11話 魔導銃
露店で出会った少女を先頭に、街の狭い路地を歩く。少女曰く魔導銃の専門店は大体奥まったところにあるとのこと。
「あたしはマリナ、あんたたちは?」
ツインテール少女、マリナの突然の自己紹介に慌てて僕らも自己紹介をする。マリナは見るからに子どもなんだけど、立ち振舞とか言動とか結構大人びてて、敬語使ったほうが良いのか迷うんだよな。
「そう。それでお兄さんたち、あんな所でドロップ品並べて何してたの?」
「えっと、一応露店で商売してたんだけど。」
そう答えるとマリナは笑い出した。
「あ、そうなの?アハハ、この街で近くの魔物のドロップ品がそのままで売れるわけないじゃない?」
マリナ曰く、この街では毎日のように冒険者が海の魔物を倒してきては、ドロップ品を卸している。ドロップ品そのものも、その加工品も、大量に出回っているらしい。そのままのドロップ品を、わざわざ露店を出してまで売る冒険者も居ないし、露店で買う人も居ないらしい。
そこまで言われるとなんか恥ずかしいな。別に僕だって、商人ギルドのギルドクエスがなければ、普通に道具屋とかでドロップ品を最低価格で売り払ってたし。これはクエストのための試行錯誤の結果の醜態だから、気にするな僕。
「それなら、あたしと取引しない?」
そんな僕らにマリナがそういった。
「お兄さんたち強そうだしさ、並べられてたドロップ品の魔物より強い魔物も倒せるんでしょ?あたしにそのドロップ品を預けてくれたら、加工して違う街まで持っていって、高く売ってあげる。かなりの利益が出るはずだけどどう?」
なんと、すごく魅力的な提案だ。そんなの即決オーケーっすよ。
「そう、なら売上の取り分は4対1ね。勿論あたしが4で、お兄さんたちが1、加工から販売まであたし側なんだから当然ね。寧ろ譲歩したくらいよ。」
全然良い、こっちは全く売れてなかったんだからな。早速今日取れたドロップ品をマリナに渡す。
「結構多いわね。次からは量よりも質、なるべく強い魔物のドロップ品をお願いね。」
んー、もっと強い魔物のドロップ品かぁ。今のドロップ品はDランクの討伐依頼の魔物なんだよな。討伐依頼は受けられないけど、BとかCランクの討伐依頼の魔物を狩ってくるか。
「到着よ、ここがアルカにある魔導銃専門店シビル・デスノスよ。」
なんだその名前、とか思いつつ店を見る。看板もないし外見はただの民家だ。中に入るマリナを追う。中に入ってもまだ、ただの民家だ。椅子に1人の初老の男性が座っている、普通に部屋でリラックスしている感じだ。これ、マジでただの民家に間違って入ってきたのでは?と思っていると初老の男性の目が鋭くなる。
「マリナの嬢ちゃんに、そっちは新顔だね。今日は、奥かい?それとも私の話し相手になってくれるのかな?」
「久しぶりね。残念だけど、あたしが来る時は奥にしか用事はないわよ。」
男性は少し残念そうな顔をして、立ち上がった。引き出しを開けて中から、十何種類もの鍵が一緒になったリングを取り出した。そして奥にある扉に進み、十何種類の鍵から1つを扉の鍵穴に挿して、解錠する。男性はついて来な、と言うと扉を開き奥へと進んでいった。
マリナはそれに躊躇うこともなくついて行く、その後ろを僕らもついて行った。扉の奥は急階段になっており、そこを降りると狭い地下室だった。狭い地下室にはショーケースがあり、中には魔導銃が並べてある。
おい、なんだこの雰囲気、カッコよすぎだろ。ファンタジーRPGの中に居ると思ってたら、洋画の世界が始まったみたいだ。さながらガンアクション映画にある、武器調達のワンシーンみたいで興奮する。
「それで、何をお求めで?」
「ああ、客はあたしじゃないんだ。こっちのお兄さん。」
店主の男性とマリナの視線が僕に向く、雰囲気に呑まれてしまって少し緊張してしまうが、頑張って声を絞り出す。
「銃が欲しいんだが、初めてなんだ。」
それを聞いて店主の男性が視線をマリナに戻す、するとマリナが店主に目配せをした。なんのやり取りなのか分からなかったが、なんかお前らカッケェなおい。
「でしたら、まずは魔導銃の説明を。魔導銃は魔法が使えない人が、魔法を使うために作られた武器だ。普通に魔法を使うよりかなり威力が下がるし、本体は当然の事ながら消費する魔弾の値段も高い。金食い虫だとよく言われているよ。魔法使いは普通に魔法を使う方が良いし、魔法が使えない者も弓で矢を撃つほうが良い。…だが、勿論少ないが利点もある。魔導銃は魔法発動まで一瞬だ、それに連射もできる。なにより使用者のMPの消費もない。運用方法や使い時によっては、かなり優秀な代物だ。」
なるほどな、即発動するというのはかなりの利点じゃないかな。魔法使いは少なくとも、数秒は魔法発動までに時間を要する。威力がどれくらい下がるのかわからないが、結構使える場面は多いのでは?特に問題となる魔弾の購入費用だが、魔法職である僕は空になった魔弾に魔法を籠めて補充ができる。金食い虫なデメリットを無くせるし、魔弾に魔法を籠める事で、毎日多少余っているMPの使い道にもなる。
「魔導銃は主に4種類、小型で取り回しやすい魔導拳銃、遠くまで魔法を届かせることができる魔導小銃、同時に複数の魔法を発動できる魔導散弾銃、そして高速で魔法を連射できる魔導機関銃だ。うちにあるのは魔導拳銃が殆どで、あとは魔導小銃が何丁かあるだけだ。」
部屋に入った時には魔導拳銃と魔導小銃は見えていたけど、他にも魔導散弾銃や魔導機関銃があるのか。世界観ぶち壊しだけど、見てみたいし、撃ってみてぇ。
「あくまで最低額だが、魔導拳銃で10万ゴールド。魔導小銃は桁が上がって100万ゴールドはする。魔導散弾銃なんかはその10倍、魔導機関銃になると更にその10倍の1億ゴールドだ。うちなんかには仕入れすら出来ないね。」
1億ゴールド!?凄い桁が出てきたよ。でもRPGならお金のインフレでいつかは買えるはず。取り敢えず今回購入できそうな魔導拳銃を見せてもらう。
「魔導拳銃は回転式拳銃と自動拳銃がある。撃つ魔弾を選択できる回転式拳銃、早い連射と多い装弾数の自動拳銃どっちが良い?」
回転式拳銃はマリナが持ってたやつだな。シリンダーを回すことで撃つ弾を選べる、つまり撃つ魔法の属性を選べる汎用性がある。だが僕はカッコよさで銃が欲しいんだ。回転式拳銃も良いが、やっぱり自動拳銃の方がカッコいい。
「自動拳銃がいい、おすすめを何丁か見せてくれ。」
そう言うと店主の男性は、何種類もの鍵が付いたリングを漁って鍵を選ぶと、自動拳銃の並んだショーケスを鍵を開ける。その中から1丁を取り出した。
「金持ちがよく買うのは、こいつP200R。威力2で装弾数は8発。弾持ちもいいし、金持ちが遊びで持つにはいい銃だ。だが…君は冒険者だろう?ならこれはやめた方がいい。」
僕を見てそう言うと、店主はP200Rを仕舞う。
「威力1や2の銃は護身用だ。間違っても魔物相手に使う代物じゃない。対魔物なら威力5以上の武器を選ぶべきだな。」
威力?聞けば威力の数値が上がると一発一発の魔法の威力が変わるらしい。ただし威力の数値が上がれば、その分魔弾1発から撃てる魔法の数が減るらしい。威力の数値は1、2、5、10、25、50と6段階あるようだ。魔弾にMP50相当の魔法が入った事から、恐らくは威力はMPに紐づいていて、威力1なら50発、威力2なら25発、威力5なら10発となっているのだろうと推察する。
「こっからが本番だ。キュロル36、威力5、装弾数12発、値段は40万ゴールド。MM-Gスタイル、威力10、装弾数15発、値段は45万ゴールド。オリオンKR、威力10、装弾数18発、値段は50万ゴールド。P2500R、威力25、装弾数12発、値段は60万ゴールド。値は張るがどれも一級品だ。」
店主はつらつらと銃の説明をしながら、計4丁の自動拳銃を机に並べた。弾は入ってないから自由に触ってかまわないと言われる。恐る恐る、4丁の中で1番カッコよく感じたオリオンKRを手に取った。
「オリオンKR、正式名称は“K16 type-R”。K16の装弾数を増やしたモデルだ。オリオンって人が使ってたとかで、オリオンKRって呼ばれてる。」
店主が、僕の持った銃の説明をしてくれているが、そこはあんまり興味ない。初めて持った拳銃は結構重くて、金属で出来ているのがわかった。子供の頃に持っていたエアガンとは全然違う。
「同じのがもう1丁あったりしますか?」
「ん?あるにはあるが。」
「じゃあ、このオリオンKR、2丁買います。」
ふふ、なんで同じの2丁買うかって?そんなの決まってるでしょ。魔法を発動する銃といえば、魔法科○校だろ、2丁の拳銃で司波○也ごっこができるよ。さすおに!なんてね。
魔弾は自分で魔法を籠めれるから、空の魔弾を9ダース、それとオリオンKRの換えの弾倉を4つ購入し、合計で122万ゴールドもした。ああ、結構貯まってた金が一瞬で無くなる。
「そういや、マリナの回転式拳銃もここで買ったのか?」
「いえ、小さい頃に御父様が護身用にって、特注で作ってくれた形見なのよ。」
形見?ってことはもしかしてマリナのお父さんって亡くなっているのか?これは気不味い質問をしてしまった。マリナは愛おしそうに特注らしい回転式拳銃を撫でていた。
「他の街でも武器屋の店主に魔導銃を見せれば、専門店の場所を教えてくれるだろうさ。」
お金を払い銃と弾を受け取るときに店主がそう教えてくれた。なるほど武器屋の店主に聞けばいいのか。お店を出るとマリナとはここで別れる事になる。
「取引の件だけど、明日詳しく話すわ。明日の昼に商人ギルドで集合ね。」
そう言ってマリナは去っていった。そう言えばマリナと取引したんだっけ、銃に興奮してて忘れてたわ。




