07話 プシカの街
「結構大きい街だね。」
「街の中では小さい方ですよ。」
プシカの街に移動した僕は、はじまりの街との規模を比べ、思わずそう呟いてしまったのだが。シリカによって否定される。これで小さいのか、あるかわからんがRPG定番の王都とか、だんだけでかいんだろうな。
シリカは僕の少し後ろを従者のようについて歩いている。まだ侍女の癖が抜けないのだろうか?だがまぁ、夜に宿で2人きりになると急にスキンシップが激しくなる。僕だけが知るシリカみたいでなんかドキドキするね。昼間だけど、早速宿を取って致しちゃう?この街に来るまでの、馬車での移動の間は出来なかったからね。
いや、駄目だ駄目だ、女に溺れてはいけない。メインはRPGだぞ、色恋は程々にだ。シリカは夜に楽しめば良いのだ、昼間は冒険しなければ。
ということでプシカの街の冒険者ギルドに訪れる。受付に今日から暫くこの街で活動する旨を伝える。
「どうも、ツクモです。Eランク冒険者で、今日からこの街で活動を行いたいと考えています。」
「同じく、Eランク冒険者のシリカです。ツクモさんと2人パーティーです。」
僕らははじまりの街の受付嬢に教わったとおりに、自身のステータスを見せながらそう挨拶をした。受付嬢は慣れた手付きで、ステータスを見ながら何かメモを取っている。メモを取り終わると、こちらに笑顔を向けてくれる。
「Eランクとは言ってもステータスも高いですし、すぐにランクアップなさるでしょう。御二人の活躍を期待しています、プシカの冒険者ギルドへようこそ。」
受付嬢への挨拶が終わると、クエスト達成のウィンドウが開かれ、報酬が貰える。なんと報酬は“勧誘チケット”だった。超絶嬉しい!だが、ノーマル勧誘ガチャを回す気はないよ。ちゃんと5枚貯めて、プレミアム勧誘ガチャを回して、最高の人材を発掘するんだ!やっぱり少数精鋭って素晴らしいよな。
でも、一応募集掲示板を見に行っちゃう悲しき僕。
あれ?勧誘セレクトの種族のところ、なんと人間以外にも、獣人があるぞ!?獣人と言えばケモミミっ子だよ。自身のキャラクタービルドの時には、男のケモミミはキモいな、と思って獣人をスルーした。だが勧誘ガチャは勧誘セレクトで性別も選べるし、ケモミミ美少女を確実に仲間に出来る。やばい、めっちゃ!引きたい!!
僕は慌てて、勧誘ガチャウィンドウを閉じて、シリカに向き直る。そしてその双山に視線を下ろす。
目の前に巨乳がある、ケモミミに惑わされるな、プレミアムを回すんだろ。あるもので満足するんだ!おっぱい、けもみm、おっぱい、おっぱい、おっぱい、けもm、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、けm、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい・・・。最低だ、俺って。とりあえずほっぺ殴っとこう。ボコ。
「ど、どうされたのですか!?」
目の前には心配そうにするシリカが居る。
「いや、僕にはシリカが居ればそれでいいって思ってな。」
そうだ、ケモミミなんて要らないのだ。巨乳はケモミミより強し、良い名言だな。え?巨乳のケモミミ美少女が現れたらどうするんだって?ウルサイよ!!!
なにやらシリカが顔を真赤にして、モジモジされておる。どしたの?
「あ、あの。…宿、行きますか?」
そうっすよね。街までの移動で疲れましたもんね?昼間から休んでもいいっすよね。行きましょう、是非行きましょう。そして、明日の朝までとことん疲れを癒やしましょうとも!!
あら、また賢者になってしまったようだね。朝日を受けながら目を開く。毎度この時ほど幸せを感受することはない。プシカの街の宿は、はじまりの街より少しお高いが良い部屋だ。これが王都の宿ならどんなスイートルームになるのやら。
◇ ◇ ◇
プシカの街に来て3日、昼間はEランクの討伐依頼をこなしては、宿に戻ってシリカの身体を楽しむと言った生活を続けていた。
Eランクの討伐依頼の対象となる魔物は、どれもゴブリンより強くゴブリンソルジャーより弱い程度の魔物なので、あまり戦いがいがない。とは言えたくさん狩った事でそれなりに経験値も入ってきた。シリカを経験値72を消費してレベル4に、更に経験値128を消費してレベル5までレベルアップさせた。
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シリカ Lv.5
種族:人間 クラス:格闘家
HP :78 MP :33
STR:96 VIT:87
DEX:69 AGI:60
INT:33 MND:60
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シリカもレベル5になり、本格的にEランクの討伐依頼では、相手が雑魚すぎる。経験値効率的にもランクアップしたい。ギルドクエストも発生しないし、受付嬢に聞いてみた。受付嬢の話ではランクアップの仕組みは教えられない、ランクアップの際はこちらから声をかけるとのことらしい。
やはりギルドクエストをクリアし名声を上げることで、ランクアップしそうだな。そうなるとギルドクエストの発生待ちだが、もしかしたら何か発生条件があるのかも。モ○ハンみたいにキークエがあるとか?なら、とりあえずEランク依頼を網羅していくしかないね。
でも面倒くさい依頼もあるんだよな、護衛依頼とか採取依頼とかさ。経験値入らないし、拘束時間長いしで、あんまりやりたくないんだよ。危険は少ないし実入りは良いから、この世界の冒険者には人気みたいだけどね。
ギルドからの帰り道、そんな風に考え事をしていると、声を掛けられる。
「お兄さん!お兄さん!」
声のする方へ向く、何もない、まだ下のようだ。視線を下げると、ピョコっと頭に生えた獣耳、後ろの方でチラリと見えるのは尻尾。獣人の童女ではないか。何という可愛さだ!モフりたい、そのピクピクと動いておるケモミミを、モフりたい!!ふりふりと猫じゃらしのように誘っている、ケモノ尻尾をフサフサ撫で回したーい!!
「あの、マーサ食堂で美味しい料理を食べませんか?」
ケモミミ童女の声で我に返る。危ない危ない。食堂?よく見ると、小さな体で大きな板の看板を持っている。看板には「マーサ食堂~安くて、美味しい、最高の食堂!!~」と書かれている。うむ、どうやらキャッチらしい。
超カワケモミミキャッチ童女が、心配そうにこっちを伺っている。何度その仕草は!行っちゃう、行っちゃいます。食堂だろうが、世界の果てだろうがイッテQします!!
「ちょうどお腹が空いていたところなんだ。そのマーサ食堂に案内してくれるかい?」
そう返事すると、笑顔になり嬉しそうに尻尾をブンブンと振り回した。そのままマーサ食堂とやらに案内してくれる。案内されたマーサ食堂は、正しく大衆食堂と言った感じだ。外見も見窄らしく内装も凝られていない、中では低ランク冒険者や低所得労働者が、賑やかに酒や料理を楽しんでいる。
「マーサさん、お客さんを連れてきました!」
「おお!よくやったねリリ。混んできたし客引きはもう良いよ、料理を運んでおくれ。」
ケモミミ童女が声をかけると、奥で料理を作っていたガタイの良い女将がそう言った。ケモミミ童女の名はリリと言うらしい。
「お客さん2人?どこでも空いてる席に座ってくれていいよ。」
店の入口で立ち竦んでいた僕とシリカに女将がそう声をかける。そう言われて僕らは開いている2人席に腰掛けた。店内はお客さん同士の話し声や笑い声で、ガヤガヤと騒がしい。大衆食堂といった感じだが、実はお金に余裕のある僕らは、普段はもう少しグレードの高く落ち着いた料理屋で食事をしていた。正直、お店の雰囲気に圧倒されてしまっている。
呆けてしまっている僕らにリリが近づいてきた。どうやら注文を聞きに来たらしい、だがメニュー表がない。どうしようかと悩んだ挙げ句、オススメを2人前と2人分の水を注文した。ふー、少しテンパってしまった。尻尾を振りながら下がっていくリリの後ろ姿で癒やさされておく。
「あれは…獣人の奴隷ですね。」
リリを眺めているとシリカがそう言った。
「奴隷?」
「首の所に奴隷紋があったので間違いないです。獣人はSTRが高いですから、力仕事の奴隷として人気があるんですよ。」
へぇー、奴隷なんて居るんだな。まぁ異世界転生では定番か、よく主人公が奴隷少女を買ったりしてるし。でも、どうやらガチャを回して仲間にしないと、レベルの概念が付与され無さそうなんだよな。異世界転生ものを知っている身としては、奴隷少女にはちょっと憧れがあるんだが、レベルアップさせれないとどんどんお荷物になっていくよな。僕には関係無さそうだ。
「シリカの周りにも奴隷が?」
「はい、私が働いていた貴族様の邸宅にも多くの奴隷が居ましたよ。ただ獣人の奴隷は居ませんでした。貴族の方や一部の人々は獣人を嫌いますから。」
「嫌う?それまた何で?」
そこに僕らの話を聞いていたらしい女将さんが話に入ってくる。
「ふん!獣臭いとか汚いだとか馬鹿だとか、色々言ってるな。だが、うちの客にはそんな事は言わせないさ。むさ苦しくて汗臭い馬鹿な冒険者たちだ、獣人がどうたら言う前に、あんたらが風呂入りなってんだ!リリは奴隷だけど、うちのカワイイ娘同然さ!」
女将さんはそう言うと近くに居たリリの頭を手荒に撫で回した。どうやらこの世界にも種族差別があるらしい。てか、いいなぁ僕もリリの頭撫でたい。そう言えば僕、人間じゃなくて闇人何だけど、差別されてたりするのかな。シリカに小声で聞いてみると、闇人は希少な魔法使いを排出する種族として尊敬されてるらしい。




