリカ、今の僕ではドエロお姉さまに太刀打ちすることなど到底無理だ。




